第三章 バルサナ王国
第119話 再び宿場町へ
「わあっ凄い!」
そう言ってさっきからはしゃいでるのは、俺達の家事全般を仕切ってもらっているソフィだ。
今俺達は、アルターラ発の乗合馬車に乗っている。目的地はバルサナ王国。ギルドの職員から、ティルデとアリーナらしき人物がバルサナへ向かったとの情報を得ることが出来たんだ。
この旅のメンバーは、俺、ユリアーナ、エレオノーレさんの3人に加え、ソフィと、サランドラ商会からブリジッタが同行している。
ブリジッタはサランドラ商会の調査員としてバルサナに向かってるんだ。要はマーケティングみたいなもんだろう。バルサナにはサランドラの営業所が無いみたいだからな。
そのブリジッタも馬車は久しぶりらしく、ソフィと一緒に窓の外をキラキラした目で眺めていた。よく飽きないもんだなーとそんな二人を眺めていた。
「うわー、しんちゃんがソフィとブリジッタをエロい目で見てる~」
「ちょっと!」
俺がぼーっと眺めていたら、いきなりユリアーナがそんな事を言い出した!こいつはなんて事言うんだ!あ!ほらみろ、ブリジッタが「え!?」みたいな顔になってるじゃん!
「ユリアーナさんそういう事言うのやめてもらえますかね!」
「だってホントじゃん~。ずーっとさっきから二人の事見てたし~」
ぐっ、それは事実だが真実じゃあない!
「俺はただ単に、良く外をそんなに眺めていて飽きないな~とか考えてただけですよ!」
「えー、それを言うならシンちゃんだって、以前馬車に乗ってた時ずーっと窓の外見てたよ?」
「え?」
え?まじで?そんなことあったっけ?
「グリーンヒルから宿場町までの馬車で、飽きもせず外見てるよねーってエレオノーレと話してたもん」
「そう言えばそんな事もありましたね。まるで子供のように窓に貼りついてましたよ」
そういってエレオノーレさんはくすくすと笑っている。あれー?そうだったっけ?全然覚えてない・・・。
まあ俺の事はともかく、二人の気持ちはわからなくもない。俺だって子供の頃は電車に乗ったりすると、延々と窓の外の風景を見ていられたもんな―。
特にブリジッタなんか、アルターラに住んでたら、乗合馬車に乗るような機会なんてそうは無いだろうしな。
実を言えば俺だって実は浮かれているかもしれない。だって、ティルデに会えるかもしれないんだぜ?そりゃあ多少浮かれたって仕方ないだろ?
最後あんな別れ方になって、もしかしたら二度と会えないかもしれないとか考えてさ。そして末端とは言え貴族になれて、もしかしたら会えるチャンスあるかも?と思ってたら、今度は向こうが行方不明で。
そんな紆余曲折を得て、ようやく有力な手掛かりが掴めたんだ。バルサナはリバーランドやフォレスタに比べれば、かなり小さい国だと聞いている。この二大大国で人探しをする事に比べれば、人探しの難易度は多少下がってるだろう。
「あの・・・」
俺が窓の外を見ながらそんな事を考えていると、いつの間にかソフィーが俺の横へと来ていた。
「どうしました?」
「いえ、難しい顔をしていらっしゃいましたので、具合でも悪いのかと・・・」
ああ、要は俺を心配してきてくれたって事か。なんという優しい・・・。
「ソフィー大丈夫だよー。このお兄ちゃんはね、後ろ向きな事を考えている時は、いっつもあんな顔してるんだから。だから思う存分後ろ向きにさせてあげて」
「そうなのですか?」
俺が心配ありませんと答えようとしたら、ユリアーナが割り込んできた。
「ちょっとユリアーナさん。変な事吹き込まないで下さいよ」
「え?だってホントの事じゃん」
ユリアーナは真面目にキョトンとした顔でそう言ってきた。こいつ心の底から俺の事そんな風に思ってたのか・・・。
「違います。これからの事を少し考えていただけです」
「後ろ向きに?」
「そんなわけあるかー!」
そんなわけで俺とユリアーナの口論がいつものように始まってしまった。
「あ、あの、止めなくていいんでしょうか?」
「あ、いつもの事なので大丈夫です。頃合い見て間に入りますね」
向かいの座席からは、エレオノーレさんとブリジッタのそんな会話が聞こえて来た。いや、最初から止めて下さいよ!
