第49話 ティルデの行方

「リバーウォールがハイランドに侵攻されたって話はベアトリクスから聞いたと思うけど、しんちゃんの知りたい事はその辺じゃないのよね?」


「はい。僕が知りたいのは、ティルデやアリーナ達がどうなったのか・・という事です」

 もちろんリバーウォールの事がどうでも良いってわけじゃあ無い。

 けど、俺にとっての最優先事項はティルデの安否あんぴを知る事であり、リバーウォールの街の事はその次だ。


「ふむ・・・」

 ユリアーナは目を閉じて、珍しく考え込む姿勢を俺に見せている。

 

「ちょっと言い難いんだけどね、ティルデ・エーベルトは現在行方がわからないの」

 俺はユリアーナの言っている意味が一瞬わからなかったよ。

 行方不明?なんだそれ!

 戦争中の行方不明って言ったら、俺にはもう悪い予想しか出来ねーじゃねーか!

 


「あー言っとくけど、戦いで戦死した可能性は低いと思うよ」

 たぶん俺が茫然ぼうぜんとしていた事に気付いたんだろう。

 慌ててユリアーナはフォローを入れて来た。


「いやでも、戦争で行方不明って・・・」


「そうじゃなくて、ハイランドとの戦闘に入る直前で行方がわからなくなっているの」


「・・・へ?」

 戦争前に行方不明になった?一体どういう事?


「あなた、この戦争の原因は知ってるよね?」


「え?あ、はい。確か著作権システムの登録料を巡るトラブルから市民の暴動に発展して、それに乗じてハイランドが侵攻してきたんですよね」


「そそ。で、その暴動鎮圧にティルデ・エーベルトも招集されたんだけど、彼女、断固拒否してたらしいの」


「え?そうなんですか?」


「うん。そもそもの原因はリバーウォール市側にある!ってね」


 そういや、ティルデはそういう人だったかもしれない。


 なんせ、適格者になれなかった人間を始末するという事に疑問を感じ、ハイランドを敵に回してまで、俺を助けてくれたような人だからな。


「まあそれで領主の反感を買い営倉えいそうに入れられちゃったんだけど、ハイランドの侵攻のごたごたの際に行方がわからなくなったみたいなの。アリーナ・ローゼンベルグも一緒にね」


「アリーナもですか!?」


「そう。偶然にしては出来過ぎているでしょ?恐らく、二人は一緒に脱出した可能性が高いと思うの。もしかしたら、他にも行動を共にしている人もいるかもね」


 ティルデとアリーナが二人そろって行方不明・・・。


 ティルデは魔法戦士でアリーナは領主付きの魔導士だ。そしてティルデの魔法戦士としての実力は、俺が良く知っている。ちょっとやそっとでは倒れることは無いと思う。


「どう、ちょっと安心した?」


「ええ、ありがとうございます!」


 戦後行方がわからないというのならともかく、侵攻直後に行方がわからなくなったのなら、自分から姿をくらませた可能性は高いと思う。


 アリーナまで行方がわからないというのなら尚更だろう。あれ?でもちょっとおかしくないか?


「あの、なんで侵攻直後に行方がわからなくなったことが判明したんでしょうか?」


「ああそれね。そりゃもちろん、ティルデ・エーベルトも私達の監視対象に入ってたもの」


 そりゃそうか。ハイランドからの亡命者だし、軍関係者、それも適格者関連の奴と来れば、そりゃ監視対象にもなるか。


「いやでも、それならティルデのマザープレートから行方がわかるんじゃないんですか?例えばGPSのような物を搭載しているとか」


 そうだよ!こいつらはマザープレートを使って情報収集をしているはずだ。


 恐らくだけど、マザープレートにはGPSのような機能も搭載されているはず。だったら、それでティルデ達の行方もわかるんじゃないのか?


「さすが日本から転生してきただけあって、そういう事すぐに考えちゃうんだね!改めて、異世界からの転生者なんだって認識したよ」


 ユリアーナは感心したようなジェスチャーを見せる。


「確かに君の言う通り、GPSのような機能は搭載されているんだ。でもね?彼女のマザープレートはリバーウォールから、正確には領主館から動いて無いんだよ」


「え?どういう事ですか?」


「たぶん、営倉に入れられた時に取り上げられたんじゃないかなあ。それでマザープレートを持たずに脱出した可能性はあるよね」


 ああ、なるほどね。牢屋にぶち込まれたんなら、魔法戦士であるティルデにプレートを持たせるわけはないよな。でも、そういう理屈なら・・・。


「いやでも、アリーナはプレートを所持しているはずでしょ?彼女の行方はわかるんじゃないんですか?」


 アリーナはプレートを手放す理由は無いんだし、アリーナのプレートを探せば良いんじゃないの?


