第七章 幻想神と現代神

第50話 北リップシュタート

「えっと、なんか意外と普通の街ですね」


 北リップシュタートの街に入った俺の率直な感想だ。だって、転生者達の本拠地って言うからさ、もっとこう、厳重に警備されたような重々しい雰囲気を想像してたんだよ。


「意外とってどういう事よ」


 ユリアーナは笑いながら抗議してきた。


「いえ、本拠地と聞いてたので、もっと物々しい雰囲気の所なのかと」


「私達の本拠地って言ってもリバーランドの中の1都市だからねー。他とそう変わるわけないよ~」


 まあ、考えてみればそれはそうだな。


 とは言え、厳密にいうと普通という表現はちょっと間違ってるかもな。なんでかっつーと、北リップシュタートは巨大な港町だからだ。


 リバーウォールもエルミーラ運河をメインの航路として利用しているので、それなりにでかい港があったけど、こちらはリバーウォール湾というさらに巨大な海をメインにしているので、港の特性が全く違う。


 あちらは物資のやり取りがメインだが、こちらは漁業と観光も盛んな港町だ。

 さらに言うとリバーウォール側からは、湾内に直接船を出港させることが出来ない。


 理由は、湾に面した場所が、かなりでかい岩山で成り立っている為だった。

 なので、海沿いに街があるにも関わらず運河を作ったのだと。


 でもそう考えると、リバーウォールがハイランドに占拠されていたら、リバーウォール湾内にある、現代神がいるって言われている南リップシュタート諸島にアクセス出来るようになる可能性があったわけで、すげえピンチだったんじゃないの?


 南北のリップシュタートがハイランドからの攻撃にあうところだったんだから。

 そう聞いてみたら・・・。


「まあ、本拠地の場所なんてどこでもいいのよ」


 という返事が返ってきた。なんつー能天気な・・・。


「はい到着」


 ちょっと前に交わした、ユリアーナとの会話を思い出していると、いつの間にか目的地に到着していた。


「ここは・・・」


「ここは、北リップシュタートの領主館よ。この敷地内に私たちの本部があるの」


 馬車を降りたユリアーナが建物を指さしながら説明してくる。建物の規模はリバーウォールの2倍くらい大きいだろうか?観光と漁業の港町という特性上、リバーウォール以上に様々な役所機能が詰まってるのかもしれないな。


「ご主人様!」


 俺がユリアーナの後ろから馬車を降りていると、アンネローゼが駆け寄ってきた。

 

 アンネローゼはバリーと同じ馬車に乗っていたんだ。最初は俺と一緒が良いと言い張っていたんだけど、俺がユリアーナと話したいことがあるからと言って説得したんだよ。


 まあ、今や微妙な仲となってしまったバリーと一緒の馬車にいるのは、結構きつかったかもしれないなあ。

 

「大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?あの女に何か変な事はされませんでしたか!?」


 アンネローゼは俺のそばに来るなりそう言い放った。あの女ってのはユリアーナの事だろうな。凄いぜアンネローゼさん。ユリアーナ本人がいる前でそのセリフ、普通は中々言えませんよ。


「大丈夫ですアンネローゼ。彼らのことについて、少しだけ話を聞いただけですから」


 そう言った瞬間、馬車から降りてアンネローゼの後ろに立っていたバリーの表情が一瞬固くなった気がした。俺に聞かれてはまずい話もたくさんあるんだろう。まあもう、色々聞いちゃったけどな。


 そしてアンネローゼからあの女呼ばわりされたユリアーナは苦笑いをしていたが、バリーの顔色が曇ったことは、別に気にもしてない風だった。


 やっぱり彼らは一枚岩ではないんだろうって気がしてきた。ただ、どっちが俺の味方とかは考えないほうが良い気がする。思い込みは判断を鈍らせるし、何よりも何かあった時に俺がへこむ・・・。


「ようユリアーナ、今帰ったのか?・・・はっ!これはバリー様お久しぶりでございます!」


「ふん・・・」


 領主館の門番みたいな兵士がユリアーナに声を掛けようとし、バリーの姿を見て慌てて姿勢を正していた。


それからも、ユリアーナの姿を見かけては領主館の奴らが声を掛けてきて、一緒にいるバリーの姿を見て慌てて敬礼するという流れが続いた。


 あと、一緒にいる俺とアンネローゼの方をいぶかに見ているのもセットだった。アンネローゼなんか、完全にメイド服で来ているので、見ているほうは余計に混乱していたかもしれないな。


