第60話 アリサの実家
アリサを襲撃した男を彼女の部下が連れ去った後、俺達は街の中の結構でかめのレストランへ来ていた。
しかもなんか、お上品な香りが
「そうですわよ。北リップシュタート産の海の幸を使ったここの料理は、それはとても美味なんですのよ」
そりゃ店を見ればわかるよ。どう考えても街の定食屋には見えん。
いや、ちょっと待って!俺、服とかめっちゃ普段着で来たんですけど!アンネローゼはおでかけって事で、ちょっと領主館でおめかしさせてもらってるからいいけど、俺はマジで普段着だぞ?
「あのアリサさん?あなたとアンネローゼは良いとして、俺、この格好で大丈夫なの?」
「構いませんわよ。今日は奥のVIPルームを借り切って食事する予定ですし」
V・I・Pルーム!
いやあ、そういう存在があることは聞いてたけど、まさかそこに俺が入れるとは思わなかったわあ。てかやっぱこの人、どっかのお嬢様なんだな。
そんなやりとりをしつつドアへと向かうと、レストランのドアが開いた。
「いらっしゃいませお嬢様。お待ちしておりました」
そう言って出迎えたのは、アリサと同じエルフ族の男だった。金色の長髪を、後ろでしばって流している。エルフ族の例に
「あら、リーンハルト、今日はあなたが担当かしら?」
「はっ、今日は私がお嬢様をご案内させて頂きます」
そういってエルフのイケメンはお辞儀をする。むー、イケメンは何をやっても絵になるね!
「さっ、お客様もどうぞ奥へ」
そう言ってリーンハルトと呼ばれた彼は、俺とアンネローゼを奥へと案内する。
店の中は俺が想像していた通りの雰囲気だった。ほら、テレビとかでよくでてくる高級レストランでの食事シーンとかさ。ああいう風景が目の前に広がってるんだよ。いやあ、正直もう帰りたくなってきたよ。
ふとアンネローゼを見ると、お上りさんよろしく、ぽかーんと口を開けながら歩いている。それでも他の客から失笑の声が聞こえてこないのは、ひとえにアリサのおかげだろう。
だってアリサが店に入った瞬間店内からどよめきが聞こえてきたからね。そして次々とアリサに挨拶し始めるんだよ。一体どうなってんの?
そしてアリサの後に続く俺達を見て「こいつら誰?」みたいな顔になるわけだ。マジで帰りたい・・・。
そんなことを考えながらとぼとぼと歩いていると、店の2階にあるVIPルームへとたどり着いた。部屋の前には屈強そうな男が2名、武装した格好で立っている。
「ご苦労様」
アリサが声を掛けると「はっ!」と敬礼した後、また警戒の姿勢へと戻る。部屋に入ると、そこにはお高級そうな
「どうぞ、お座りになって」
アリサに促され、俺とアンネローゼは席に着いた。
「お二人はアルコールはお飲みになりますの?」
「いえ、僕とアンネローゼはお酒はほとんど飲めません・・・」
「あらそうでしたの?では私には食前酒、銘柄はリーンハルトにお任せしますわ。他の方々にはフルーツのジュースを」
「かしこまりました」
そういってリーンハルトさんは部屋を出ていった。
ぶっはー!
店に入ってからこれまでの間、まるで息をしていない感覚に襲われてたようだぜ!アンネローゼも同じらしく、カチコチに固まっている。
「お二人とも楽になさればよろいいのに」
「いやいや、こういうお店に来たことないですし、そりゃ無理ですよ」
「あら?でもあなた、テレジア・ロンネフェルト閣下やヴァンデルフェラー家のご息女とも親交があったのでしょ?こういう機会もあったのではなくて?」
「確かに仕事上のお付き合いはありましたが、僕はあくまでも
「そうなんですの?」
そうだよ。あくまでも、向こうは俺を監視するために近付いてきただけだ。監視対象、それ以上でもそれ以下でもない。
あー、この話題になると、なんかこうもやもやとしてしまう自分が嫌だ。なので俺は話題を変えることにした。
「それよりもですね、アリサさん」
「何です?」
「とりあえず、その、クラウディアさんが背中に背負っているでっかい銃みたいなのはなんです!?」
そう、実はずっとクラウディアさん一緒に付いてきていたんだ。それはいい、それは良いんだが、背中にでっかいライフルみたいなのを背負ったままレストランを歩いてるんだぜ。
ライフルみたいって言ってるのは、実際には銃身が銃ではなく弓みたいになっているからだ。なんだっけ?こういう武器の事をなんとかボウって言うよな。
「ああ、これですか?これはクラウディアの一番得意な武器「クロスボウ」ですわ」
ああ、そうそう!クロスボウだ。昔遊んでたRPGに出てきたことがある武器だよ。
「いや、だからなんでそんなもん背負ってるんです?」
「それは私を遠くから護衛する為ですわ。さっきも私達を助けてくれたでしょう?」
「・・・あ!」
それでようやく俺は気が付いたよ。さっきの男が急に武器を弾かれて、手を押さえてうずくまったのは、この人がクロスボウで狙撃したんだ。
「それにしても、どこから狙っていたんですか?全く気が付かなかった・・・」
「まあ、クラウディアが本気を出せば、100メートルくらいはいけるのでは?」
ひゃ、ひゃくめーとる!?まじで!?
