第120話 襲撃
「えーシンちゃん、私と二人きりだと聞いて緊張してるのぉ?」
俺がフリーズしてるのを見たユリアーナがそんな事を言ってきた。
「まあ、私みたいな可憐な少女と二人きりで夜を過ごすと聞いただけで、シンちゃんがドギマギしてしまうのはしかたないけどぉ」
俺が何も返事をしないのを見て、更に調子に乗ってユリアーナがそんな事を言ってきた。
緊張?ドギマギ?なんで俺がユリアーナさんを見て、そんな気持ちになると思うのだろうか?家のソファーでへそを出していびき書いて寝てるような女にドギマギなんかせんわ!
「ひっどおおおおい!」
俺がそんな事を考えていると、急にユリアーナが怒りだした。
「な、何ですか急に!?」
さっきまでご機嫌で俺をからかっていたと思ったら、今度は急に怒り出したぞ。情緒不安定か?
「コレナガさんコレナガさん」
「はい」
「あの、口に出してましたよ?」
「え?」
「「なんで俺が緊張せにゃいかんのだ!」とか色々と・・・」
「oh・・・」
エレオノーレさんが苦笑いしながら俺にそう言ってきた。そっか、口に出ちゃってたか。でも仕方ないんだ。心の底からあふれ出た言葉だからね。
「もうシンちゃんなんか知らない!女将さんお風呂ってあるの!?」
「え?あ、ああ、離れになるけど大浴場があるよ」
「私入ってくる!」
そういうと、ユリアーナはずかずかと大股で歩いて行った。あれのどこが可憐だと言うんだ・・・。
「あの、ブリジッタさんもびっくりされてるんでほどほどで・・・」
エレオノーレさんにそう言われてブリジッタの方を見ると、「ど、どうしましょう!」とおろおろしていた。あー悪い事しちゃったなー。もう家の人間はソフィーも含めこういうの慣れてたんで、何も考えて無かったわー。反省反省。
ユリアーナが怒って風呂へ行ってしまったので、自動的に一人になった俺はベッドでゴロゴロしていた。ユリアーナの事だから、帰ってきて窓際のベッドを俺が占領していたら絶対文句を言うはずなので、ドア側の方をチョイスしたのはナイス判断だと思う。
コンコン
俺がベッドでゴロゴロしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
そう言って俺がドアを開けると、ホーキンスと呼ばれていた呼び込みの兄ちゃんが立っていた。
「よ、そろそろ食事出来るけどどうする?」
「あ、そうなんですか?えっとじゃあ、今連れが一人お風呂に入ってるんで、戻ってきたら向かいます」
「OK!・・・しかし、あんたのパーティー。あんた以外全員女って羨ましいな」
「え?あ、そう・・・ですかねえ・・・」
「クエストか何かかい?」
「あ、いえ、人探しの途中でして」
「人探し?どんな人だい?」
あ、そうか!宿の呼び込みの人なら、もしかしたら二人の顔を見ているかもしれない!聞いておいて損は無いかも・・・。
「実は、ローフィル族と魔導士の二人組なんですが・・・」
「ローフィルと魔導士?・・・ああ!」
ホーキンスはしばらく考えていたが、何かを思い出したようだった。
「はいはい、覚えてるよ。えらい美人の二人組だったからね!」
「え?ホントに!?」
おい!そっちで覚えてたのかよ!いやもう、そんなのどうでもいいや!
「確か1か月くらい前だったかなあ。馬車から美人の二人組が降りてきてさ、俺は一直線で二人の所へ行ったのよ」
結構軽いなホーキンス!
「けど、ベルストロだから歩いていくとか言って・・・。もう遅いから危険だって言ったんだけど、大丈夫だって」
「ベルストロ?」
「あれ?知らないか?バルサナの小さな町なんだけど、温泉があるんだよ。たぶんそこに向かったんじゃないか?」
おおおおおおおおおっ!全く期待してなかったのに、かなり大きな情報が手に入ったんじゃね!?温泉街らしいが、長旅で疲れた二人が立ち寄る可能性は高いんじゃないか?しかも1カ月ほど前なら、牧場で聞いた情報とも合致する!
これは食事の時に、みんなに伝えなきゃな!
そしてしばらくしてから、お風呂に入ってすっかりご機嫌で戻ってきたユリアーナを加え、俺達は夕食の為に1階の酒場へやって来た。
この宿は、宿泊料金に夕飯と朝食が込みになっているらしい。もちろんそれを断って、酒場で好きな物を頼んでもOKだ。でもせっかくだしな。
そして俺は、皆が夕食を食べ終わったころ合いを見計らって、さっきホーキンスから聞いた話をエレオノーレさん達にしていた。
「なるほど、彼女たちの可能性は高いと思うよ。シンちゃんが言ったように、牧場での情報とも一致するしね」
疲れてるからと、珍しく酒を飲まなかったユリアーナの意見だ。エレオノーレさんも頷いて、ユリアーナの意見に賛成していた。
「まあ、唯一の懸念材料は、一か月前の情報だって所かな」
「でもそれを言い出したらキリが無いからね」
ユリアーナの言葉にエレオノーレさんが反応する。確かに一か月前ってのは気になるけど、こればっかりは地道に行くしか無いだろう。ベルストロと言う温泉街に居ればラッキー、くらいに考えておくのが良いだろう。
「さて、と」
俺が聞いた話についての議論が終わると、ユリアーナが立ち上がった。
「悪いけど、私先に寝るね?ちょっと疲れちゃった。あ、シンちゃん、私が寝てるからっていたずらしちゃダメだよ?」
「おい!こんな人が大勢いる所で変な事言わないで下さい!」
その後ユリアーナは「シンちゃんのエッチ~」等と言いながら、部屋へと向かっていった。一体何なんだあいつは・・・。
その後、俺達は酒場でしばらく談笑し、俺はそのまま離れの風呂へ入ってから部屋へと戻った。そしたらユリアーナは本当に眠っているようだった。外泊となったら大はしゃぎするユリアーナが珍しい事だ。余程疲れたんだろうなあ。
そしてそういう俺も、ベッドに横になったら急速に睡魔に襲われ眠りについた。
俺が目を覚ましたのは、何かが割れる音と、激しい物音が聞こえて来たからだった。
「ちょっと!一体何がどうしたんですか!?」
そう言いつつ、ライトの魔法を唱えた。これは昔俺が作った魔法では無く、一般的に販売されているライトの魔法だ。俺の魔法により部屋の中が一気に明るくなった。そしてそこで見えたのは、気を失っている二人の男と「あ、ごめん、起こしちゃった?」等とのんきに言っているユリアーナだった。
「起きるも何も、これは一体・・・」
倒れている二人の男の傍らには、探検のようなものが二本落ちていた。
「あ、それ毒が塗ってあるから触っちゃだめだよ?」
ユリアーナの言葉で、俺は慌てて短剣から距離を取った。毒ってなんだよ?つーか、この状況は何なんだ?
それからしばらくして、エレオノーレさんから事情を説明された宿の女将が衛兵の詰所に連絡。ほどなくして、二人の男は連行されていった。
俺とユリアーナも軍の事務所のような所へ呼び出され、事情を根掘り葉掘り聞かれた。つっても俺は寝てたから、話せることもほとんど無いんだけどな。
そんなこんなで、俺が先に軍から解放され、ユリアーナの方はみっちりと朝まで取り調べが行われていたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます