第128話 アルフレートという男

 俺達が活動している目的。それは幻想神に対抗する手段を探す事。厳密には澤田達は地球の文明をこの世界に取り入れることで、幻想神を攻撃している。しかし俺は何か別の道が無いか探っている所だ。その為にハイランド軍に詳しいティルデを探し歩いていた。


 だが、適格者とは何なのか?幻想神とは何者なのか?この辺りをうまくぼやかしながら話す必要がある。何故なら俺やアリサが転生者であることを話す必要にさらされる問題が出てくるからだ。


 ティルデやアリーナになら話しても良いのでは?と思う自分がいる反面、話してしまったら彼女達を絶対に引き返せないイバラの道に誘ってしまう事になるのではと、ためらう自分もいる。どうしたもんかなあ。


「私達は適格者になれなかった人達、つまりシン・コレナガのような人物を保護する事を目的としていますの」


 俺がどう話せばよいのか悩んでいると、アリサがティルデに対応してくれた。


「適格者!?あなた達は適格者を知っているの!?」


 ティルデが椅子から立ち上がり、身を乗り出してアリサへ聞いていた。


「適格者がどういう経緯で選ばれているのかは不明ですが。それはあなたの方が詳しいのではなくて?」


 アリサはティルデにそう説明していた。どうやら適格者がどういう経緯でそうなるのかは、こちらは知らないという体で行くようだ。


「いや、私は適格者が一人前になる様にサポートする事が主な任務だったから・・・」


 ティルデは少し苦い顔をしながらそう言った。そういえば以前もそんなことを言っていたな。そしてある日マルセルがティルデにぽろっと話してしまった事で、非適格者が殺されてしまう事を知ってしまったとも。それに我慢できず、ティルデは俺をリバーウォールまで逃がしてくれたんだ。


「実はその事でティルデを僕たちは探していたんです」


「その事って、適格者の事よね?」


「はい。なのでティルデ、僕たちと一緒に適格者探しを手伝ってもらえませんか?」


 俺は単刀直入にティルデに申し出た。そしてそれを聞いたティルデは目を大きく見開いて驚いていた。


「私にあなた達の仲間になれと?」


「率直に言えばそうですね」


 俺の言葉にティルデは真剣に悩んでいるようだった。まあ、あのアルフレートの仲間ってだけでもかなり怪しいとは思う。と言うか、それを言うなら俺も、とある理由からいまだに半信半疑なんだが。


「シン、ごめんなさい。今はちょっとムリね・・・」


 しばらくテーブルを見つめて考えていたティルデだったが、俺の方を見てそう言ってきた。


「そうですか。わかりました」


 俺は無理にティルデを説得しようとはしなかった。さっきも言ったように一応理由はある。しかし、俺のそんな対応を見てアリサやユリアーナ達は疑問に思ったようだ。


「ちょっと、シン・コレナガ!あなたそれでいいんですの?やっと見付けたあなたの大切な方なのでは?」


「そうだよシンちゃん!なんでそんなあっさり・・・」


 俺があまりにあっさりと諦めたので、二人は俺に詰め寄って来た。エレオノーレさんも困惑の表情をしている。


 俺はもちろんティルデにこちら側についてほしいと思ってる。しかしティルデが何故断ったのか、その理由も聞きたいと思っている。そして、これが俺が無理に彼女を誘わない最大の理由なんだが、俺自身が少し疑心暗鬼になっているという事だ。


「アリサさん、少しお聞きしたい事があります」


「なんですの?」


 俺がいつになく真面目なトーンで話しているからか、ユリアーナも茶化してきたりはしない。ユリアーナだけでなく、ティルデとアリーナも俺の言葉を待っている状況だ。


「アルフレートは僕らの味方だと言いましたよね?」


「ええ、彼は一応私達の仲間ですわ」


「ではお聞きします。彼は何故、リバーウォールであんな無茶な法案を通させたのですか?」


 あの法案ってのは、俺が日本から持ってきた著作権とか商標の話だ。アルフレートは、俺が日本からパクったシステムを、手数料を大幅に爆上げして、貴族しか旨味が無いようなシステムに改悪させたんだ。


 その結果、リバーウォールでは内乱が起き、その隙をつかれてハイランドに侵攻された。つまり、あの侵攻を起こさせたのはアルフレート自身だと言っても過言では無いんだ。


 俺の話を聞いたユリアーナは「あちゃー」という顔をしている。そしてアリサはユリアーナを今日何回目かわからない呆れた眼差しで見つめ、エレオノーレさんは大きなため息をついていた。


