第121話 襲ってきた奴ら
ユリアーナが軍の取り調べから帰ってくると、ソフィとブリジッタがすげえ心配そうな顔でユリアーナを出迎えていた。エレオノーレさんは後からやってきたが、どうやら女将さんと交渉して、部屋を5人部屋に変更してもらったようだ。
というのも俺とユリアーナ、つーか、ユリアーナがほとんど眠れてないのと、昨日の今日で何も無いとは思うけど、今晩はエレオノーレさんが徹夜で警戒してくれるとの事で、それだったらみんな同じ部屋の方がいいよねって事らしい。
それで今、一階の酒場でユリアーナが、俺達と女将さん、それにホーキンスに事情を説明している所だ。
「なんかさあ、昨日、早くに寝ちゃったからか、真夜中に目が覚めてさー」
ユリアーナは、まるで昨日の夜何事も無かったかのように呑気に話しを進めていた。すげえなこいつ。さすが高レベル魔法使いだ。
「そしたら窓の外で何か動いてるのが見えて何だろう?とか思ってたら、急に窓が割れて。それで驚いて思わず殴りつけちゃったんだよねー。目が覚めてしばらく経っていたから、眼が暗闇に慣れてたのもラッキーだったかも」
ブリジッタやソフィは「おおっ」等と感嘆の声をあげている。
「いやちょっと待て。あんた魔法使いじゃなかったっけ?なんでグーパンなの?」
いや、おかしいだろ?魔法使いだよ?なんで格闘してんのさ。
「良いじゃん別に、魔法使いが肉弾戦やったって。で、そこでシンちゃんのライトで周囲が明るくなって、そしたら短剣がどす黒い色をしてて、そこで初めて毒が塗ってるってわかったのよ」
「あ、危なかったですねえ」
ブリジッタが真剣な表情でそう言った。
「ホントだよー。後で聞いたら、即死級の毒って言われてさー」
「おおっ」
ブリジッタは初めてこういう話しを身近で体験したからか、かなり興奮しているようだ。ソフィも前のめりで話を聞いていた。
「それであいつらは一体何者だったんだ?」
「それがよくわからなくてさー」
「ん?どういう事です?」
よくわからないって、一体何がよくわからないんだ?
「なんかね?薬物漬けになってたらしくて」
「薬物?」
「そそ。もう、それこそ意思の疎通も図れないくらいべろべろに薬漬け」
な、なんじゃそりゃ・・・。
「え?じゃあ薬物漬けになった中毒者が、たまたま僕らの部屋に侵入してきたって事ですか?」
「軍はそう結論付けたみたいだね。まあ、あれだけ薬漬けだったら、とてもじゃないけど誰かの指示を受けて動くなんて無理だろうねー。まあ、だからこそ私でも勝てたんだろうな」
恐ろしい話だ・・・。つーか、刃物に塗る毒薬なんか、どこで手に入れたんだよ。薬物ルートでそれも手に入るの?怖すぎだろ・・・。
「結構よくある話なんですか?その、薬物でおかしくなった奴の犯罪とか」
「うーん、どうなんだろう?その辺はちょっとわかんないなー」
確かこっちの方が安全ルートって言ってたよな?その情報ホントかどうか疑わしくなってきたな。
「まあとにかく、しばらくは兵士が宿周辺を見張ってくれるらしいから、ゆっくり眠れるんじゃない?」
「それは良かった・・・」
俺は正直、心底ほっとしていた。
以前、アンネローゼとリバーランドに住んでた時に、ハイランドのマルセル達が暗殺しに来たことがあって、あの時は軍が倒してくれたんだけど、一瞬あの時の事を思い出してしまって、結構さっきから足が震えてるんだよね・・・。
まあ結局は薬にラリった奴の犯行という事で安心はしたんだけど、安心したらそれまで遠慮していた恐怖心が顔を出してきて嫌になっちゃうよ。まあでも兵士が見てくれているのなら今日はゆっくり寝れそうだ。
次の日、前日にあまり眠ることが出来なかった俺とユリアーナは、お言葉に甘えて爆睡させてもらった。今は代わりに、徹夜してくれたエレオノーレさんが眠っている。
ところで、実は困ったことが起きてしまった。起きてしまったというか、その事実にさっき気付いてしまったというべきか?
「次の馬車が1週間後?」
「ああ、そうなんだ」
俺の言葉に頷くホーキンス。何が1週間後かって、ベルストロ行きの馬車が1週間後にしか出ないって事だ。
「ホントだったら今日出るはずだったんだが、昨日の事件で今日の便が無くなってしまったようだ」
まじかよ・・・。つーことは、馬車を待ってたら1週間ここで無駄な時間過ごさなきゃいけないって事か?どうしよう?歩いて行けるような距離だったらそうするけど・・・。しかしソフィやブリジッタさんは長距離を歩く事には慣れて無いだろう。
「なんでそんなに馬車が少ないのよ?」
「ベルストロは小さい街だからな―。普段からそれほど人の行き来が多いわけじゃないんだ。バルサナ首都なら毎日便が出てるんだけどね」
「じゃあバルサナ経由でベルストロに行くというのは?」
「バルサナからも馬車が出る頻度は変わらないな」
ユリアーナとホーキンスのやり取りを聞いて、俺は絶望的な気分になっていた。俺の気持ちとしては今すぐにでも出立したいくらいなのに。なんてタイミングで事件を起こしてくれたんだあのチンピラ達は・・・。
「あんたらそんなに急いでるの?」
俺が腕を組んで難しい顔をしていたからか、ホーキンスがそんな事を聞いてきた。
「まあ・・・急いでいると言えば急いでいます」
どっちかと言うと、気持ちが
「ちょっと待っててくれるか?」
ホーキンスはそれだけ言うと、とっととどこかへと行ってしまった。一体何を待つというんだ?俺は同じことを考えていたであろうユリアーナと顔を見合わせていた。
ホーキンスが戻って来たのはお昼ごろになってからだった。その横には見知らぬおっさんも一緒だった。
「よ、待たせたな。こいつはレギアス。俺の古い友人だ」
「どうもレギアスです」
「どうも初めまして、シン・コレナガです。こっちがユリアーナさんです」
「どーもー」
「なんでも、ベルストロに行く手段を探しておいでとか?」
自己紹介が終わると、レギアスは俺達にそう聞いてきた。
「ええ、ちょっと急ぎの用がありまして」
俺がそう言うと、レギアスは一瞬考えるそぶりを見せた後こう言ってきた。
「良ければ、私の馬車でベルストロへご案内しましょうか?」
「へ?」
俺は突然のレギアスの提案に、一瞬何を言っているのかわからなくなった。実はホーキンスには、宿への商品の仕入れなどでいつも世話になっていて、その彼からの依頼なら喜んでお受けしようか、という事だった。
その言葉を聞いてホーキンスが俺達に説明する。
「実はレギアスに、お客を5人ほどベルストロまで運べないか?って聞いてたんだ。そしたら話しを聞きましょうって言ってくれてさー」
まじかよホーキンス!お前良い奴だなー!
「で、どうする?」
ホーキンスのその言葉に、俺とユリアーナにはもちろん「イエス」の言葉しか無かったよ。
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