「ところが、彼女のプレートも領主館に置いてあったの」


「はあ?別に営倉に入っていたわけでも無いアリーナのプレートまで領主館に置きっぱなしだったんですか?」


「そうなのよねえ」


 一体何の為に置いていく必要があるんだ?ティルデは剣も扱えるから影響は最小限に抑えられるけど、アリーナは魔術師だ。


 魔術師が魔法を使う為のプレートを置いて行く理由ってなんだ?


 ああもうわけがわからん!


 とにかく、侵攻のごたごたの隙に逃げ出した事は確かみたいだし、あまり深く考えるのはやめとこう。どうせ考えてもわからんし。


「まあ、プレートを所持していない以上、リバーランド側も追跡は難しいでしょうね。あのティルデって人、かなりの冒険者だったらしいし」


 こいつら、ティルデの冒険者時代の事まで調べ上げていたのか。まあ、当然か。けど、こいつの口から「かなりの冒険者だった」なんて言葉を聞くと、ちょっとほっとするな。


 完全に信じるわけでは無いけど、なんかこう、ティルデとアリーナが無事であることの、お墨付きをもらったような気分だ。


「あ、それとこれはあなたに伝えといた方が良いかもだから言うんだけど・・・」


「ええと、なんでしょうか?」


 俺に言っといた方が良い事?全く想像つかないんだが。


「アルフレート・アイヒマンって知ってる?」


 うわあ、一瞬あいつの顔が浮かんできちまった。嫉妬心から奴隷の身分にまで俺を落とし、鉱山送りにして殺そうとした男だ。


 ただ、ユリアーナの口からあいつの名前が出たことは意外だった。正直俺もあいつの存在を、最近は忘れかけていたからな。


「はい、存じていますが。彼がどうかしたのですか?」


「うんとね、彼も行方がわからなくなっているのよね」


「は?戦争で死んだとかじゃなくてですか?」


「違う違う。彼も、侵攻のゴタゴタの隙に行方がわからなくなってるの」


 おい。ティルデとアリーナが居なくなったのと同じタイミングでアルフレートも居なくなっただと!?


 おまっ!それ、もしかして一緒に逃げたとかそういう話じゃないだろうな!?


 いや、ティルデに限ってそんな事は・・・。いやでも、あいつめっちゃイケメンだし、もしそういう事になってたらどうしよう!?


 もしそうだったら、人間不信になりそうだぜ俺。いやもう、すでに半分不信になってるんだけどさ、あんまりだろ!?


「あー、お悩み中の所申し訳ないけど、ティルデとアルフレートが一緒に逃げた可能性は低いわよ」


「なっ!・・・なんで考えている事わかったんですか?」


「いやいやいや、しんちゃん口に出してたから今の考え事」


「・・・え?」


「いや、ティルデに限ってそんな事は・・・とか、あいつはイケメンだから・・・とか」


「うわあああああああああ!」


 恥ずかしいぃ!まさか考えてたことを口に出してたとは思わなかった・・・。


「あとあと~「あいつイケメンだし、もしそう言う事になってたらどうしよう!?」とか言ってた」


 ぎゃあああああああああああ!そんな事も口走ってたのか俺は・・・。


「へえ~ふ~ん、「そういう事」ってどういう事だろうねえ~」


 ユリアーナは俺の顔をみながらずっとニヤニヤしている。


「あの、違いますからね?」


「違う?何が?ねえ、何が違うのぉ?」


「いや、えっとその・・・」


 しまった、墓穴を掘ってしまった・・・。


「まあ、アンネローゼには黙っといてあげる♪」


「いや、別にアンネローゼには・・・」


「言ってもいいの?」


 もしアンネローゼに今のを言われた場合・・・。間違いなく色々と追及されるだろう。そしてまた、不機嫌orどんよりと落ち込んだアンネローゼ。考えるだけで恐ろしくなるぜ・・・。


「あの、お願いなので黙っておいて下さい・・・」


「おっけー♪しんちゃん私に借りひとつね♪」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬっ!」


 絶対に弱みを握られちゃいけない奴に借りを作ってしまった・・・。


「あ、ほら!北リップシュタートが見えて来たよ!」


 俺達のくだらないやりとりが続いている間に、馬車はどうやら北リップシュタートへと近づいていたようだ。


 それに伴い、彼らの目的が何なのか?とか、一体俺の他にどんな奴が転生してきているのかとか、色んな疑問が感情が噴き出してきた。


 やっべえ、すげえ変な汗かいてるよ俺・・・。とりあえず、聞きたい事をちゃんと頭の中で整理しとかなきゃな。


 俺は近づいて来る北リップシュタートの外壁を眺めながら、そんな事を考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る