第133話 ティルデへの説明

 女王陛下からの「お願い」を聞いた俺達だが、そう簡単に「はい、わかりました」となるわけが無かった。そもそも下手をすれば、俺達も暗殺されかねない状況になってしまう。


「お話はわかりました。一度持ち帰って、検討させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 なので、俺達はそう言うのが精一杯だった。心情的には陛下に全面協力したい気持ちはあるんだけどな。


「わかりました。もし更に聞きたいことなどございましたら、いつでもお越しください」


 王族からのお願いに対し「考えさせてくれ」と言った俺達に、それでも女王は丁寧に対応をしてくれた。そして部屋を出て、建物の出口へと向かった。


 正直今日聞いた事だけでは、とてもじゃないが何かが出来るとは思えない。もう少し詳細な情報を陛下から聞きたい所なんだが、さすがにあんな話を聞かされて精神的に疲弊してしまった。


 それと、ブリジッタとソフィーに関しては、来たばかりで悪いが、アルターラへ戻ってもらった方が良いような気がしてきた。俺達と一緒に居たら、依頼を受けるにしろ断るにしろ、二人を危険な目に合わせてしまいそうだ。


「シン、ちょっと待って!」


 これからどうしようかと考えながら廊下を歩いていると、ティルデから声を掛けられた。


「はい、なんでしょう?」


「少し時間取れる?」


「えっと・・・」


 俺はそう言いながらユリアーナ達の方を見た。


「いいよ~、私達は先に宿に戻ってるから」


「ありがとうございます。えっと、そういう事で大丈夫です・・・クラリッサ」


 あぶねえ!思わずティルデと言いそうになって、不自然に間が開いてしまった!ここは一般の兵士もいる場所なので、気を付けないとな。


「ごめんなさい、そんなに時間取らせないから」


「いえ、積もる話もあるでしょう。こちらは大丈夫ですので」


 そう言ってきたクラリッサにエレオノーレさんがニッコリ微笑みながら対応する。


 そして俺はティル・・・クラリッサに「ガシッ」と腕を掴まれて、どんどん奥へと歩いていき、そしてとある部屋の前まで連れていかれた。


「ここは私が使っている部屋よ。どうぞ入って」


 そうクラリッサに促されて、俺は部屋の中へと入った。部屋の中は机とベッドがあるだけの質素な物だった。まあ、常日頃この村にいるわけじゃないだろうしな。


「えっと、久しぶりねシン」


「あ、はい!お久しぶりです」


 やばい、なんか二人きりになったら急に緊張してきた!昔は全然平気だったというのに。やはり、長い間会って無かったからか、どう対応して良いかわからん。


「昨日ね?久しぶりにシンを見た時、シンだって最初気付かなかったの」


 ええーー!俺はすぐにティルデだと気付いたというのに・・・。ちょっとショックだぜ・・・。


「だって・・・背とか凄く伸びてるし体格も良くなってて、なんか別人みたい」


 あ、ああ、そう言う事か!そういえば、最後にティルデとあった時は165センチくらいだったんだよな俺。今は180くらいあるし、長い奴隷生活のおかげか、体格も心なしかがっちりした気はする。少なくとも日本時代の俺とは比べ物にならんかも。


 しかしティルデの方は全く変わって無いな。やはり長寿のローフィルだからだろうか?記憶の中のティルデそのままって感じだ。


「でも、冒険者レベルはたったの4なんですよ。笑っちゃうでしょ?」


 俺は照れ隠しで自分のレベルについて話題を振った。しかも最近上がったばかりのできたてほやほやだぞ。俺は自虐ジョークとして言ったつもりだったんだが、ティルデはそうは思わなかったようだ。物凄く驚いた顔をしていた。


「え?あなたレベル4なの?だって戦えなかったじゃない!どうやってレベルを上げたの!?」


 すげえ勢いで問い詰めて来た。そういえば、ティルデは俺がトラウマを克服できている事を知らなかったんだ。


「えっと実はですね・・・」


 俺は、ハイランドを出るときに、恐らくその時にトラウマを克服していた事をティルデに説明した。ティルデをなんとか助けようとした時だ。まあこれも澤田達の見解なので、本当かどうかはわからないんだけど。


