第95話 奴隷市場
アルターラの奴隷市場は、繁華街から少し離れた場所にあった。
ちょっと広めの場所に、サーカスのテントが小さくなったようなものが張り出され、その中で奴隷が販売されているようだ。
場所的には風通しの良いからっとした場所にあったので、俺が勝手に想像していたじめじめした劣悪な環境などではないようだ。
まあ、奴隷業者からすれば奴隷は大切な商売道具だからなあ。病気にでもなられたら困るんだろう。
「お邪魔しまーす」
ユリアーナが普通に買い物するかの如く、テントの中に入っていく。彼女はこの世界の住人だし慣れたもんだ。俺はと言うと、それなりにびびりながら中に入ったと思う。
「これはこれはいらっしゃいませ」
俺達がテントに入ると、てもみしながら奴隷業者のおっさんが声を掛けて来た。なんかもうイメージ通りだな。そういえば俺、奴隷市場なんか来るの初めてなんだよ。なんか緊張してきた・・・。
「本日はどのような奴隷をお求めで?」
おっさんがすげえニコニコしながらそう聞いてくる。やばいな異世界。これが日本だったら大炎上どころの話じゃないぜ。
「そうですね、掃除洗濯、できれば料理も出来る子が良いのだけど」
エレオノーレさんがおっさんにそう答える。
「なるほど・・・。それだと人間の奴隷がよろしいかと」
「おすすめの奴隷はいますか?」
「こちらが人間のコーナーとなります」
人間のコーナーだとよ。へどが出そうだぜ。とは言えここは日本じゃないし、この世界にとっては奴隷がどういう存在なのかもわかってるつもりだ。けど慣れるもんじゃないよこれは。
おっさんに案内されてきた場所では、牢屋の中に性別で分けられた人間の奴隷、ほとんどが子供の奴隷が集められていた。
牢の奥で膝を抱えて全く動かない奴、必死にこちらにアピールしてくる奴など様々だ。
それにしても、一体何が原因で子供の身で奴隷にならなければいけなかったんだろうか?アンネローゼは両親の死が原因らしいが。
「お兄ちゃん!」
俺ががらにもなくにもなくそんな事を考えていると、目の前の牢に入っていた少女が突然そう叫んだ。少女が叫んだ方向、つまり俺の後ろに誰かいるのかと思い振り向いてみたが誰もいなかった。
なんのこっちゃと思い、もう一度少女の方へ向き直る。すると何故か、皆が俺の方を注目していた。
え?お兄ちゃんてもしかして俺!?一瞬わけがわからずユリアーナの方を向くと、
「シンちゃんの妹?」
等と聞いてくる。
「いやいや、僕に妹なんかいないのあなたは知ってるでしょうが!」
「えーでも、シンちゃんの事「お兄ちゃん」って呼んでたよ。ねーエレオノーレも聞いたよね?」
そう言ってユリアーナはエレオノーレさんに同意を求める。
「え?え、ええ、はい・・・」
「いや、ちょっと待ってください!僕に妹なんかいませんから!」
「必死で否定している所が怪しい・・・」
「ちょっと!待ってくださいよ!」
なんなんだこの子は!人の事突然お兄ちゃん呼びしやがって!そりゃあ、お兄ちゃんって呼ばれて一瞬ときめかなかったかと言えば、ちょっとぐらついたりはしたんだが・・・。
いやいやいや、そうじゃねーよ。
「えっと、申し訳ないんだけど僕には兄弟はいないんです。たぶん人違いだと思いますよ」
さっき俺の事をお兄ちゃんと呼んだ奴隷の少女・・・つってもこちらの世界では成人済みだろう女の子にそう声を掛けた。
「あっ、すみませんすみません!申し訳ありません!」
そしたらすげえ勢いで謝って来た。こんなの見ると、ああ本当に奴隷なんだなあと実感するぜ。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
そう声を掛けて早急にその場を立ち去ることにした、これ以上いると情が移ってしまいそうだしな。この場はユリアーナとエレオノーレさんに任せた方が良さそうだ。
「ねえねえ、この人、そんなにお兄ちゃんに似てたの?」