「まあ、それ以上はクロスボウの性能に邪魔されて、物理的に無理なんですが」
「そ、それは凄いですね・・・」
自分の雇い主から大絶賛を受けている当のクラウディア本人は、両手を前に突き出して「そんなことはありませんから><」と、真っ赤になってすげえ照れながら謙遜している。
なんか、狙撃の実力と本人の性格のギャップが凄いな。よく見れば、銃身にはスコープみたいな物もついている。これで遠くの標的を狙うのか・・・。
「そういえば・・・」
そこで俺はアリサが言っていたもうひとつの事を思い出した。
「そういえば、あの男は結局なんだったんです?逆恨みされてるとか言ってましたね?」
「ああ、あれはですね・・・」
アリサには特に話しづらい話題でもないらしく、普通に話してくれた。
「今から50年ほど昔の事なんですが、原因は不明ですが、リップシュタート湾全体が大不漁に陥ったんですの」
アリサが言うには、あまりの不漁に魚の価格付かない事態に陥ったらしい。通常の価格で売ってたのでは漁師たちが食べていけない。でも高くすると誰も買ってくれないとかで全く値が付かなかったとか。
「そこで助け舟を出したのが「バリー商会」ですの」
「バリー商会?え?バリーって・・・」
「そう、私の実家ですわ」
やっぱりお嬢様でしたか・・・。
んでアリサが言うには、自分とこの実家がこの危機に助け舟を出したんだ。条件付きで。
「条件は「バリー商会の傘下に入る事」でしたの」
アリサの実家のように、漁だけでなく、肉や穀物など広く取り扱っていた商会は、この大不漁を乗り切る余裕もあったらしいけど、漁だけで生計を立てていた商会はこの案に飛び付いたらしい。
一部を除いて。
その一部ってのが、バリー商会とライバル関係にあった商会達だ。
彼らは、バリー商会の傘下に入ることを条件に付けるなど汚い真似をするな!と、そりゃあこっぴどく
まあ早い話が「
いやあ、いつの時代にも厚かましい奴がいるもんだね。よく考えりゃあ、自分とこの傘下に入れるっつーことは、それだけ食い
そんな厳しい時期に、リスクを伴う援助を行うんだから、バリー商会ってのは、余程義理と人情に厚い商会なんだろう。実際、かなりの数の商会が傘下に入ったらしい。
で、その時バリー商会の傘下に入った中堅商会の会長の孫が「クラウディア」さんなんだって。そして、ライバル関係にあった商会・・・今では無くなってしまったので「元商会」の一族の末裔がさっきの剣を持った男ってわけだ。
「しかし、そんな時代にリスクを分散させて、漁だけじゃなく肉や穀物なども取り扱っていたなんて、その時の会長さんはやり手だったんですねえ」
だって、まるで現代社会の会社作りみたいなシステムだぞ。この世界でそれをやっているなんて凄すぎる。
「当時の会長の反対を押し切って、そのようなシステムを構築されたのはお嬢様と聞いております」
「え?」
ええ!?50年前だぞ?なんでこの人が・・・って、そうだ!この人エルフだったよ!同じ転生者って事で、すっかり忘れてた。いや、この人がエルフって事をじゃなく、このエルフに転生したアリサも、例外なく長寿族の一人だって事をさ。
「まあ、私は澤田みたいな思想で動いていたわけじゃありませんわ。自分の実家を守りたかっただけですの」
いつの間にか注がれていた食前酒を飲みながら、アリサはそう言った。
今の話を聞く限り、アリサは転生先の家族とは良好な関係を築いているみたいだ。だって、澤田とは関係なく、自分達の家族を守りたいから、リスク分散を進言したみたいだしな。
地球人だったころの記憶を持っているってのはさ、それはつまり前の「両親」の記憶を持ちながら、新しい「両親」と暮らしていく事になる。
それはどういう心境なんだろう?彼女達は、今の家族も含めて上手くいっているこの世界を、自分達が元居た地球のような「進化」していく世界にするという。それについてはどう考えているんだろうか?
俺はそんなことを考えながら、目の前の美味そうなジュースに手を伸ばした。
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