第130話 命の恩人

 クラリッサに連れられてやってきたのは、昨日俺達がクラリッサ達と面会した、ベルストロの王国軍の本部だった。昨日は俺達に合わせたい人物がいるような素振りは見せなかったと思うんだが。やっぱ、完全には信用してなかったんだろうなあ。


 そしてその当人とも話し合い、大丈夫だろうとの判断が出たって所か?それにしても、そこまで用心して合わせる人物って一体誰なんだ?正直ちょっと緊張してるんだが・・・。


 だって、建物の奥に行くにつれて兵士の数多くなってるんですけど。すげえ物々しい雰囲気になってるんですけど。クラリッサは一体俺達に誰と会わせようとしてんの・・・。


 普段だったら着くまでに色々ちょっかいを出してくるユリアーナが、すげえ真剣な表情で歩いている。こんな緊張した顔も久しぶりだ。そしてついに目的と思われる一番奥のドアへとたどり着いた。


「クラリッサ・ハウプトマンです」


「どうぞ」


 クラリッサがドア越しにそう言うと、中から女の声が聞こえて来た。


「はっ、失礼致します」


 そう言って、クラリッサは部屋の中へと入る。そして続いて俺達も部屋の中へと通された。


 部屋に中に居たのは、ファンタジー世界のRPGから飛び出してきたような綺麗な女性だった。腰まである金色の髪がとても印象的だ。年齢は・・・俺と同じくらいか?でもファンタジーだからなあ。見た目通りとは限らんな。


 リバーランドのテレジアにちょっと似てる気もするが、あの人のような妖艶さというより、真面目さが前面に出たようなキリっとした表情をしている。


「陛下、こちらが私の友人であるシン・コレナガ、そしてそのお仲間の方々です」


「あなたが以前、私にお話してくれた方ですね」


 クラリッサは俺達をその女性に紹介している。と言うか「陛下」って言わなかった?え?どういう事?


「あの・・・こちらの御方は・・・」


 俺は恐る恐るクラリッサに尋ねた。


「こちらの方は、バルサナ王国女王「オルガ・ヴィオラーノ」様よ」


「・・・・・・え?」


 え?はあ?女王様つったか今?えー!?


 そしてクラリッサがそう言った瞬間、横に居たアリサが咄嗟に片膝をつき、頭を下げる。見ればみんな同じようにしていたので、俺も慌てて片膝をついた。


「あ、皆さん楽にしてください。ティルデとアリーナのご友人なら、それは私に取っても同様。どうぞ顔をお上げください」


 その声を聞いて、隣のアリサが顔を上げたので、俺もそれにならって顔を上げた。うへー、一応王族と会う時の礼儀作法みたいなものは教えてもらってたけど、咄嗟には出来ないわ・・・。


 あれ・・・?そう言えば今、今ティルデとアリーナって言わなかったか?んん?


「あの・・・」


「なんでしょう?」


「今陛下は、ティルデとアリーナと仰られたような・・・」


「はい。彼女達が仮の名を使っている事は承知しています」


 まじかよ。なんで本名を明かすような事態になったんだろう?すげえ気になるな。


「気になりますか?」


 ひいいいいっ!ばれてた!


「コレナガさんの顔には「なんでだろう?きになる~」って書いてありましたよ」


「す、すみません・・・」


 女王はくすくすと笑いながらそう言ってきた。これは恥ずかしい・・・。アリサの隣にいるユリアーナが「うわぁ」って顔で俺を見ている・・・。仕方ねーじゃん!ポーカーフェイスとか無理だから!


「シン、陛下はね、身寄りのない私とアリーナを、自らの側に置いてくださっているの」


 そう・・・なんだろうな。昨日ちらっと聞いたが、ティルデとアリーナは死亡扱いになっているそうだ。あのハイランドとの戦いの中でな。


「それは少し違いますよ。私は、私の命を救ってくださった二人に恩を返しているだけ。二人とも自由に暮らして良いと言ってるのに・・・」


「何言ってるんですか!異国の地で右も左もわからない私達を陛下の護衛が出来る地位まで与えて下さって、感謝しかありませんよ!」


 陛下の言葉にアリーナがほっぺを少し膨らませながら反論している。


 なるほど。今の2,3のやり取りでわかった事がある。この3人は、俺達にはわからない強い絆で結ばれているように見えるって事だ。まあもちろん他の兵士にも同じ態度だって事もあり得るんだけど。


 それにしても、二人が女王の命を救ったって、一体女王の身に何があったんだ?すげえ気になるな。


「私の身に何が起きたのか・・・気になりますか?」


「ええ・・・。また顔に出ていましたでしょうか・・・?」


「はい、何か考え事をされているお顔でしたので」


 まじかよ・・・。これは今度、ポーカーフェイスのやり方をアリサかエレオノーレさんに習っておいた方が良いかも・・・。そしてユリアーナは、再び俺を見ながらすげえ渋い顔をしていた。


「実は以前、暗殺されかかった事があるんです。それを救ってくれたのがこの二人なのです」


「え!?」


 おいおい、突然ヘビーな話が始まったぞ・・・。あ!そういえば、アルターラを出発するときに、フィオリーナから「女王の暗殺未遂事件」について聞かされた覚えがある。あれはこの事だったのか?つーか、マジだったのか!


「それで私とアリーナは、女王の元を離れたくないと考えているのよ」


「え?ちょっと待ってください。という事は、狙われているのはその時だけじゃないって事ですか?」


 だって、単なる野盗とかの仕業だったら、何もこの二人がずっと護衛している必要はないだろう。しかしそうなると、暗殺は身内の仕業って事じゃねーのか?いつ誰が襲ってくるかわからないから用心してるって事は。


 しかし、フィオリーナは政治的には安定していると言っていたんだよな。あれー?じゃあ女王は誰から狙われてるんだ?普通こういうのって、政敵とかから狙われるんだよな?いやでもフィオリーナは「安定してるけど不安定」とも言っていた・・・。


「あの・・・私はアルターラで知人からこの国について「安定した政治体制」の国と伺ったのですが・・・」


 失礼かとも思ったが、ここまで聞いてしまった以上、首を突っ込まないというのは不自然な気がした。それにティルデとアリーナの二人を仲間にしたい俺達としても、避けて通れないだろう。


「そうですね、あなたの言う通り、我が国は政治・経済分野で安定していると言って差し支えないでしょう。表向きは・・・」


「表向きって事は、実態はそうでは無いと言う事ですか?」


「はい。恥ずかしながら、この国は存亡の危機に瀕していると言っても過言では無いでしょう」


 存亡の危機!いや、そりゃあ女王の暗殺が計画されるくらいだから安定はしてないだろうけど、こういう世界だとそう言う事もあるんだろうな~とは思ってる自分もいたんだよな。けど存亡の危機って、相当やばい奴じゃん。


 そして女王は、静かにこの国が立たされている立場について、俺達に話してくれた。

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