俺がその場を立ち去ろうとしたら、ユリアーナが俺の袖をつかんで少女の前に突き出し、そんな質問を女の子にしていた。
「ちょっと何するんですか!」
「えーだって気になるじゃん!どれだけシンちゃんに似ていたのかー」
「いやまあ、そりゃあちょっとは気になりましたけど・・・」
「でしょ!ねえねえ、そんなに似てたの?」
俺の言葉を途中で遮り、女の子にさらに質問を続けるユリアーナさん。ダメだ、もうあきらめよう・・・。
「あの、えっと・・・」
女の子が戸惑いながら俺の方を見て来たので、「どうぞ」と発言を促した。
「あの、もう5年前になるんですけど、生き別れてしまった兄が居まして・・・」
おう・・・。わかってはいたけどヘビーな話が始まったぜ・・・。
「5年前の兄とは背の高さも違うし、体格も違うんですが・・・」
「ふんふん」
ユリアーナは座り込んで前のめりで興味津々に聞いているようだ。その後ろで俺とエレオノーレさんが立った状態で並んで話を聞いていた。
「でも、顔なんかホントそっくりで、兄が生きてたら20歳なんですけど、年齢的にも近そうだったのでつい・・・」
「シンちゃん何歳だっけ?」
「・・・僕は20歳です」
「じーーーーーー」
「いやいや、だからユリアーナさんは知ってるでしょ!僕に兄弟いないって!」
「冗談だよ冗談。シンちゃんてばすぐむきになるんだからー」
こ、この女殴りてえ!
「ねえ君、料理とか洗濯とかできる?」
「え?あ、はい。一応一通りは・・・」
「シンちゃん、この子でいいんじゃない?」
「へ?」
「いやだから、購入する奴隷」
「え?本気ですか?」
「シンちゃん何の為にここに来たのよ・・・」
ユリアーナが呆れたような口調でそう言ってきたが、俺としてはあくまで下見くらいのつもりで来たんだよ。今日すぐ買うなんて聞いてないよ。
「この子じゃ嫌なの?」
「いやいや、そういうわけではありません!」
ユリアーナの言葉を聞いた奴隷の女の子が泣きそうな顔をしていたので、俺は慌てて否定した。ちょっとは言葉を選んでくれよ・・・。
「一般的な家事も出来るみたいだし、シンちゃんへの好感度も珍しく高いし、いいじゃんこの子で!」
「珍しくって・・・」
とは言え、なんかすがるような目でさっきから俺の事見てるし、これはもう避けられない気がしてきた。
まあ考えてみれば、家にはユリアーナとエレオノーレさんがいるわけで、年頃の男の子を雇うわけにはいかないしな。
「お客さん、この子はおすすめですよ。一般的な家事だけでなく、読み書きもできますからね。それでいて40万フォルン!どうです?」
どうです?って言われても、奴隷の相場なんかわかんねーよ。というか、スタンドプレートと人間が同じ価値かよ・・・。
「ええ!家事も読み書きも出来るこの子が40万?安くない!?なんで!?」
ユリアーナが値段を聞いてかなり驚いている。どうも相場よりかなり安いようだ。
「こいつは、前の貴族様の所で
「わかりました。ではその子を引き取ります」
「え?あ、はい。ありがとうございます!」
店主の言葉を聞いて俺は即断しちまった。この異世界の事だとわかっちゃいるが、これ以上聞いてられねえよ!こんな女の子が夜伽だなんだって、ありえねー。
「えっと、良いのシンちゃん?」
たぶん俺が不機嫌になっているのが伝わってきたんだろう。ユリアーナが恐る恐る顔を覗き込むように聞いてきた。
「はい。えっと、君、名前は?」
「あ、あの・・・」
名前を聞かれた少女はかなり戸惑っているようだった。なので今度はもっと優しく聞くことにする。
「僕はシン・コレナガと言います。あなたのお名前を教えてもらっても?」
「あの、私、ソフィー、ソフィー・シントラーと言います!」
「そっか。よろしくお願いしますねソフィー」
こうして俺達のパーティーに、俺の事をお兄ちゃんと呼ぶ一人のメイドさんが加わることになった。
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