 どっちにしてもユリアーナはここでは上手くやっているみたいだし、バリーは本国のお偉いさんとして正しく恐れられているみたいだ。


「お待ちしておりました」


 声が聞こえてきた方向を見ると、40代後半くらいの男が兵士を数人伴って、領主館の建物からやってくるところだった。


「久しぶりだなカール、元気だったか?」


「は、バリー様も、ますますご健勝けんしょうの事とお聞きしております」


「ふん、それだけが取りだからの」


 そう言って豪快に笑うバリー。なんかすげえ仲良さそうだ。


 そしてカールと呼ばれた男は、俺の方を目だけで確認してバリーに話しかける。兵士を後ろに従えている事からも、それなりの身分の人間なのかもしれない。


「して、こ奴が例の・・・?」


「ああ、シン・コレナガ、例の適格者だ」


 バリーのその言葉と同時に、周囲からざわめきの声が聞こえてきた。そして汚いものでも見るような目で俺を見てくる。なんだよこれ・・・。


 ふとアンネローゼが視界に入った。まずい!俺に対するさげすみの視線に気づいて、今にも爆発しそうな顔をしている。


「正確には、「不」適格者だけどね」


 俺慌ててアンネローゼを止めようとしていると、ユリアーナが良いタイミングで話し出した。


「不適格者?」


「そ。適格者になれなかった不適格者。なので危険性はないよ」


「ふん、どうだか」


 俺達の前で火花を散らしあうカールとユリアーナ。どうも、カールと呼ばれた男とユリアーナは相性があまり良くないらしい。そして俺の事も、ここにいる兵士達も含め、あまり歓迎してはいないみたいだ。


「さてバリー様、ここではなんですからどうぞ奥へ。お部屋もご用意しております」


「おう、悪いな」


 カールと呼ばれた男はバリーと一緒に建物へ入ろうとして、一瞬立ち止まってこちらに振り向いてきた。まだ何か言う事あるんだろうかこのおっさんは。


「どうせお前達は「」の所へ行くのだろうが、報告は今日中に絶対行うように。わかったな」


「へいへい」


 ユリアーナが両手を挙げて了解のポーズをとる。そしてバリー達は建物の中へ入っていき、俺達3人は見張りの兵士と共に、玄関先で放置状態に。


 ええ?そんな簡単に「適格者」かもしれない俺を放置していいのか?一体どうなってんだここは。


「さてと、じゃあ私達もいきますか~」


 俺のそんな混乱を他所に、ユリアーナは能天気な声を上げる。


「えっと、澤田さわだとかいう人の所へ行くんですか?」


「そそ。今回はそれが目的だからね。最初に話したでしょ?」


「ええ、リーダーのような人に会わせるという話はお聞きしました。その方のお名前が「澤田」さんという事ですね?」


「あれ?名前言ってなかったっけ?」


「はい」


「ごめんごめん、忘れてた」


 そう言いながら、てへぺろをするユリアーナ。くそっ、なんかむかつくわ!


 しかし澤田か・・・。これは間違いなく現代社会から、それも日本から転生してきた奴がリーダーだろう。現代社会からこの異世界へ転生してきた奴が、異世界の一国を相手取り戦いを仕掛けている。


 理由はなんだ?なんで俺たちは、この異世界に転生してきたんだ?


 これらの疑問も、その澤田って奴に会えば解決するんかねえ。


「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ」


 俺の考え事が顔に出てたのか、ユリアーナが声をかけてきた。


「ここは王国領だけど、私たちの自治権も確立されているから、勝手にシンちゃんが連れていかれたりすることは無いって~」


 あ、そっちの心配をしているように思われてたのか。確かにここに来るまでは、そういう心配もあったけど、今は澤田とかいう奴の事で頭がいっぱいになっている。


「はい、頼りにしていますので、よろしくお願いします」


 まあでも、ここは一応お礼を言っておくことにしよう。情けないけど、今は彼女だけが頼りだしな。


「おっけー♪どーんと任せといてよっ」


 そう言って彼女は、自分の胸を「どんっ」と叩いた。そして俺たちを先導するように、領主館の横の建物へと向かっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る