第94話 アルターラ支店

 馬車の乗降場からしばらく歩いた場所に、サランドラのアルターラ支店はあった。


 さっきの賑やかな繁華街みたいな場所からすると、どちらかというとグリーンヒルに近い雰囲気の場所になる。


「ここがサランドラのアルターラ支店ですか。グリーンヒルよりかなり大きいですね」


 支店を見た俺の最初の感想だ。グリーンヒル支店よりは数倍はでかいんじゃないの?やっぱ街が大きいと取引先も多いんだろうなあ。


「まあ、ここの支店長はかなりのやり手だって聞くからね」


「そうなんですか?」


「元々カペリ商店が独占していた市場だったのに、半分近いシェアをカペリから奪った猛者もさだからね」

 

「それは凄いですね」


 俺はユリアーナの言葉に心底驚いていた。俺だって営業職を・・・末端だけど、少しはわかってるつもりだ。占有せんゆう市場からシェアを幾らか奪うだけなら難しい事じゃない。けど50%は異常だ。相当なやり手なんだろうな。


 逆にカペリの担当者は首が飛んだんじゃねーの?おーこわいこわい。


 それはともかく、ここで立ち話をしていても始まらないので、社内に入ってみよう。


「失礼します」


「いらっしゃいませ。サランドラ商会アルターラ支店へようこそ」


 俺が入ると、受付のお姉ちゃんが対応してくれた。さすがでかいだけあるなあ。グリーンヒルの時とは大違いだ。あそこじゃ事務作業をしていた社員、マリアンヌの事なんだが、彼女が俺達に対応したからな。受付なんていなかったし。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 俺がそんな事を考えていると、ショートカットの中々かわいい感じの受付嬢が用件を聞いてきた。赤い髪なので、この子もローフィル族なんだろう。


「えっと、支部長のフィオリーナさんに取り次いでほしいのですが」


「お約束はございますか?」


「あ、はい。これを」


 俺は事前にフィリッポさんからもらっていた手紙を受付に渡した。


「拝見しても?」


「はい」


 実は事前にフィリッポさんから手紙を預かってたんだ。アルターラ支店に着いたら、受付にこの手紙を渡して支店長に取り次いでもらってくださいってね。


 なんかフィリッポさんの話し方だと、顔見知りみたいな感じなんだよな、アルターラ支店長とは。


「待たせたわね、私が支店長のフィオリーナよ」


 しばらくすると、金髪エルフの女性がひらひらと手を振りながら奥から出て来た。


「おお・・・中々にないすばでーな色っぽいお姉さんが出て来たね・・・」


 彼女を見た瞬間、ユリアーナが俺にだけ聞こえるように言ってきた。お前はおっさんか・・・。


 しかし確かに美人でスタイルも良い。さらに仕事が出来そうな大人の余裕さえ感じられる良い女ってイメージだな。


 つまり、俺がもっとも苦手とするタイプな匂いがぷんぷんするという事だ。しかしながらそうも言ってはいられないので、自己紹介をする事にしよう。


「初めまして、私はシン・コレナガです」


 そう言ってから手を差し出して握手をする。そしてユリアーナとエレオノーレさんもそれに続いた。


「話は一応フィリッポから聞いてるわ。アルターラで住むところを探してるって聞いたけど?」


 一通り自己紹介が終わり、案内された席に着いてから彼女がそう話しかけて来た。


「はい。どれくらいの滞在になるかはわからないのですが・・・」


「OK、3人なのよね?」


「はい3人です。なので3部屋紹介して頂きたいんです」


 アスタリータ商店では6人で暮らしていたので、3人と改めて言われると少し寂しい気もするな。


「ふむ」


 それを聞くとフィオリーナは、腕を組んでうーんと考え事をし始めた。


「えーと、フィオリーナさん?」


 しばらくそれを眺めた後、俺は思わず話しかけていた。さっきまでの話のどこに、彼女が長考するような話題があっただろうか?


「あー、ごめんごめん。あなたたち人探しをするのよね?」


「ええまあ」


「全員で?」


「まあ、生活の為にクエストなどを受注しながらにはなりますが、基本皆でしようかと」


「ふむ」


 そして彼女はまた自分の思考の中に入っていったようだ。


「ねえ、シンちゃん」


「なんです?」


「なんでこの人こんなに考え込んでるの?」


「いえ、僕にもさっぱりです」


「あのう・・・」


 俺とユリアーナがあーでもないこーでもないと、二人で話し合っていると、恐らく同じように疑問に思ったであろうエレオノーレさんが、フィオリーナさんに話しかけていた。


「あら、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたわ」


 客の前でよくもまあ堂々と考え事が出来るなこの人は。やっぱ仕事できる奴ってのは、どっか変わってるのか?仕事が出来ると言えば、リバーランドのテレジア大公も変な奴だったよな。


 あー、なんかこの人誰かに似てるなーって思ったけど、テレジアに似てる気がする。テレジア程人を食ったような性格じゃなさそうだけど・・・。


「何か気になる点でもありますか?」


 エレオノーレさんの言葉に俺も深く同調する。話の流れからして、俺たちの住む家とかそれ関連の事なんだと思うんだけど、一体何なんだろう?


