第136話 ルーナ・カルニメーオ
「あっはっは!ごめんごめん、掃除終わって一休みしてたら、いきなり知らない人が入って来たからびっくりしちゃって」
「はあ」
笑いながら俺にそう話してきたのは、この屋敷を管理している3人のうちの最後の一人「ルーナ・カルニメーオ」だ。
俺たちはドロレスさんに案内されて今日泊まるはずのお部屋に案内されてきたんだが、そこにはこの部屋のメンテナンスを終わらせたばかりのルーナさんがソファで休憩していた。そこに俺がやってきたというわけだ。
「だって普段、3人しかいない屋敷に知らない顔があったら、そりゃあ驚くでしょ?」
なるほど。彼女の言い分は筋が通ているように思える。思えるんだけど・・・。
「ルーナ、今日はなぜ予定とは違うこの部屋のメンテナンスをしていたのか、その理由は覚えてる?」
ドロレスさんが表情を変えないままルーナさんにそう質問する。
「なんでって、そりゃあお客様が来るから早急にメンテナンスをって、パルマさんが言って・・・あ・・・」
彼女はそこまで言って、気付いたようだった。今日は客が来る日だったと言う事に。
「いやーすっかり忘れて掃除してた、ごめん!」
そう言いながら、彼女は俺に向かってごめんのポーズをとっている。まあ、そんなに悪いとは思ってないんだろうな。とは言え、こっちも急な訪問のお願いをしていたのだから、逆に申し訳ない。
「相変わらずねルーナは」
「クラリッサ!久しぶりー!」
ルーナとそんなやり取りをしていると、いつの間にか俺の横にいたティルデがそうルーナさんに話しかけていた。あれ?二人って知り合いなの?ルーナさんはひしっとティルデに抱きついている。
「お二人は知り合いだったんですか?」
「この屋敷に足を運ぶようになってから仲良くなったのよね」
「だってクラリッサの話しってすっごい面白いんだもん!あとナターリエの魔法も!」
「だから魔法なら教えてあげますよと何回も言ってるのに、全然覚えようとしないんですから」
「えーだって、難しそうなんだもん~」
これは知り合いというより、かなり仲の良い友達って感じだな。俺の入るスキがないぜ。
「あ、ごめんなさい!久しぶりに会ったものだからつい・・・」
俺たち一行が何をするでもなく、ティルデたちの事をぼーっと見ていると、それに気づいたティルデが謝ってきた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。僕たちは荷物を置いたら屋敷を一通り見て回りますので、その後合流して一度会合を持ちましょう」
屋敷の事ならドロレスさんやパルマさんが詳しいだろうから、無理にティルデに案内してもらう必要も無いだろう。一応ティルデに気を使ってそういったつもりだったんだが・・・。
「駄目よ!これはむしろ私達の問題なんだし、一緒についていくわ!」
ものすごい勢いで俺の提案は却下されてしまった。まあ、彼女の性格からして、人任せにして自分はおしゃべりなんて出来ないか。
「そうですよ。それに今回皆さんをご案内するのは、この私なんですからね!」
ルーナが「どんっ」と胸をたたいてそう宣言した。
「・・・え」
彼女が案内すると聞いて、ものすごく不安になった俺の心情は、思わず俺の口から音声となって飛び出してしまった。
「・・・なんですかその「・・・え」は!」
「あ、いえ、なんでもないです」
「なんでもないわけないじゃん!すっごい不安そうな声でしたけどー!」
そりゃあ、これまでの流れを見てたらものすごく不安にはなるだろ?何しろ俺たちが来るから掃除してたっていうのに、途中からその事を忘れちゃうような人だよ?むしろ不安しかねー。
周囲の反応を見ると、ユリアーナとアリサは思い切り不安そうな顔をしてるし、エレオノーレさんでさえ苦笑いをしている。
「言っときますけどー!この屋敷に一番長くいるのわたしなんだからね!」
「はあ?いや、どう考えてもあなたが一番若く見えますけど?」
執事と思われるパルマさんは40~50代、ドロレスさんは20代後半ってところだろうか?そしてこのルーナ嬢は、どう考えても20代なり立てくらいにしか見えない。
「だって私、この屋敷に勤め始めてから100年たってるよ?」
「・・・へ?」
「あら?あなたもしかしてハーフエルフなのかしら?」
「正解!」
アリサの言葉にルーナ嬢は指をさしてそう答えた。ハーフエルフ?確かハーフエルフって、人間とエルフの間にできた子供だっけか?
「私、ハーフエルフの方、初めてお会いしました」
「え?そうなんですか?」
俺はエレオノーレさんの言葉に驚いてそう反応してしまった。
「シンちゃん、以前エルフは子供ができにくいって話したでしょ?」
ああ、確か北リップシュタートの本拠地で、ユリアーナからそんな話を聞いたな。人間同士が一番子供ができやすく、逆にエルフと人間だと難しいって話だったような。
「エルフと人間だと人間の寿命が短いから、子供ができる確率も難しいものがあるのよ。だから、ハーフエルフはかなり珍しい種族と言えるの」
「なるほど・・・」
と言うことはハーフエルフである彼女も、それなりに長寿って事なのか。
「納得した?だから屋敷の案内はこのルーナさんに任せとけばOKだから!」
「はあ・・・」
「ちょっとお!今の説明聞いて、なんでそんな不安そうな顔なのよー!」
ルーナさんは俺に詰め寄って抗議を始めた。
つーかむしろ、100年務めててさっきの感じなら、余計に不安になってしまうだろうが!
・・・ん?ちょっと待て、100年ここで働いてるなら、この人女王の祖父「アルノー」とも面識あるんじゃね?どんな人だったのかちょっと聞いてみるか?
「あの、ルーナさん」
「何よ?」
彼女は俺が不安そうな顔をしていたことに、まだ少しご立腹のようだった。
「先々代の国王陛下だった「アルノー」様について少しお伺いしたいのですが」
「アルちゃんの?」
「アルちゃん!?」
「アルノーだからアルちゃん」
なんてこった・・・。なんかユリアーナにちょっと似てるなーとか思ってたんだが、スケールが違いすぎるぜ。こうなると現国王陛下の事はなんと呼んでいるんだろうか?オルッちとかかな?すげえ気になる!
「あの、「オルガ陛下」の事はなんとお呼びしているのですか?」
「オルオルはオルオルだよー」
オルオルかよ!すげえなこの人、現国王だけでなく、歴代の国王陛下もニックネーム呼びかよ!むう。
俺は考えを改めて、このルーナ嬢に案内をお願いするのが良いんじゃないかと思い始めていた。だって、この屋敷の歴史を知っているってことは、どういう思いで歴代の国王達がこの屋敷を利用していたのかも含め、参考になる事が聞けるかもしれないと思ったんだ。
「先ほどは失礼しました。ぜひルーナさんにご案内をお願いしたいです」
「え?あ、そう?まあそう言うなら頼まれてあげない事もないかなー」
ルーナ嬢は俺の手のひらを返したような言葉に満更でもない様子だ。その様子を見ていたパルマさんは頭を抱えているようだったが。なんかパルマさん気苦労が絶えないんだろうな~って気がするわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます