第85話 予想外の出来事

「おい、起きろ!」


「ぐえっ」


 頭部に衝撃を感じ、俺は目を覚ました。


 一体何なんだ?そう思いつつ体を起こすと、目の前にはウルバノのおっさんが立っていた。


 なんでこんなむさいおっさんに起こされなきゃならんのだ。出来るなら、エレノアさん辺りに優しく起こされてみたいぜ。そう思いつつ、俺はウルバノさんに挨拶をする。


「あ、おはようございます。もうそんな時間ですか?」


「今は朝の5時だ」


「はあ、5時ですか・・・。え!?5時!?ちょ!起こすの早くない!?」


 思わず耳を疑ってしまったぞ。


 今日は11時開店の予定だったはずだ。しかも「明日は俺がちょっと早めに起きるから、お前さん達は少しゆっくり寝てろ」とウルバノのおっさん本人が言ったはずだぞ。なのになんで俺は叩き起こされているんだ・・・。


「そんな事より外を見ろ」


「外?」


 俺はこのおっさんが何を言ってるのかさっぱりわからず、仕方なく外を見てみた。


「ええっ!」


 窓から外をのぞくと、何と薄暗い中、アスタリータ商店の店の前に行列が出来ている。


「え?何これ?なんで行列が出来てんの!?」


 いや、確かに今日オープンするとは告知していたけど、こんなに朝から並ぶようなイベントか?


「客の手元を見て見ろ?」


「手?」


 おっさんの言う通り、俺は並んでいる奴らの手を見てみた。


「あ・・・」


「なんかチラシ持ってるだろ?」


 おっさんの言う通り、並んでいる奴らは皆、手にチラシらしき物を持っていた。たぶん、エレオノーレさんとマリアンナが配布した「アスタリータ再オープン&スタンドプレート販売」のちらしだろう。


「客はもしかしたら、スタンドプレートを一目見ようと並んでいるのかもな」


「まじかよ・・・」


 まさか、スタンドプレートがここまで客の興味を引くとは思ってもみなかった。


 実は最近知ったんだけど、リバーランドで開発されたスタンドプレートが、フォレスタでも発売されることになり、かなり話題になっていたらしい。で、そこでタイミングよく俺達がチラシを入れた。これは本当に偶然で、狙ってやったわけではないんだ。


 そしてさらに幸運な事に、俺はリバーランドからスタンドプレートを持って来ていた。


 ほら、ロックストーンで余ってたプレートを俺がもらったやつ。あれ、そのまま俺の手元にあるんだ。昨日それをみんなに話したら、そんな事は早く言えとユリアーナからすげえ怒られた。


 なので、昨日のうちに、店内の盗まれないような場所にディスプレイしている。俺の旋風魔法をセットしてな。開店時間になったら、魔法を発動させる予定だ。


 実はスタンドプレート自体は、公共性が高い建物には自治体からレンタルと言う形で、すでに提供されている。例えば、カンパーナストア周辺とかね。人が多く集まりやすい場所には設置されてあるので、みんな一度は見たことがあるはずなんだ。


 だけどさ、こうやって朝から並んでいるのを見ると、やっぱ間近で売り物としてのプレートを見てみたいんだろうね。 けどまあ、これだけ並んでいるからと言ってプレートが売れるとは限らないけどな。


 だって、恐らく高価なプレートを一目見たいと思ってる奴らが大半、つーかほとんどだと思う。なので今日は、そういう人達の中からどれだけアスタリータの顧客として捕まえることが出来るか、まあ、リピーターになってもらえるかに重点を置くべきだろう。


「あ!」


「どうした?」


「どうしたもこうしたも、ウルバノさん、今日の予定をちょっと変更します!」


「なんだ?」


「今日は、ウルバノさんとソニアさんが会計、エレオノーレさんとマリアンナさんがその補佐、ロザリアさんとリーノさんとユリアーナが狩り、そして俺が商品のメンテナンス、フィリッポさんがメンテナンスと商品の発注でしたよね!?」


「おう」


 まずい、まさか朝からこんなに人が並んでいる事は想定していなかった。とてもじゃないが人が足りない。


「すみません、今日の屋台での営業は中止しましょう」


「はあ!?」


「人が足りません」


「あ、ああ確かに、俺が屋台に付きっきりになったら、会計がソニアしか居なくなるな・・・」


 補佐は誰でも出来るが、会計はアスタリータの人間しかできない。こうなると、屋台の告知を当日のサプライズにしようと提案してくれたユリアーナには感謝の言葉しか出ねえわ。


