第127話 リバーウォールからの脱出
「それにしても本当にコレナガさんが生きていたなんて・・・」
アリーナが俺をまじまじと見ながらそんな事を言ってくる。今は気を利かせたユリアーナが「積もる話もあるでしょ?」と退室したので、厚意に甘えて3人で話していた所だ。
ユリアーナが牢に入っていた際、彼女に尋問したのはティルデとアリーナだった。彼女の冒険者レベルがかなり高い事から、警戒をされていたようだ。そしてユリアーナは、ティルデとアリーナの姿から、もしかしてこの二人が?と考え、俺の事を話したようだ。
そして結果は先ほど俺が兵士に慌てて呼ばれた通りだ。ユリアーナは自分達がティルデを探していた事も話したようだ。
「僕もお二人が生きているのか半信半疑でした。リバーウォールがハイランドの侵攻を受けたと聞いた時は、肝が冷えました」
リバーランドの住居にマルセル達が襲ってきたときに、ベアトリクスから聞いた時は本当に絶望的な気分になったものだ。
「それにしてもお二人ともどうやって難を逃れたのですか?」
ハイランドの侵攻は突然だったと聞いている。よく無事に生き延びることが出来たものだ。俺がそう思って質問すると、アリーナとティルデは少し困った顔をした。あれ?俺、そんなに答えにくい質問しちゃったか?
バタン!
そんな時だった。急にドアが開いたと思ったら、ソフィーがそこに立っていた。
「ん?ソフィ、どうしました?」
突然入って来たソフィに驚いた俺は、ソフィにそう尋ねた。
「あ、あの・・・」
「はい」
「へ、部屋を間違えました!」
そして泣きそうな顔で部屋を出て行こうとするソフィ。やばい、これは萌えるわ。なんというドジッ娘。っと、そんな事言ってる場合じゃない。
「ソフィ丁度良かったです。ユリアーナとエレオノーレさんも呼んできてもらえますか?色々とお話もしたいので。ソフィはブリジッタさんとそのまま向こうの部屋でもう少し待っていてもらえますか?」
俺がそう言うと、ソフィは泣きそうな顔から一転、ほっとした表情になり、ユリアーナ達を呼びに行った。
「もう話し終わったの?」
しばらくするとユリアーナとエレオノーレさん、そしてアリーナが部屋へやって来た。
「すみません、お気遣いありがとうございます。話したい事は色々あるのですが、僕らは色々と話し合わなければいけない事があると思いまして」
そう。俺達とティルデ達は話さなきゃいけない事がたくさんある。ティルデ達がどうやって脱出したか、適格者を巡るハイランドの事、そして俺達の立場などだ。そして、ティルデ達が何故バルサナ軍の所属となっているのか。
「すみません、話が中断しましたが、お二人はどうやって脱出されたんでしょうか?」
二人がこの話をしたがっていないのはわかるが、どうしても俺は気になっていた。それにマザープレートも所持していなかったという。その理由も謎のままだ。
「えっと、コレナガさんには信じ難いお話かもしれませんが・・・」
「僕が信じ難い話・・・ですか?」
え?俺が信じ難い話?どういう事だ?そもそも脱出できたこと自体が信じ難い話なんだが、それとは別の意味合いだよな?
「そんなのアルフレートが脱出の手助けをしたからじゃない。シンちゃん忘れたの?」
しかし俺への返答は、ティルデやアリーナでは無く、ユリアーナから返って来た。は?こいつ今アルフレートって言ったか?アルフレートって、俺を鉱山送りにしたアルフレート?はあ?
