第51話 本拠地にて

「やっほーボリスー!帰ってきたよー!」


「よう・・・。ふーん、そいつが例の奴か?」


 ユリアーナにボリスと呼ばれた男が、胡散臭うさんくさそうな顔で俺を見る。

 いやもう慣れたもんだけどね。


 ここは、ユリアーナ達の本拠地の建物の玄関だ。

 カールとか言うおっさん達と別れて、俺たちはユリアーナ達の本拠地としている建物にやってきたんだ。


 で、その建物の前で気だるそうに警備らしき事をやっている青年に、ユリアーナが声を掛けたところだ。


「シンちゃん紹介するね。この子はボリス。リバーランド王国軍の兵士で、私達の本拠地の護衛をしてくれてるの」


「あ、どうも初めまして、シン・コレナガと申します」


「ボリス・ヴァイヤーだ」


 ボリスは、お前なんかに名乗る名前はねーよみたいな態度をありありと俺に見せてくる。


「もう!ボリス、シンちゃんは適格者じゃないんだから、そういう態度はダメでしょ!」


「はっ、こんな間抜まぬづらした奴が適格者だったら、俺らの仕事も楽なんだけどな」


 ま、間抜けだとおおおおおおおおおおおお!


 と、一瞬頭に血が上りそうになるが、なんか久々に間抜けとか言われた気がして懐かしい気がするなあ。

 日本にいたときは、散々間抜けだなんだと陰口を叩かれていたからな。

 そういえばこっちの世界にきてから言われたのは初めてかも!

 あれ?なんでちょっと懐かしいとか思っちゃってんだよ俺・・・。


「ご主人様に何と言う事を!」


 変な感情が湧き出てきて混乱していると、アンネローゼの怒号が玄関に響き渡った。


「は?なんだお前、メイドの分際で王国軍兵士に盾突く気か?」


「私がおしたいしているのはご主人様だけです!ご主人様を愚弄ぐろうするなら、誰だって許しません!」


 ちょ!やばいよやばいよ!

 悪口を言われた当の本人をほったらかしで、ボリスとアンネローゼの間で今にも取っ組み合いの喧嘩でも始まりそうな雰囲気だ。


「アンネローゼ、僕なら大丈夫ですから!」


「ご主人様が良くても、主人を愚弄された私の気が済みません!」


「ええ・・・」


 いや俺が当事者だし、俺が良いっていってんだから良いじゃん!って言いたい所なんだけど、アンネローゼも俺を慕ってくれているからこその、この怒りようなわけで。

 なんかそれを無下むげにも出来ないんだけど、でもこの状況はまずいわけで。


「ボリス!いい加減にしなさい!」


 俺がうだうだと解決策を考えていると、ユリアーナがボリスを怒っていた。


「シン・コレナガは私たちの客なの。あなたが私の客をそういう風に扱うの?」


 さっきと打って変わって語り掛けるように話すユリアーナに、ボリスは「ふんっ」と鼻を鳴らして玄関先へと歩いて行った。

 おお、すげえ・・・。

 あのくそ生意気で鼻っ柱の強そうな奴を、一言で静かにさせたぞ・・・。


「ごめんね、アンネローゼ。気分を悪くさせちゃったかもしれないけど、私の仲間はそんな事ないから安心して!」


 そして謝罪してきた。俺じゃなくてアンネローゼに。


「すみませんアンネローゼ、僕が不甲斐ないばかりに・・・」


 そして俺もユリアーナの謝罪から間髪入れずにアンネローゼに詫びを入れる。


「そ、そんなご主人様!謝らないで下さい!」


「いえ、もし彼が激怒してアンネローゼに何かあったら僕の責任でした。本当に申し訳ない」


 俺は深々とアンネローゼに頭を下げる。

 それを見たアンネローゼは困惑の表情を浮かべていた。

 もうすっかりボリスの事は頭から無くなっているだろう。


 ユリアーナがアンネローゼに謝ってくれたおかげで、とりあえず穏便に済ますことが出来た。

 もしかして、この流れを想定して行動したの?

