第96話 始まり

「あら、良さそうな子じゃない。あなたの趣味かしら?」


「違 い ま す!」


 俺達は奴隷市場を後にしたと、普通の市場によって彼女の衣服を購入し、そして今サランドラ商会へと戻ってきた所だ。


 そしてソフィーを見たフィオリーナさんの第一声に繋がっている。


「冗談よ冗談。なんで彼はこんなに不機嫌なの?」


 俺の答えを聞いたフィオリーナさんは、俺ではなくエレオノーレさんにそう聞いていた。


「まあ、色々とありまして・・・」


「ふうん。まあいいんだけど」


 彼女はそう言ってから、幾つかの見取り図を出してきた。どうやら、これから紹介しようと思っている部屋の図らしい。


「ばらばらの部屋を用意する事も出来るけど、さっきも言った通り同じ建物の方が良いと思うの」


 フィオリーナさんが見取り図を見ながら、俺達に確認を取ってくる。


「そうですね、たぶん頻繁に話し合いを行う事になりますので、同じ住居の方が確かに便利ですね」


「だねー。あと、その方が楽しそうだし!」


 エレオノーレさんとユリアーナもそれに同調する。確かに、その方が意思の疎通も図りやすいし予定も立てやすいかもしれない。


「僕も異論はありません」


 なので、その意見には同意した。


「良かったねシンちゃん。ハーレムだよハーレム」


「え?どこにそんな要素が?」


 俺は真剣にわからないって顔で答えてやったぜ。


「えーだって、私とエレオノーレとソフィーの3人の可愛い女子と一緒なんだよ~」


「はっはっはっはっは」


「なにその笑い方!失礼じゃん!」


「まあまあ二人とも、これから一緒にくらしていくんですからね。仲良くしましょう」


 そう言って、もう旅を始めてから何度目になるかわからないエレオノーレさんの仲裁が入った。


そういえばソフィーはさっきからずっと大人しいが、一応ちゃんといる。ただ、借りてきた猫のように隅っこで大人しくしているんだ。


 まあ、さっきまで独房のような場所で奴隷として過ごしていたわけで、そうなってしまうのも仕方ない。


 あ、ちなみに途中でソフィーのぼろぼろの衣服は捨てて、市場で安いけど新しい服を買ってきた。「ザ・奴隷」って感じは今は無いと思う。


「OK。じゃあここでいいわね。後で場所変更もOKだから遠慮なく言ってちょうだい」


「はい。本当に何から何までありがとうございます」


 ホント、家を用意してくれるだけの話かと思ってたら、俺達の生活の事まで考えてくれて、感謝しかないぜ。


「あら?もちろんただじゃないわよ?」


「へ?」


 話は終わったと思ったら、フィオリーナさんからそんな言葉が出て来た。ただじゃないってどう言う事?俺らそんなに金持ってねーぞ?


 そう思ってエレオノーレさんとユリアーナの方を見ると、彼女達も何のことやらわかって無い様子。


「そうねえ、シン・コレナガの体で払ってもらおうかな♪」


 俺が思案顔をしていると、ウインクしながらそんな事を言ってきた。なんだ冗談かよ。真面目まじめに考えて損したぜ。


「料金がかかるのかと思っちゃいましたよ。びっくりしたじゃないですか」


「あら、冗談じゃないわよ。なんなら、そっちの女の子達の方でも良いわよ」


「えええええええええええええええええええええええええええっ!」


 後ろから大声が聞こえて来たのでびっくりして振り向いたら、ソフィーが大きく目を見開いて、座り込んでいた。


「あ、あの、私、女の人とそんな事するの初めてで、あの、ど、どうしていいかもわかりませんし!」


 めっちゃ動揺した声で早口でそんな事を言っていた。


「大丈夫!ソフィーちゃんは私が守るから!」


 そんなソフィーを抱きしめながら、そう宣言するユリアーナ。こいつ絶対面白がってるだろ。


「まあ、冗談はともかく・・・シンコレナガ、あなたがグリーンヒルでやってきた仕事の話は聞きたいわね」


「僕がですか?」


「まあ大体はフィリッポや商会の上の方からは聞いているのだけど、直接本人の口からも話を聞いてみたいのよ」


 なるほど・・・。家を紹介するだけでなく、こっちで暮らしていくうえで色々助言をくれたのも、俺から話を聞きたいがため・・・ってのもあったんだろうなあ。ここまでしてくれたら断りにくいのも計算かも。


 でも、こっちが有益な情報を持っていると知ってくれれば、これからも手厚いサポートを受けることが出来るって事か。わかりやすくて良いじゃん。


「まあ、お役に立つかどうかはわかりませんが、それで良ければ」


 なので俺は彼女の要望にお応えして、答えられる範囲で答えていく事にした。ここでの生活がどれだけのものになるかわからないし、ある程度の関係を築いておくのは悪くないだろ?


