第164話 20年前に聞いた10年前に生まれた曲

 さて、スパイを探し出す作戦が始まったとはいえ、正直俺達に出来る事なんかほぼ無いと言って良い。だって監視役なんて絶対出来ないからな。


 そういうわけで、犯人のめどが付くまでは、俺達は俺達の仕事を全うしようという事に。


 そんな俺は、オルトルートさんとユリアーナの練習風景を見学している。今俺の目の前で演奏されているのは、俺が日本で好きだったゲーム「最後の幻想13」の音楽だ。


 以前リバーランドでこの曲を聞いた時は、異世界でいきなり日本のゲームの音楽が演奏された事にすげえびびってしまったが、今こうして聞くとやはり名曲だ。


 そういやフェルテンの話によれば、ユリアーナは15年以上前に楽器を発明したとか言ってたな。色々ありすぎて、その辺りの事を聞くのをすっかり忘れてたわ。


 そんな事を考えていると二人の演奏は終了した。


「素晴らしかったです」


 俺は拍手と共に素直に賛辞を贈った。


「私達の演奏の価値を分かる相手なら、何度だって聞かせてあげるわよ」


 オルトルートさんは自信満々にそう言ってきた。若干顔が紅潮しているので、俺の誉め言葉がかなり嬉しかったんだろう。


 最近分かってきたんだが、この人ちょっとツンデレっぽいんだよな。クールに装おうとしてるんだけど、嬉しさが隠しきれてないっつーか。


「まあ、私達のファンの間でも人気の曲だもんね」


 へえ、この世界でもゲーム音楽は人気あるのか。まあ、元が神曲だから当然と言えば当然だろう。


「なんでシンちゃんがどや顔してんのよ」


 おっと、日本のゲーム音楽が人気があると聞いて、ちょっと誇らしい気持ちが顔に出てしまったぜ・・・。


「私ちょっと休憩してくるわ。あなたも休息取りなさいよ」


「はーい」


 そしてオルトルートさんは、ユリアーナにそう言うと部屋を出て行った。たぶん飲み物をもらいに行ったんだろう。


「二人きりだねシンちゃん」


 俺と二人になった途端そんな事を言い出すユリアーナ。


「あ、そういうの良いんで」


「はやっ!もうちょっと動揺したりとかあっても良いじゃん!」


 もう何度このやり取りをしてると思ってるんだ。動揺なんかするか!


「と言うか、前から聞いてみたいと思ってたんですが」


「何よ?」


 ユリアーナは少し頬を膨らませながら応じる。


「このゲーム音楽とか、いったい誰から教わったんです?もしかして澤田さんとかですか?」


 そうは言ったものの、日本でも澤田さわだのイメージからして、どうもゲームをやっているような想像がつかないんだよなあ。もしかしてアリサか?


「違うよ~。澤ちんはゲームなんかしたことも無いって言ってたし」


 あーやっぱりか。


「だとするとアリサさんですか?」


「ぶぶー!残念!」


 あれ?じゃあ俺が知らない転生者って事か?


「すみません、全然わからないです」


 俺が知らない奴だったら、それはもうお手上げというものだ。ただ、同じゲームを好きなくらいだし、近い年齢の奴かもしれないな。


「あはは、それは仕方ないよ~。だって教えてくれた人は20年前に死んじゃったからねー」


 ・・・え?まじで?


「あーなんかすみません・・・」


 あー悪いこと聞いちゃったかも・・・。


「気にすることないよ~。あ、その子エイミーって言うんだけどね。私はエイミーから色々教えてもらったの。楽器の事とか」


「楽器の作り方もその方から?」


「いやあ、一応私が作ったって事にはなってるんだけど、二人で試行錯誤しながら作ったんだよね」


「あ、そうなんですか?それにしては良くできてるんじゃないですか?」


「エイミーは地球で楽器の演奏家だったらしくて、その知識を生かして制作したの。でも1から作るのは難しくて、元々こっちにある楽器をベースに改良を重ねた結果・・・って所」


 なるほどねえ。知識0から作ったんじゃなくて、元々音楽関係の人がこっちの楽器をベースに作り上げたって事か。それにしても凄いけど。


「で、元々ゲームが好きだったエイミーは、作った楽器を使って日本のゲーム音楽を聞かせてくれたの」


「なるほど、それがさっきの最後の幻想13とかゾルダだったわけですね」


 まあ確かに、最後の幻想13やゾルダは名曲揃いだからな。それを20年たった今でもユリアーナは演奏し続けているわけか。なんか感動的な話だな。


 ・・・・・・。


 あれ?ちょっと待て。


 なんか変だぞ?


 いーや絶対変だ!


 そんなわけが無いんだよ!


「あの・・・」


 おれはたまらずユリアーナに聞くことにした。だって絶対変だもん!


「何?」


「その、エイミーって人は、20年前に亡くなられたんですよね」


「そうだよ」


 いやいやいや!おかしいって!


「あの、僕も最後の幻想は大好きで、発売後もこっちの世界に来る寸前までずっと遊んでたんですよ」


「へーそうなんだ」


「僕がこっちの世界に来る5年位前に出たゲームなので、かれこれ5年は遊んでました」


「えー5年も遊んでたなんて余程面白かったんだね」


「ところで、このゲームって今から10年位前の日本で発売されたゲームなんですよ」


「うん?あ、そっか。シンちゃんこっちに来て5年くらいだっけ」


「はい。では、なんで20以上前にこの世界に来たエイミーさんが最後の幻想を知ってたんですか?」


「ん?・・・あれ?あれー!?」


 俺がそこまで言ってようやくユリアーナも気付いたらしい。かなり本気で焦っている。


 そうおかしいんだ。俺は見た目年齢20だが、この世界に来てからは5年しかたってない。そして最後の幻想は俺がこの世界に来る5年前の日本で発売されたゲームだ。


 つまり発売から現在で10年のゲームだ。なのになんで20年以上前にこの世界に来たエイミーさんが最後の幻想13を知っているのか・・・。


「え?え?いや、私嘘ついてないよ!」


「わかってますよ。だから不思議なんですよ」


 ユリアーナは慌ててそう否定してきたが、もちろんそんな事はわかっている。だってそんな嘘ついたって意味ないからな。


「ええっ、私、なんか怖いんだけど」


 ちょっと意味が分からないという意味では、俺もユリアーナと同じ気持ちかもしれない。


 20年前にユリアーナが聞いた曲が誕生したのが10年前って事だぞ?一体どうなってるんだ・・・。


 エイミーって人は地球人じゃなくてタイムトラベラーだったのか?

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