第134話 避暑地

 ティルデとの会話も終え、俺は皆が待つ宿へと帰って来た。そして今から女王陛下からの依頼を受けるか否かを論議する事になる。しかし有効な答え何て出るんだろうか・・・。


「えー!私殺されちゃうんですか!?」


 ブリジッタは顔を引きつらせながらそう叫んでいた。とりあえず話し合いの前に、ソフィとブリジッタは帰国させた方が良いだろうと言う判断から、先に話をしておくことにしたんだ。


「このまま僕らと一緒にここにいたらってお話です」


「そんなに危ないんですかこの国?」


「いやむしろ・・・」


 むしろ今後、ガルドラの支配下に入れば、少なくとも外国人の商人達にとっては懸念材料が無くなり、経済的にはもっと伸びる可能性はあるな。治安は少し不安だが、それはガルドラ次第だろう。


「むしろなんですか?」


「いえ、なんでもありません。とにかく、問題は僕らと一緒にいる、という所です」


「あの、一体何をするつもりなんでしょう?」


「それは言えません。しかし犯罪を犯すわけでありませんよ」


 と言うか、俺達も依頼を受けるかどうかは決めて無いんだけどな。


「あの、わたしどこへ帰ればいいのでしょうか・・・」


 ソフィが物凄く不安な表情で俺達に聞いてきた。奴隷として雇われているこの子は、俺達と離れたら、また別の奴隷商の所に売られてしまうのでは?と心配しているのだろう。


「大丈夫ですよソフィ。あなたに関してはアリサさんにお願いして、北リップシュタートの私達の仲間の所へと行ってもらおうと考えています。えっとお願いできますかね?」


 最後の言葉はアリサに向けて言ったものだ。何しろ陛下の下からろくに話もせずに今に至るので、アリサ達の了解は得ていない。


「まあ、仕方ないですわね。澤田もノーとは言わないでしょう」


「ありがとうございます。ソフィもそれで良いですか?」


 しばらくソフィは下を向いて黙っていたが、すぐに「はい」と返事をしてくれた。頭の良い子だから、それが一番の案だという事もわかってくれたんだろう。


 ブリジッタに何かあったらサランドラ商会や親御さんに顔向けなんかとても出来ないし、二人を守りながら戦うのは困難を極めるだろう。それを言ったら戦闘力ほぼゼロの俺もそうなんだけど、俺は逃げるわけには行かないしな―。


 そして二人のバルサナ国外への退避の了解を取った所で、俺達の話し合いが始まった。さっきの二人への提案も、俺達が女王の依頼を受けるかどうかで変わってくる。


「正直どうでしょう?僕としてはかなり難しく感じているのですが」


 まずは俺が率直な現時点での感想を言った。


「私もそう思いますわ。女王の話ですと、資産も制限されている状況で国の予算は望めず、国家とは無関係のプロジェクトを成功させるなど、夢物語そのものですもの」


 だよなあ。何をするにも金が必要だよな。もしかするとガルドラは、経済面で窮屈な思いをさせる事では無くて、王族が経済面での功績を立てにくくする事を考えていたのかもしれない。


「シンちゃんとアリサでも無理な感じなの?」


「無理ですわね。何をするにもお金がかかりますもの。お金が無くても出来る魔法があるならぜひともバリー商会に教えて頂きたいですわ」


 そう、そんな魔法は無い。そんなもんあるなら、アスタリータ商店の時だってあんなに苦労はしてない。


「じゃやっぱり断る?」


 ユリアーナのその言葉に俺は即答できなかった。無理なのが分かっているのに断れないのはティルデとアリーナが絡んでいるからだ。名前を変えて非常に不利な状況でも女王から離れない二人を見ていると、とてもじゃないが俺達の説得なんかに応じるとは思えない。


「もう一度、もう一度だけティルデと会ってきます。そして女王の資産やその他役立ちそうなものについて聞いてきます。そこで最終的判断をする。それでいいですか?」


 俺の提案にみな頷いてくれた。正直アリサの言う通り無理としか思えないが、諦めるわけにはいかない。これはティルデとアリーナの命も掛かっている問題だからな。


「一応、希望が全く無いわけでは無いのですが・・・」


「もしかして女王が言ってた「避暑地」のことですの?」


 さすがアリサ。何気ない女王の言葉も聞き逃してはいなかったらしい。


「はい。祖父から受け継いだ避暑地と言うくらいですから、それなりの価値があるんじゃないかと」


「でも、価値があってもどうにもなりませんわよ?先々代の王の遺産を手放すわけにもいかにでしょうし」


 そうなんだよなあ。何しろ命を危険に晒してまでも所持にこだわった避暑地だからな。手放すなんて考えてもいないだろう。


「とにかく一度話を聞いてみましょう」


 そもそもここで見た事もない場所についてあーだこーだ言っても仕方ない。ティルデ達から避暑地についての詳細を聞いて、出来る事なら見せてもらう事にする。そして俺達は、俺達の泊まっている宿に常駐している兵士に頼んで、今晩ティルデと面会する事となった。





「女王陛下が所有していらっしゃる避暑地について詳しい事を聞きたいのです」


 俺はティルデの部屋に案内されるや否や、どストレートにそう聞いた。


「そうねえ・・・。各国からのお客様をお招きする場でもあったので、建物自体は大きいわよ」


「具体的にはどんな感じなんですか?」


「部屋数は50以上、パーティーが開ける大広間に大きな温泉も用意されているわ」


「なるほどなるほど・・・え?温泉があるんですか!?」


「そうなの。私も何回か入らせてもらったけど、何て言うかこう、肌がすべすべになってとっても気持ちよかったわ~」


 ティルデはその時の事を思い出したのか、うっとりした表情で俺にそう語った。


 温泉・・・これは予想もしていなかったな・・・。ただの避暑地と温泉がある避暑地では話が違ってくるだろう。しかも部屋の数も多いと来てる。


 ただなあ、じゃあこの避暑地でどうやって商業的成功を治めさせるかって言われたら、正直何も思い浮かばん。やはり一度この目で見るしかない気がするな。


「あの、お願いがあるのですが」


「何?」


「一度その避暑地を拝見させて頂くことは出来ますか?」


「いいけど・・・。でも、陛下はあの避暑地だけは手放さないと思うわ」


「はい。それは私達もそう思います」


「そう。なら、明日にでも見に行く?」


 へ?明日?え?そんな急に見られるような場所に避暑地ってあるの?


「それは大変ありがたいのですが、避暑地はこの近く何ですか?」


「この村の外れの山・・・というか丘になっている所ね。そこに陛下の別荘があるわ」


 まじか!思ったより目と鼻の先だった!


「あ、はい!ぜひともお願いしたいです!」


「わかったわ。じゃあ明日の朝、馬車で迎えに行くわね」


 そして俺は皆の待つ宿へと戻って行った。なんかこう、上手くいく案のイメージが出かかってる気がするんだけど、形にはならないんだよな。やはり直接物件を見てから考えた方が良さそうだ。


 とりあえず明日は全員でお邪魔する事にしよう。

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