そしてそれからしばらくの間、俺とユリアーナの不毛な言い争いは続き、その間ソフィーがおろおろしながら俺らの間を行ったり来たりしているうちに、俺達は宿場町へと到着した。ここで一旦馬車を降り、明日バルサナ行きの馬車へと乗り換える予定だ。
馬車から降りたユリアーナとソフィーが「うーん」と言いながら体を伸ばしている。まあ、休憩を挟んだとはいえ、ずっと馬車に乗ってたからな―。そう思いつつ、俺も思い切り体を伸ばす。
「お兄さんたち、宿は決まってる?まだならうちへおいでよ。大き目の部屋が空いてるよ」
馬車を降りると、一人の男が声を掛けて来た。宿屋の呼び込みだ。馬車は安全の為、一台では無くまとめて運行する事になっている。なので、馬車が街へ着く時間になると、宿の呼び込みが一斉に集まってくるんだ。
バルサナとマーティー、そしてグリーンヒルへの分岐点となっているため、人の出入りは多いけど、宿の数も負けずに多い。なので呼び込みも盛んなのだとユリアーナから聞いた。
そして今はエレオノーレさんとブリジッタが呼び込みの人と交渉している。
「皆さん、宿の手配が済みましたのでそちらへ向かいましょう」
そしてしばらくしてからブリジッタがそう言ってきた。交渉がまとまったんだろう。そして俺達は、呼び込みのお兄さんに連れられて、馬車乗り場からそう遠くない宿屋へと案内された。
「いらっしゃーい・・・。あらホーキンス、お客さんかい?」
宿屋のドアを開けると、酒場のような場所となっていた。もう夕方だからか、結構な数の客が入っている。
「女将さん、5名様ご案内だ」
「あいよ!さあさあ疲れたろ?まずは部屋に案内しようかね」
そう言って、女将とよばれた女性は俺達を部屋へと案内し始めた。女将はローフィル族で、話し方の割には見た目若いんだけど、ローフィルだからそこはわかんないな。平気で600歳とかありそうだ。
「はい、ここだよ」
そして俺達が案内されたのは、3人部屋と2一部屋の二部屋だった。
「あれ?大部屋だったのでは?」
俺は疑問に思ってそう尋ねた。
「ええ、最初はそのつもりだったのですが、私達だけならともかく、ブリジッタさんもいますし・・・」
そう言いながら、俺の方を見ている。あ、考えてみれば、エレオノーレさんとかユリアーナとは慣れてしまっていたけど、ブリジッタさんが俺と同じ部屋は嫌だよな。
「すみませんコレナガさん、さすがに男の人と同じ部屋というのは慣れていなくて・・・」
「いえいえ、僕の方もそっちの方が気を使わなくて済みますし・・・って、あれ?」
あれー?えっと、確か部屋割りは3人部屋と二人部屋だよな。あれ?俺は誰と同室になってるんだ?
「どうしました?」
俺が急に考え込み始めたからか、エレオノーレさんがそう尋ねて来た。
「あ、いえ、部屋割りが2対3になっていたので・・・。てっきり僕は一人部屋かと思いました」
てっきり俺は、女4人と俺一人って感じなのかなーって思ったんだ。けど、これ見ると2対3なので、どうなってるんだ?って思ったんだ。
「ふふん」
俺がそう言うと、急にユリアーナがどや顔になった。なんかこんな時のユリアーナからは、悪い予感しかしないんだが・・・。
「シンちゃん喜びなさい!」
「はあ?」
「シンちゃんは、私と同室です!」
それを聞いた瞬間、俺の思考はフリーズしてしまった。
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