「うーん、えっとその、君たちの住む家に関してだけど、別々に住むんじゃなくて広い家に一緒に住んだ方が良くない?」


「一緒に・・・ですか?」


 エレオノーレさんは、俺やユリアーナの方を見ながらそう聞き返した。いやあ、3人なんだから3部屋で良くね?まあ、最悪二部屋でも構わないけどね。


「君たちはクエストを受けながら人探しをするのでしょう?」


「そうですね」


「なら、生活パターンは不定期になるかもだし、夜遅くに帰ってくるパターンもあるのよね」


「まあ、その可能性はあるでしょうね」


 この街に居るかどうかわからない人を探しながらの生活だからな。ある程度は不規則になってしまうのも仕方ないだろう。


「知らない街でいつ見つかるかどうかわからに人を探しながら暮らすのは楽じゃないわよ」


 それは・・・わかってる。先が見えない仕事だからな。


「ですがそれは覚悟の上です」


「いや、そうじゃないのよ」


 ん?そういう話じゃなかったの?じゃあ一体この人は何の話をしてるんだ?そういや広い部屋がどうとか言ってたな。


「あなたたち、奴隷を購入したら?」


「は?」


「奴隷よ奴隷。知らない?奴隷」


「いえそれはわかってます。何故奴隷の購入を?と思いまして」


 この人は突然何を言い出すかと思えば、奴隷を購入しろときたもんだ。なんで人探しに奴隷が関係してるんだ?あと、部屋の話はどうなった?


「奴隷を買って、その奴隷に身の回りの世話をしてもらうのよ」


「世話をですか?」


「見知らぬ街でいつ会えるともわからない人探しとクエストの受注、そりゃあ疲れる生活にはなるわよ。きっとあなた達の予想以上にね」


 なるほどね。日々の生活の負担を抑えるための奴隷購入って事か。確かにリバーランド在住時も、アンネローゼがいなかったらと思うとちょっとぞっとしないな。でも・・・。


「ええ・・・まあ・・・。確かに、フィオリーナさんの言う通りだとは思います」


「なんか気が乗らないって顔ね」


「いえいえ、気が乗らないってわけじゃなくてですね、さっきも言ってたとおり人探しなんです。仮にすぐに見つかった場合、これだけしてもらった事が無駄になってしまうわけで」


 すぐにティルデ達が見つかる保障なんてないんだけどな。けれど、すぐに見るかる可能性も無いわけじゃない。その場合奴隷なんか雇っていたらその後の処遇に困るのは目に見えるわけで。


「あら、家の事なら大丈夫よ。社員寮をあなた達に貸し出すだけだし。必要が無くなったら返してもらえればOKよ」


「いやでも奴隷はどうするんです?二人を見付けたら僕らはリバーランドへもどるんですよ?」


「売れば良いじゃないの」


 出たよ・・・。必要無くなったら売ればいい。俺は長年日本で平凡なサラリーマンやってたんだよ。奴隷なんて単語いまだに慣れねーし、そんな扱いできるかっつーの。


 他の皆はどうなんだろう?やっぱり奴隷が居た方が楽なんだろうか?なのでそこの所を聞いてみた。


「まあ確かにねー。奴隷だったら給料も払わないで良いから金銭的負担もそうかからないし良いかもね」


「奴隷を購入すれば、自分達の事に集中できるのは確かですね。有りだと思いますよ」


 ユリアーナはともかくエレオノーレさんまで賛成か。まあ、奴隷の存在が一般的なのはわかってるけどね。う、うーん。


「そんなに悩むくらいだったら、一度見てきたらどう?」


「奴隷をですか?」


「奴隷市場で販売されてるから、明日にでも見てきたら?」


 うーん、そっか、そうだな。一度どんなもんか見てから判断しても遅くは無いか。


「それでは一度見てみることにしましょうか?」


「おっけー」


「そうですね」


 俺の言葉にユリアーナとエレオノーレさんが賛同する。


「じゃあ今日はとりあえずこっちで用意した宿で休んでちょうだい」


「すみません、お世話になります」


 それじゃあ、あまり気は乗らないけど、とりあえず奴隷市場とやらに行ってみるとしますか。

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