第59話 港町での休日
青い空に白い雲。
そして眼前に広がる大きな大きな港。
僕は今、海に来ています。
・・・。
なんか、友人や親に出す手紙の冒頭か何かみたいだな。
実は昼飯を食ってる時に
なんでって聞いたら、なんか昨日は「少し
自分達の立場を少しでも早く理解してもらわなければとの考えが優先されすぎて、俺達の事を全く考えてなかったと謝られたよ。
長旅で疲れているのだから、まずはゆっくりやすんでもらうべきだったと。そう言って、ユリアーナとアリサから後で怒られたらしい。
でもまあ、何も知らされないままゆっくりくつろげって言われたところで、絶対無理だったんで、俺としては特に不満なんか無かったんだけどね。どっちにしろ、皆の気遣いには感謝しておこうと思う。
なので今日は予定を変更して、ミュリエル・・・じゃなくてアリサに、この街を案内してもらっているんだ。
というか、正直驚きだよ。港町としか聞いてなかったので、てっきりリバーウォールの規模を小さくした感じなのかと思ったら、逆に港としての規模はこちらのほうがでかかった。街の雰囲気もリバーウォールとは全くと言って良い程違うんだ。
リバーウォールは比較的新しい街なんだ。運河を作ってから発展していったらしいからね。
でもこっちは、古くからある由緒正しい港町だ。リバーウォールでは見かける事が無いような建築物も多い。なので、さっきから案内役のアリサがどや顔で港自慢をしてくるのも
「北リップシュタートは、リバーウォール湾に接している広さが、リバーランド国内でも最大なんですの。なので、それを生かした漁や貿易も国内最大級なんですのよ」
アリサは鼻の穴を大きく広げ、腰に手を当てて自慢げに話してくる。この人本当に転生者なの?地元大好きっ子にしかみえねーよ。
「それにしても・・・」
そう言って、アリサは視線を俺達の前方に向ける。そこには、物珍しそうに魚市場を歩き回るアンネローゼの姿があった。
最初は「ご主人様をお守りしなければ!」などと鼻息荒く言っていた彼女だが、港が近づくにつれ、段々と宝物を見付けたような好奇心いっぱいの目を輝かせていた。
なので俺は、自分達から離れ過ぎなければ自由に見てきても構いませんよって言ったんだ。そしたら最初は遠慮していたんだが、段々我慢できなくなったのか、人だかりができていた魚市場へとダッシュしていった。
「あなたのメイドは、リップシュタート観光を満喫しておられますわね。こちらも誘った甲斐があるというものですわ」
「はは、本当に今日はありがとうございます」
ここんところ、ゆっくりする間もなかったからなあ。あんなにはしゃぐアンネローゼは久々に見たかもな。
「あなたも遠慮せずに観光すればよろしいのに」
「いえ、僕も十分楽しんでますよ」
実際こんなにリラックス出来ているのは久しぶりだ。たぶんここが、転生者達の本拠地だって事も、俺が安心出来ている要因だと思う。ホントここの所生きてる実感無かったからなあ。
とは言え、昨日の話し合いの内容が、常に思考の一角を占拠しているのも事実なんだけどな。
昨日澤田から聞いた話は、一日やそこらで消化できるようなもんじゃねーし。あまりにも非現実的すぎて、逆に実感がわかないというか。
けど、これまで俺に起こってきた出来事を考えると、それほど非現実的でもない事実に気付いたりと、それはまあ、頭の中が大混乱中だ。けど、混乱しすぎて頭の中は意外と冷静でいられるんだよなあ。
「何を難しい顔をしていますの?」
気が付くとアリサが俺の顔をのぞき込んでいた。
「ぎゃああああああああああああっ!」
「なんですか!人の顔を見て叫ぶとは失礼でしょう!」
アリサは腰に手を当ててぷんすかと怒っていた。
「いや、急に覗き込まれたら、そりゃあびっくりしますよ・・・」
はああ、今でも心臓がドキドキしてるぜ。あんな美人エルフに顔を近づけられたら、そりゃあびびるっつーの。
「あなたそんなことで驚いていたのでは、ユリアーナの良い標的になっていたのではなくて?」
「うっ・・・」
くそー、馬車の中で散々からかわれていた事を思い出してしまった・・・って、あれ?
「そういえば、今日はユリアーナはどうしたんです?」
こんな時、必ずと言って良いほど付いてくるであろうユリアーナの姿が見当たらない。
「ユリアーナなら、演奏会の練習に行きましたわ。と言うか、「休んで一緒に観光に行くー!」って言ってたのを、私と澤田で無理やり練習に行かせたのですけれど」
「ははは・・・」
なるほど、道理でなんか静かだなあと思ったわけだ。彼女がいたら、間違いなく俺をからかい始め、それを見たアンネローゼが不機嫌になるという、最近ではお約束になりつつあるイベントが起こっているはずだからな。
「少し寂しいですか?」
「いえ別に」
アリサの問いに間髪入れずに答えてやったともさ!