「えっと、ユリアーナさんの言っているアルフレートと言うのは、リバーウォールに居たアルフレートの事ですか?」
「それ以外何があるのよ」
ユリアーナはさも当然と言った顔でそう答える。
全く訳が分からない俺は、エレオノーレさんとアリサの方を伺った。
「ユリアーナ、あなた、ちゃんとシン・コレナガにアルフレートが私達の仲間だと話したのですか?」
アリサの発言は
「ちゃんと話したよ。北リップシュタートへシンちゃんと一緒に馬車に乗ってる時に」
馬車に乗ってる時?確かあの時は・・・。そうそう、リバーウォールの状況についてユリアーナに聞いてたんだ。
「あの時ユリアーナさんからはティルデ達が行方不明になっているって聞きました」
「それだけですの?」
アリーナがジト目でユリアーナを見ながら俺にそう聞いてきた。
「え?ああ、それと、アルフレートも一緒に行方不明になっているとも聞きました」
「ユリアーナ、あなたシン・コレナガをからかうのに夢中になって、肝心の部分を言い忘れてましたわね」
「はあ!?」
俺は思わずでっかい声でそう言ってしまった。
「え?あ、あれ?そうだっけ?あははははは・・・」
「あなたねえ・・・」
アリサはこれ以上ないくらい大きなため息をついていた。
その後こってりアリサとエレオノーレさんからユリアーナがお説教をされた後、ティルデとアリーナから話を聞いた。
なんでも、侵攻直前になって、いきなりアルフレートが牢の鍵を開けて「リバーウォールから脱出しろ!」とティルデに言って来たらしい。
最初は何を言い出すのかと思ったティルデだが、一緒に居たアリーナが真剣な表情だったのでそれが本当なのだと思ったそうだ。
ティルデは、それなら尚更逃げるわけには行かない!と言い張った。今となっては大勢の仲間も出来たリバーウォールを見捨てるわけには行かないと。しかし、そんな彼女の決意は「コレナガシンは生きている」と言う、アルフレートの言葉でギリギリの所で
そして国内で逃亡するにあたり、今まで使っていたマザープレートは破棄し、仮の名前が登録されたプレートを渡され、そしてそのまま脱出した。その後の彼女らの足取りが掴めなかったのは、違うプレートを所持していたから。突然の侵攻だったために、GPS付きのプレートは用意できなかったらしい。
「まあ、脱出の経緯はこんな感じね」
ティルデは最後に俺にそう言ってきた。なるほど、マザープレートは所持していなかったわけじゃなく、偽名のプレートを使って別人として生きているってわけか。
「しかしちょっと待ってください」
俺はどうしても納得できない事があった。はっきり言って今でも思い出すと頭にくる。
「アルフレートは何故僕を鉱山送りにしたんですか?」
意味が分かんねーよ。あいつ俺をこけにして牢屋に入れて、最後は思い切り殴りつけて鉱山送りにしたんだぞ!
「それはあなたを早急にリバーウォールから離れさせるためですわね」
俺の疑問に答えたのはアリサだった。
「どういう事です?」
「あんなハイランドと目と鼻の先にあるリバーウォールなんかに居たら、いつあなたが暗殺されるか、わかったものではありませんもの」
「それにしては乱暴すぎませんかね?」
「アルフレートの立場じゃ、リバーウォールからあなたを移動させるには、あれが一番早かったのですわ。手続きも簡素化できますし」
アリサによれば、正当な立場のまま移動させるには、ハイランドから逃亡してきた俺の立場では時間が掛かるという事だったらしい。手っ取り早く移動させるには奴隷の身分に落とし、強制労働に従事させるために鉱山送りにするのが一番だったんだと。
そこまで説明を受けて向こうの苦労や話は分かるが、なんかこう納得いかねえ。それもこれもユリアーナが俺に説明すんのをもっと早くしてくれてれば、今ここでもやもやする事も無かったんだけどな!
俺はそう思いながらユリアーナにジト目を向けた。ユリアーナは頭の後ろで手を組んで、すげえ綺麗な口笛を明後日の方向を向きながら吹いていた。これはこれで腹が立つな。
しかしアルフレートは、どっちかって言うとリバーランドの王国政府側の人間だったはずだ。という事は、澤田達は王国政府内部にも仲間がいるという事か・・・。
「ところでこちらからも質問いいかしら?」
それまで黙って俺達のやり取りを見ていたティルデがそう質問してきた。
「なんでしょうか?」
「あなた達は一体何者?」
「どういう・・・事でしょう?」
俺はティルデの言っている事がイマイチわからなかった。
「アルフレートがあなた達の仲間だって事を聞いて正直びっくりしているわ」
あ、そうか!ティルデ達も俺と一緒で、その事実は今知った口か・・・。
「と言うか、僕もびっくりしているのですが」
「そうみたいね。そして、そのアルフレートの仲間であるあなた達が私達を探しにこんな所までやって来た。一体何が目的?」
ティルデの目はかなり俺達、と言うかユリアーナ達を警戒しているように見える。いやしかし、それはそうかもな。
俺を奴隷にして強制労働の為に僻地へ追いやったアルフレートが自分達を助け、しかもその仲間と俺が一緒に行動しながら自分達を探しに来た。そりゃあ訳がわからないだろう。俺だって少し混乱しているくらいだ。
しかし、俺達の立場をどう説明すればいいのか・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます