第132話 女王からのお願い
女王の話を聞いた俺達は、内部から侵略されようとしている事の意味をようやく理解できた。だけど一つ疑問点がある。
「あの、議会が取り決めを行う事についてはわかりました。ですが、最終的な決定権は女王陛下にあるのですよね?」
だとするとだよ?いくら議会がガルドラ派に牛耳られていても、女王の裁量一つでどうにでもなるのでは?
「はい。確かに最終決定権は国の長にあります。そしてそれを行使しようとして、祖父の跡を継いで王となった父は殺されました」
「・・・え?」
「父は、国の財源の使用権限を議会に移す法案を阻止しようとして、暗殺されたんです」
暗殺って・・・。それだと最終的な権限を王が持っているとはいえ、それを行使するには命をかけなければならないって事か。
「ですが、そんなタイミングで暗殺されれば、国民は不審に感じるはずです。騒ぎにならなかったのですか?」
エレオノーレさんの言う事はもっともだ。賛成か反対かは置いといて、明らかに邪魔だから王を殺害などと言う暴挙が見過ごされるとは思えない。
「最初は暴動も起きました。しかし、バルサナ国の治安や経済は非常に良好なのです。しばらくすれば、国民も自分達の生活に忙しくなりそんな事は忘れてしまいます」
「つまり、政治の世界で何が起ころうが自分達には関係ないと・・・?」
「仕事や恋愛、私生活の事で頭がいっぱいなのです。国王が誰に変わったところで、自分達の生活に変化が無ければ良いのです。水面下で起きている事など何も考えずに、近い将来に事が起きてから初めて自分達が置かれている立場に気付くのでしょう」
そう語るオルガの表情は、悲痛なものとなっていた。
「あの、仮にガルドラ派が全権を掌握したとしたら、この国ではなにが起こるのでしょうか?」
エレオノーレさんのその言葉で、俺は冒頭の王女の言葉を思い出した。民が幸福ならいつでも身を引くとか言ってたよな。という事は、そうはならないって事なのか?
「ガルドラの民は、バルサナという国を憎んでいます」
「もしかして戦争を始めた理由に問題でも?」
「いえ、戦争が始まったのは領土問題です。元々バルサナが治めていた土地を、そこはガルドラの土地だと主張し始めたのが原因です」
「では逆恨みですか?」
「ガルドラ側からすれば、土地を奪われ戦争で仲間を殺されて、そして戦にも負けてしまいました。しかし祖父の謝罪により「やはり我々が正しかった!バルサナは悪だ!」となったのです。これが彼らの基本的な考え方です」
そして一呼吸おいてからこう言った。
「もし、ガルドラ派が全権を握ったのなら、バルサナはガルドラの従属国となり、表向き独立した国家の体を装いながら、ガルドラの傀儡国家となるでしょう」
そして、
「王族は全員処刑、国政における主要なポストは全てガルドラ人に与えられるでしょう」
そう王女は語った。
その言葉の後、しばらくの間誰も何も話すことが出来ない程、重苦しい空気が部屋の中を支配していた。
「さて!私の話はこれくらいにして、本題に入りましょう」
王城は手をパンと叩いて、重苦しい雰囲気を無理やり終了させた。
そういえば、何故ここに呼ばれたのかをまだ聞いてなかったな。いや、もちろんティルデとアリーナが、ここに残りたい理由を聞くことが目的だったわけだけど、あんな話を俺達にしてきたという事は、別の目的もあるって事だよな。
「コレナガさん、あなたに私を助けて頂きたいのです」
女王は唐突にそんな事を言ってきた。俺は言われた事の意味が一瞬わからなかったよ。コレナガさんて誰だっけ?とか思っちゃった。え?俺に助けてくれって女王が言ったの?なんで?どうやって?
「いや、あの、そう言われましても・・・」
そう返事をした俺は、大変挙動不振だったの違いない。だって政治の事とか俺わかんねーよ!一体どうやって助けろっつーの!?
「コレナガさん、陛下は政治面で助けて欲しいと仰られているのではありません」
「へ・・・?」
違うの?じゃあ何を助けるんだ?俺、戦闘力もゴミだぞ。絶対護衛とか無理だからな。
「コレナガさんには、経済面でのアドバイスを頂きたいのです」
「経済面・・・ですか?」
「はい。実は今、バルサナ国内でとある議論が盛んに行われているのです」
「議論?」
「王政の廃止という議論です」
「えー!」
もうそこまで話が進んじゃってるの?
「コレナガさん達は、昨日のデモはご覧には?」
「ああ、見ました!」
なんか、軍費削減!とか言ってたやつな。
「実は、先日陛下が暗殺されそうになった時、軍費削減と国王親衛隊廃止案が提出されていたんです。しかし陛下はそれを王の権限で採用を阻止されました」
「それで暗殺されそうに・・・?」
「はい。しかし議会は諦めていません。国民に対し、女王陛下の反対で案が廃止に追い込まれたようにアピールしたのです」
「いやでも、軍費削減したらまずいでしょ?」
「最大の敵だったガルドラと和平を結んだ以上、国の平和を脅かす存在は無いと言うのが、今の世論の主流です。まあ、その世論を形成していったのも議会ですが」
すげえなガルドラ。何十年もかけて内部からバルサナを侵食していく計画を立てて来たって事か。世論への介入までも出来ているなんて・・・。
なるほど、でもそれで色々と合点がいった。そもそも王国なのにデモが許されているのは、実質議会が政治を行っているからだろう。しかもヘイトが向けられるのは最終決定権を持っている女王だ。これは面倒臭いぞ・・・。
「そこで、陛下は地に堕ちた状態の王家の復権を果たしたいとお考えなのです」
「復権ですか?」
「はい。今現在王家は、金を浪費するだけの不要なものという認識が国民の間に浸透しつつあります。なので、ガルドラの野望を阻止するためにも、陛下は何としてもなんらかの経済的な成果を出さなければいけないのです」
なるほど・・・。それでリバーランド等で特許の案を出した俺ならって所か・・・。いやいやいや、そもそも俺の知識ってメイドインジャパンだからね?俺の案じゃないのよ?そんなほいほい思い浮かぶようなもんだったら、俺だって色々と苦労していないわけで。
「ちなみに陛下、何かこう、何でも良いんですが、経済を回せるような物をお持ちではないですか?」
「すみません、現在王族の資産は国に管理されておりまして、あると言えば祖父から受け継いだ
むー、期待はしていなかったけど、やっぱ何もなしか。しかも国で何かをするにも議会の承認が必要と来ている。
という事は、陛下が使える資金内で、国とは無関係のプロジェクトを成功させなければいけない。そう言う事か?
無理じゃね?
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