「それ、あの子が聞いたら怒りますわよ」
アリサが苦笑いをしながら俺に言ってきたところを見ると、まあ、彼女も察しはついているんだろう。
いや、確かに彼女には本当に助けられたし、励ましてもらっていると思う。ユリアーナは、基本すげえ良い奴だ。それはここ数日でよーくわかった。それを踏まえたうえで、今日は静かに過ごさせて頂きたいです・・・。
だって一緒にいると、ずーっと質問攻めなんだよ?
「ねえねえ、日本では彼女とか居たの?」
「フェイスブックとかインスタはやってたの?ツイッターは?」
「なんでアニメとゲームばっかしてたの?」
なんか俺が答えにくい質問ばかりしてきやがるんだよあいつ!
フェイスブックとかインスタとか、そんなリア充じゃなきゃやってねーような事俺に聞くなっつーの!今
大体あの人異世界人なのに、なんで日本で流行りのコンテンツにあんなに詳しいんだよ!おかしいだろ!?
アニメ・・・ゲームか・・・。
そういや異世界に来てからどのくらいたったんだっけ?今19歳だから4年経過してるって事か?はあ、もう4年も経ったのかよ・・・。この4年で何やったっけ俺?
色々やろうとして失敗して、やっと生活の地盤を手に入れたと思ったら、今度はこの世界の秘密まで知ってしまって・・・。どうするんだろうなあ、どうなるんだろうなあ俺。
「ミュリエル・ド・バリー!」
俺がそんなとりとめのない事を考えていると、道路の前方に剣を持った男が立っていた。そしてなんと剣を構え、ミュリエルの名を叫びながら突進してきた!
前方を歩いていたアンネローゼは異常に気付き剣を抜いていけど、これ絶対間に合わねーぞ!?
俺も咄嗟に剣を抜いたんだけど、実戦経験に乏しく、この場を凌げる自信は全く無い。どうすりゃいいんだ!
ガキィィィン!
しかし次の瞬間、男の剣は宙を舞っていた。
「え!?」
俺は一体何が起こったのか全く分からなかったよ。ミュリエルが何かしたのかと思ったが、彼女は何も行動していない。けど、剣を持ってこっちに走ってきた男は手を痛そうに押さえてうずくまっている。
「ご主人様大丈夫ですか!?」
しばらくすると、アンネローゼもこちらに戻ってきた。
「いや、俺はなんともないんだけど・・・」
そう言って、さっきの男に視線を戻した。相変わらず痛そうに手を押さえてうずくまっている。アンネローゼは、俺とアリサの前に立って、様子を伺っていた。
すると今度は、道路の路地から3人の男達が現れた。
嘘だろ・・・?一人でもいっぱいいっぱいだったのに、3人とか絶対無理だろ!なんなんだよこれは!
そう思いながらも、俺は再び剣を握りなおした。アンネローゼも剣を持って構えている。えーい!もうどうにでもなれ!
「あ、彼らは味方ですわよ」
「へ?」
俺が半ば自棄になっていると、アリサからそう言われた。よく見ると、3人の新たに現れた男達は、さっきの剣を持っていた男を拘束し始めている。えっとこれどういうこと?
「お嬢様!」
そして今度は後方から声が聞こえてきた。
振り返ると、真っ黒なロングヘアーが特徴的な、俺達とそう変わらない年齢の女の子が走ってきていた。
「クラウディア、私は無事ですわ。よくやってくれましたね」
そしてアリサはその女の子に向かってそう話しかけた。
「えっとすみません、事態が良く呑み込めていないのですが・・・」
俺をほったらかして進んでいく現状に意味が分からず、思わずアリサに尋ねてしまった。見るとアンネローゼも?マークだらけの顔をしている。
「あら、ごめんなさい」
そう言ってからアリサはこちらに向き直り、俺達に事態の説明を始める。
「端的に言えば、私を逆恨みして襲ってきた不審者を、ここにいる私の専属ボディーガードであるクラウディアが撃退し、私の部下達が取り押さえている所ですわ」
「・・・・・・・・・」
今の返事で理解できる天才がいるだろうか?俺は残念ながら凡人なので全くわからなかったよ。
「えっとアリサさん、今の説明じゃ全く意味がわかりません」
「ええ?これ以上無いくらいの説明をして差し上げたつもりだったのですけれど・・・」
いやいやいや、それは現状を説明しただけで、逆に色々わかんない事が増えたんですけど!ボディーガード?逆恨み?私の部下?この人どっかのお嬢様だったの?いや、話し方は確かにそれっぽかったけどさ。
俺の言葉に一瞬悩む姿を見せたアリサだったが、すぐに何かを思いついたらしい。
「そうね、ちょうど食事時ですし、お食事しながら話しましょう」
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