「ホント?やった!」


 今までの出来る大人の女みたいな感じから、突然普通の女の子みたいな喜び方で感情を露わにするフィオリーナさん。今のはちょっとぐっときたな。


「えっとそれじゃあ、そちらの皆さんには先に自宅に案内したほうが良いかしら?」


「あー、そうですね。どうしますかエレオノーレさん」


「じゃあご厚意に甘えて、案内してもらってもよろしいですか?」


 そういうわけで俺以外のメンバーは、先にこれから住む家に案内してもらう事にした。疲れてるのあるし、家の事も知っておきたいからね。


 そして皆を見送った後、フィオリーナさんと二人で話を始める。


「えーっと、どこからお話ししましょうか?」


「そうねえ、出来れば「リバーランド」での仕事から聞きたいのだけど」


「え?そこからですか?かなり長いですよ?」


「構わないわよ」


 そう言ってニコっと微笑むフィオリーナさん。


 これはぱっと話してサッと帰るのは無理だな。俺は観念して、リバーランドでの仕事から話を始めた。


◇◆◇◆◇◆◇


 俺がフィオリーナさんから解放されたのは、完全に夜になってからだった。俺の方から今日はもう勘弁してくださいと泣きを入れた。


 彼女はもっと聞きたがっていたが、後日必ずお話ししますからと言って、なんとか了承をもらえた。


「ほーんとにホントだからね!絶対よ!」


 自宅まで馬車で送ってもらう事になり、馬車に乗り込む時までそう言っていたなあ。話の最中もずっと前のめりで聞いてくれてたし、まあ悪い気分では無かった。けど今日はもうさすがに疲れたんでね。


「わかりました。必ず」


 そう約束して馬車に乗り込んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 馬車に揺られてそう経たないうちに紹介された家に着いた。結構ちゃんとしたマンションみたいな所だった。


 どうも、サランドラ商会が所有する社宅みたいな物らしく、1階の入り口には警備員が二人ほど配置されていて、彼らが扉を開けなければ中に入れない仕組みらしい。オートロックみたいだな。


 俺を送ってくれたサランドラの人に挨拶をし、マザープレートを警備員に提示して、中へと入った。フォレスタでは、マザープレートを使った通信は行えないが、本来の役割はきちんと果たしてくれている。


 中に入ると、通路と階段にスタンドプレートが埋め込まれており、夜でも通路は明るかった。


「部屋は、3-4だったっけ?」


 そうつぶやきながら、3-4の部屋の前行くとネームプレートがかかっていたので、読んでみた。


【シンちゃんと3人の美女のハーレム】


 俺は何も言わずにそのプレートを引きちぎり、もらっていたキーで家の中へと入った。


 何考えてんのあいつ!?あれをよその人が見たら、俺の評判どうなると思ってるんだよ!


「おっかえりー♪」


 ユリアーナの元気な声と共に、エレオノーレさんとソフィーも出迎えてくれた。


 おお、なんかいいねこれ。いや、もちろんリバーランドでもアンネローゼが出迎えてくれたし、アスタリータ商店でも同じような感じではあったよ。


 でもさ、アンネローゼはあくまでもメイドとしてってスタンスだったし、アスタリータ商店は住まわせてもらってた身だったからね。


 こんな風に、まあ借家ではあるけど、自分ちに帰ってきて「おかえり」って言われるのは、子供のころ以来じゃないかな。ちょっとおじさん感激してるよ。


「あー!なんでそれ取っちゃってるのよ!」


 ユリアーナがハーレムと書かれたプレートを指さして怒っている。


「こんなもの「ぽい」です!」


 俺はそう言って、近くにあったゴミ箱に投げ捨てた。


「ひどーい!」


 ユリアーナがぷんすか怒ってはいるが、まあ無視だ無視。そしてそれを見て笑うエレオノーレさんと、戸惑っているソフィー。


 なんかこういう生活憧れたかも。別々の部屋にしなくて正解だったわ。これはフィオリーナさんに感謝しなきゃな。

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