 実は、屋台の案が採用された時、俺としては大々的に事前に告知するつもりだったんだ。けどユリアーナが「えー、サプライズの方が面白いじゃん!」とか言い出して、そのまま彼女の勢いに押されてしまったんだよな。今となってはそれが功を奏した形になっている。


 なので慌ててその場でウルバノさんと人員配置について修正を話し合う事に。その結果、今日の狩りは中止。とりあえず、ここ数日で捕れたイノシシでしばらくはお茶を濁すしかない。


 アスタリータの人には会計をやってもらい、その他の女性陣はその補佐だ。そして残りの人員で、その他の仕事を回そう。フィリッポさんに、もう少し人を回してもらえないか聞いてみないとな・・・。


 それにしても危なかった。ウルバノさんが起こしてくれなかったら、状況を把握できないまま、初日からてんやわんやになる所だった。


◇◆◇◆◇◆◆◆◆◆◆◆


 狩りにくつもりだったロザリアが起きてきた時点で、皆には悪いが、起きてもらう事にした。


「何よ~昨日ゆっくり寝ろって言ってたから寝てたのに~」


「悪い悪い、でもそれどころじゃなくなったんだ」


 ユリアーナの文句に謝りながら、ウルバノさんは外を見るようにみんなに促す。


「え!何あれ!?」


 ユリアーナが驚きの声をあげた。まあ、びっくりするよね。


「どうも、スタンドプレートを見るためにきたようですよ。皆さんチラシ持ってるでしょ?」


 そんなユリアーナに俺が説明する。


「あ、ホントだ!えーどうしよう!プレートバカ売れしちゃうんじゃない?」


 ユリアーナは大興奮でそんな事を言い始めた。


 まあけどそれはないだろう。こう言ってはなんだけど、200万フォルンもするプレートをチラシを見たので「じゃあ買おうか」と言える人がどれくらいいるだろうか?


 俺達がちらしを見て車を気軽に買いに行こうとは思えないのと一緒だよ。しかもこの世界にはローンなんて無いんだからな。


 何度も言うけど、今日来てくれた人が


「またアスタリータ商店で買い物をしよう!」


 こう思ってもらえるようにするのが一番の目的だ。そこを間違えちゃいけない。


「まあ、プレートが売れるかどうかはさておき、みんなせっかく起きて来た事だし、ちょっと早いですが準備に取り掛かりましょう」


「そうだな。何事も準備が大切だ」


 ウルバノさんの返答を合図に、さっき俺とウルバノさんとで話し合った今日の変更について、皆に説明を始めた。


◇◆◇◆◇◆◆◆


 さて、オープン1時間前となった。さっきの話し合いで今日の予定が決まった。


 まず、アスタリータの人は会計。そしてエレノアさん、マリアンナちゃんの2人が補佐。そして俺とリーノは店内での補充とメンテナンス、フィリッポさんが補充と明日の仕入れに関する全般、そして急遽助っ人にやってきてくれた「フランコ」さんが、店外で並んでいる客の誘導と整理をしてくれることに。


 実は、店内に入れる客の数を制限する事にしたんだ。理由は色々ある。まずは、店内に一気に客が入ることによる怪我や事故などを防ぐため、快適に買い物を楽しんでもらう為、万引きを防止するため、主にこの3つだな。


 なので、フランコさんには大変忙しい思いをさせてしまうが、どうにか頑張っていただきたい。あと、入店制限を掛けたことで、会計を二人+補佐二人に減らすことが出来た。なので、時折休憩に入ってもらったり、他所の手伝いをしてもらったりできると思う。今思えば、休憩の事までは全く考えて無かったわ。危なかった。


 そして入店制限、これを客に説明したのはエレノアさんとロザリアさんの二人だ。真面目に、そして真剣に説明する二人の態度に、一部の客を除いて、ほとんどの客は承諾してくれた。文句を言っていた一部の客には、もうしわけないがお帰り頂くことも勧めてもらった。ホント申し訳ないが、これが一番無難な方法だと思う。


 そしていよいよ開店の時が来た。1週間分の夕飯のメニューもばっちり揃えたし、イノシシを使った料理のレシピも掲載した。商品も、普段の生活に必要な物を中心にそろえることが出来た。目玉であるスタンドプレートも、俺のプレートをディスプレイする事で、ある程度の見栄えも良くなった。


 さあ、いよいよオープンだ!

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