 まあたぶん、ユリアーナが俺に言いそびれてた事の中にそれもあったって事だろうなあ。実を言うと最初からユリアーナ達を疑っていたわけじゃない。


 しかしティルデは違うだろう。アルフレートが俺達の仲間だと知った瞬間、ではあの内乱もアルフレートとその仲間のせいで、と思うのは難しくないはずだ。そんな中、俺の誘いに乗るとはとても思えなかった。もちろん他にも理由があるかもしれないが。


「あー、ごめん。これ私の失態」


「あ、はい。そうだと思ってました」


「ひどっ!」


 ユリアーナが抗議の目を向けて来るが知らねーよそんなの。大体こいつがちゃんと俺に説明してたら、ここまでややこしくならなかったのに。


「それよりも彼は何故あんな事をしたんですか?どう考えても理解できない行動なんですが?」


 さっきから考えてるんだけど、どうにも自分を納得させられる理由が思いつかない。あそこであんな事して、何か得られるものなんかあるか?なので、俺の疑心暗鬼ってのはアルフレートに対するものだ。


「それは私が説明しますわ」


 そう言ってきたのはアリサだ。前々から思っていたのだが、ユリアーナは何と言うか、前もって根回しをしておくとか、そう言う事が得意では無いんだろうな。たぶんそれはエレオノーレさんやアリサの仕事なんだろう。これはずっと一緒にいるから分かって来た事なんだが。そういう俺も苦手なんだけどさ。


「アルフレートが私達の仲間であることは間違いない事実です。しかしそれと同時に彼は、テレジア・ロンネフェルトの熱心な狂信者でもありますの」


「テレジアって、リバーランドのですか?」


 テレジア・ロンネフェルトは、事実上リバーランドを仕切っている大公の事だ。まあ、俺も色々とお世話にはなった。色々とね。


「そうですわ」


「いやでも、それとリバーランドで奴が行った行動には何の関係が?」


 全然意味が分からん。リバーウォールはレオンハルト・ロンネフェルトの領地とは言え、リバーランド領に属する事は間違いない。そこを危険に晒すなんて・・・。


「シン・コレナガ、レオンハルトが失脚して利を得るのは誰だと思いますか?」


「そりゃあ・・・テレジア・ロンネフェルト・・・でしょうね」


 レオンハルトは第二位の王位継承権を持っている。だから一位のテレジアからすれば、ライバル関係にあると言っても良いと思う。でもなあ・・・。


「その通りです」


「いやちょっと待ってくださいよ。テレジア・ロンネフェルトとは何度も会いましたが、正直レオンハルトの手に負えるような人物ではありませんよ?」


 俺は両者と面識があるが、正直テレジアがそんな小細工を画策しなくとも、テレジアの王位継承の可能性の高さが揺らぐことは万一にもあるとは思えない。それくらい両者には差があるように見えた。


「だから狂信者なのよ。確率を上げる為ならどんなことでもいとわない・・・」


「いや、頭おかしいでしょう・・・」


 確かにテレジア・ロンネフェルトには人を引き付ける何かがあるのは確かだと思うが、そこまで傾倒してしまうのは異常だろ。だからアリサは「一応仲間」なんて表現を使ったのか?


「大体事情はわかったわ」


 アリサが一通り話し終わるとティルデがそう言ってきた。


「シン、あなたはこの事をどう思ってるの?」


 そして俺にこういってきた。


「どうもこうも良いわけがありませんよ。無茶苦茶でしょう。ただ、今の彼女の言葉からして、アルフレートのあの行為は彼女らの意思では無いと思っています。」


「それについては、完全にその通りですわ。アルフレートも私達が彼の行為を認めて無いのがわかっているので、私達の前に姿を現さないんでしょう」


 俺やアリサの言葉を聞くと、ティルデはしばらく考え込んでいた。


「わかった。シンがそう言うのなら私も彼女達を信じましょう」


「良いのですか?」


「ええ。彼女達だけだったら信じるのは難しい所だけど、あなたがそう言うのなら・・・」


「ありがとうございます!」


「ただ・・・」


「はい」


「ちょっとわけがあって、今すぐにあなた達と共に行動するというわけにはいかないの」


「わけ・・・ですか?」


「そう。私とアリサがここから離れられない理由があるの」


 ティルデだけじゃなくてアリサも?そういえば、ティルデ達がなんでバルサナ軍にいるのかも聞いてなかったな。一体どういう経緯があって二人はここにいるんだろう?

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