「そっか、そういえばあなた、魔法唱えてたものね。戦闘になると途端に足がすくんでしまってたあなたが・・・」


 俺はあの時、すげえ光るライトの魔法を使って、マルセル達の目をくらませたんだ。そして何とかリバーウォールまで逃げ切ることが出来た。今でもあの時の事は鮮明に思い出せる。


「それとティル・・・クラリッサ」


「ここではティルデで良いわよ」


「じゃあティルデ、もう一つ報告があります」


「何?」


「マルセルが死にました」


 その言葉を聞くと、一瞬だけティルデの体が「ビクッ」と震えたのが分かった。


「そう彼死んじゃったんだ・・・」


「はい。リバーランドの僕の家まで暗殺にやってきて、そこでリバーランド軍の兵士に・・・」


「あなたを殺しにって!まさか、適格者絡みで!?」


「ええ」


 俺がそう返事をすると、ティルデはドカッと椅子に座り天を仰いだ。


「一体適格者って何なの?あなたを殺しにハイランドからリバーランドまで来るなんて正気の沙汰じゃないわよ」


 確かに彼らは正気じゃないだろう。一種の洗脳と言っても良いかもしれないな。しかし残念だけど、適格者の事をティルデに話すわけにはいかない。それは俺が転生者であることを明かすことになるからだ。正直それはちょっと怖い。


「すみません、実はもうひとつ残念なお知らせがあります」


「・・・あまり聞きたくないけど、知っておいた方が良いのよね?」


「はい。ユーディー・ビッケンバーグが適格者となって、俺を暗殺に来ました」


 俺の言葉を聞いたティルデは、テーブルに肘をついた体制のまま固まってしまった。


「バルサナ軍が怪しい二人組を追いかけていたという話を聞きましたが、おそらくそれがユーディーだと思います」


 そして彼らは俺達を発見したわけだが。ティルデはこめかみを手で押さえたまま頭を振っていた。


「ユーディーって、あのユーディーなのよね?」


「はい。ハイランドで僕と一緒にあなたに助けてもらったユーディーです」


それを聞いたティルデは大きなため息をついていた。まあ、気持ちはわかる。ティルデはユーディーの事もかなり気に掛けていたんだ。一時期は俺とユーディーでパーティーを組むことを希望もしていた。


 それもこれも、適格者になれなかった奴がどうなるかを知っていたからだろう。俺とユーディーが組めば、無事合格できると考えていたんだろう。


 まあ結果としては、ユーディーは適格者となり俺達の敵となって俺を殺しに来たんだけどな。まあでも・・・。


「まあでも、僕はまだユーディーがこちら側に来てくれる希望は捨てていないんですけどね」


「でも彼女は適格者となった。適格者は適格者になれなかったものを排除に来るのよ?」


「はい、実際俺の前に現れましたしね。でも・・・」


「でも?」


「でも、凄くつらそうな顔をしていました。何か理由があるのかも」


 俺が澤田に伝言は?って聞いたら「ごめんなさい」って泣きそうな顔で言うんだよ。これはたぶんなんだけど、彼女が適格者として行動しない場合、彼女の家族が危険に晒される・・・そんな可能性があるんじゃないだろうか?


「あなたがそういうのならわかったわ。でも軍として危険人物を見過ごすことは出来ない。捜索の手配は行うわよ?」


「はい」


「はあ、シンと再会できたのは嬉しいけど、ユーディーが・・・・そっか・・・」


 ティルデは明らかに気落ちしていた。あんなに気に掛けていた子が、適格者となって俺を殺しに来たなんて、そりゃあ平然としてろって言うのが無理だろう。


 まあでも仕方がないんだ。嫌でも望まなくても事実そうなんだからな。それはこの5年間で、俺が嫌と言うほど味わった事でもある。

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