第135話 お屋敷というか宮殿だな

 次の日、約束通りティルデとアリーナの乗った馬車が俺達が泊まっている宿までやってきた。じっくり見て回りたいので、そこそこ早い時間に来てもらう事にしたんだ。


「すみません、こんな朝早くから来てもらって」


「いいのよ。これもすべてこちらの都合による事なんだから」


 確かに「そっち側」の都合ではあるけど、ティルデとアリーナが絡んでいる以上「俺の」都合でもある。


 しかしまさか、ティルデを探しにやってきたら俺を殺そうとしているユーディーと再開し、ティルデ情報は誤報だと思ってたら本当に二人が居て、しかも国の存亡がかかってる出来事に巻き込まれるとか何の冗談だと思ってしまうくらい目まぐるしいな。


 そんな会話をしながら俺達は馬車に乗り込んだ。女王直属の部隊だし、さぞかし立派な馬車が来ると思ったら、それこそ民間の馬車の方がよほどましじゃね?みたいな馬車がやってきてちょっとびびったぜ。


 そんな立派な馬車にでも乗ってた日には、それはそれは大変なバッシングを受けてしまうんだって。そんな贅沢をして良いのかと。


 凄いよなー。これまで王家、つまりヴィオラーノ家はかなりの民思いの政治を行ってきたらしいんだよ。なのに、ちょっとそそのかされただけでこうなっちゃうんだから、ガルドラから見れば「ちょろい」と思われてるぜきっと。


 まあこれは、俺が完全に余所者だから、そう感じるだけかもしれないが。


 外の景色を見ていたら、道が坂道になってきた。これがティルデが言ってた丘って事だろうか?だとすると、もうすぐ屋敷に到着するんじゃないか?とか考えてたら、前方にでっかい建物が見えて来た。


「わあ!ちょっとコレナガさん、あれ見てください!すっごい大きな建物ですよ!」


 ブリジッタが大興奮という感じで俺にそう話しかけて来た。しかし気持ちはわかる。中世の技術をフルに生かして作られた屋敷と言うよりは宮殿みたいな感じだ。以前はこの建物に各国の要人を招待したという話だが、まあ納得の作りだな。


 でっかい門をくぐると、噴水やら花壇やらが俺達を出迎えてくれた。こういう光景は初めて目にしたのかもしれない。ソフィがずっとポカーンと圧倒された表情で庭を見ている。


 それにしてもこれだけの施設を維持していくにはそれなりの金が必要だろう。一体女王はどこからそんな資金を得ているのだろうか?後で聞いてみるかな。


 馬車が玄関前らしき場所に到着すると、二人の男女がそこに立っていた。服装からして執事とメイドって所だろう。


「お待ちしておりましたクラリッサ様」


 執事がそう言いながら会釈をする。一瞬クラリッサって誰だ?って思ったが、すぐにティルデのこちらでの名前だったと思い出した。あぶねえ、この人が名前を言ってくれなかったら、たぶんティルデって言ってた。


「ごめんねパルマさん。急に訪問しちゃって」


「いえいえ、利用して下さる方が居てこその避暑地です。アルノー様も喜んでおいででしょう」


 あーそっか、この人結構いい年っぽいから、先々代の王様とも面識はあるのかもな。


「ささっ、こんな所ではなんですから、中へとお入りください。ドロレス、皆様を中へとご案内して下さい」


「はい」


 ドロレスと呼ばれたメイドの女性は、俺達に向かって「こちらへどうぞ」と、建物の中へ案内してくれた。


 建物の中は、俺が予想していた通り・・・問よりは、予想以上の豪華さだった。どう例えればいいかはわからないが、銀座にある某ホテルのロビーの中世版みたいな感じか?まあとにかく広いし豪華だ。


 ロビーには、話し合いができるようなソファーとテーブルがいくつも設置してあった。全盛期には、ここで王国の要人たちが談笑を行っていたんだろうなあ。


 しかし今となってはほぼ誰も使用しておらず、その証拠にテーブルやソファにうっすらと埃が積もっている。


「あの、この屋敷はお二人で管理されているのですか?」


 俺はたまらず聞いてしまっていた。だって、さっきからこの二人以外の人を見かけないんだよ。


「いえ、私とドロレス、そして今は客室の掃除に行っているルーナの3人でございます」


「・・・」


 いやいやいや、こんな広い屋敷を管理する人間が2人から3人に増えたところで、ほとんど変わらねーよ!


「あの、それだと全く人手が足りていないのでは?」


 そんな俺の気持ちを代弁するかのように、エレオノーレさんが遠慮気味にそう尋ねる。


「誠にお恥ずかしい話ですが、半月ほどかけてどうにか屋敷を一通りメンテナンスできるような状況です」


 まじかよ・・・。


「この屋敷のメンテナンスにかかる費用は、全て女王様がお出しになられているのよ」


「え?そうなんですか?」


 俺はティルデの言葉に心底驚いた。


「陛下はこの施設を手放されることを拒まれたから、政府は「ではご自分で管理を」ってなってるわけ」


「いやでも、そんなのちょっと考えれば無理ってわかるじゃないですか」


「だからそう言ってきたんじゃない?」


 あーそっか。王女が資金繰りに困って手放すことを望んでいるんだったな。


 と言うことは、この施設の管理運営も正常な状態にしつつ、何か利益になるような出来事も起こさなきゃいけないって事か?なんてこった、当初よりも難易度上がってしまってね?


「とりあえず部屋に荷物を置いて、屋敷を案内してもらったら?」


 俺が早くも前途多難な状況にうなっていると、ティルデ・・・じゃなくてクラリッサがそう提案してきた。


「それもそうですね。皆様のリクエストどうりに、大部屋をご用意させて頂きましたので、そちらへどうぞ」


 ドロレスさんの案内に従って俺たちは階段を上り、部屋までたどり着いた。


 途中歩いてきてわかったんだが、なんか建物の構造がホテルっぽいんだよね。まあここまで大きな建物を宿泊施設として建設したら、似たようなものになっちゃうのかもだけどな。


 だから、ここをホテルとして再利用できたら良いんじゃないかって一瞬思ったんだよ。けどその考えはすぐに脳内で却下になった。だって、人を雇う金も改装する金も無いもん。


 だって人件費も削りまくって3人まで減らしてるんだよ。そんな金があるわけがない。まじでどうしたもんかな~。


「こちらです。どうぞお入りください」


 俺が屋敷のホテル化について頭を悩ませていると、パルマさんがドアを開けてそう言ってきたので、いったん考えるのをやめて俺は部屋に入った。


 すると、そこにはメイド服を着たショートカットの女の子がソファーに座っていた。そして俺を見るなりこう言った。


「誰!?」


 いやそりゃ俺のセリフだっつーの!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る