 だとしたら、相当頭のキレる奴だぞ。俺なんか何も出来ずにあたふたしてるだけだったのに。


 まあそれはともかく、問題はアンネローゼだ。

 俺がハイランドからの刺客に襲われれかけたあの事件以降、俺の事に関して敏感になりすぎている気がする。

 最初は、自分が仕える主人の為に必死になっているのかな?とか考えていたんだけど、どうもそうではないようだ。

 これはあまり良い傾向じゃあ無い。

 よく考えれば、そもそもその傾向はあったんだけど、今回の事件があってからより鮮明になって、俺も気付くことが出来たんだ。

 いや、俺に害があるとかいう話じゃなくて、アンネローゼ自身の為に良くない事なんだ。


 まあでも、今はこの問題は置いておこう。

 とりあえず、澤田とかいう日本人と話すことに集中したい。


「じゃあ落ち着いた所で、澤ちんの所へ行こうか?」


「・・・澤ちん?」


「そ、澤田だから澤ちん。可愛いでしょ?」


「はあ・・・」


「シンちゃんノリわるーい」


 知るか!俺はそういうノリが一番嫌いなんだよ!

 すっかり忘れてたが、こいつはこういう奴だった!

 ユリアーナと話していると、俺が今、人生の岐路に立っているって事すら忘れそうだ・・・。


「ああ!わかったー!」


 今度はなんだよ・・・。


「あれでしょ?アルフレートがティルデと一緒に逃げたんじゃないかって事が気になってるんでしょ?もう心配無いっていってるのに~」


「・・・・・・」


 そういえば、アルフレートの奴がティルデと一緒には逃げてないって事は聞いたけど、そう言える根拠は聞いてなかったな。

 でもそんなの今このタイミングで言う事じゃねーよ。

 あほかこいつは!


「ティルデとアルフレートの事は気になりますが、今この瞬間にどうにかなるような事でもないですし、気にしてもしかたありません」


「えー!でも愛しのティルデがどうなってるのかホントの所は気になるんでしょ?」


「ティルデは僕の敬愛する魔法剣士であり仲間です。そういう下衆げす勘繰かんぐりみたいな事はやめてもらいましょう!」


「ちぇー、シンちゃんホントノリわる~い」


 ふん!まったく!


「あの、ご主人様。愛するティルデさんとは、一体どういう事なのでしょうか・・・?」


 いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

 アンネローゼがいたんだったああああああ!


 やっべえ、完全に疑いの眼差しで俺の方を見てる!

 ユリアーナを見れば、口に手を当てて笑いをこらえている。

 あんのやろう、わかってて言いやがったなあああああああああ!


「えっとですね、これは何と言いますか、えーあー・・・そう!ユリアーナの誤解なんです!」


「そう・・・なんですか?」


「はい!あの女、あまりにも自分がモテナイものだから、僕とアンネローゼが仲良くしているのを見てちょっかいを出してきただけなんですよ」


「ちょっとシンちゃん!何言ってるの!?」


「だってそうじゃないですか!じゃなきゃ、僕とティルデ関係をそれほど知らないはずなのに、愛しのとか使うわけがないです!」


「違いますううううううううう!私これでももてるんですうううううう!」


「街の老人会の方々にさぞかしもてるんでしょうね」


「違うわよ!イケメンによ!イケメンに!」


「はあ、イケメンにですか。あははははは」


「何よその乾いた笑いは!大体ねえ、あn・・・」


「いい加減にしてください!」


 俺とユリアーナの言い争いがヒートアップしてきた所で、アンネローゼの大きな声が響き渡る。

 はっ!と我に返る俺とユリアーナ。

 なんつーくだらない事で喧嘩してたんだ・・・。

 やべえ、これは恥ずかしい!

 見るとユリアーナも、顔を真っ赤にして斜め下を見ている。


 いかんいかん。俺は見た目は20歳前だが、実年齢は45歳くらいだぞ?そしてたぶんユリアーナもローフィル族なので、恐らく俺よりも年は上だろう。

 そんな年長二人が、20前の女子に怒られるとか情けねえ。


 これは反省せねば。

 そう考えている時だった。


「喧嘩はいけません!」


 アンネローゼのその言葉を聞いた瞬間、俺とユリアーナの心はきっと一つになっていたに違いない。

 だってさ、


「お前が言うな!」


 って、二人でハモっちまったもん。


 そしてそう言われた当のアンネローゼ本人は、首をひねりながらきょとんとした顔で、俺とユリアーナの顔を交互に見ていた。

 ちくしょう!きょとんとしているアンネローゼは可愛いな!


 と言うか俺、これから本当にこいつらのボスと会うわけ?緊張感の欠片かけらもないんですけど・・・。

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