第48話 北リップシュタートへの馬車内で
「はい、あーん♪」
「いえ、そういうのいいんで」
「しんちゃんノリわるーい」
「あと、しんちゃんもやめてください」
俺のその言葉に、ユリアーナは自分の
俺たちは別に新婚さんごっこをやっているわけではない。リバーランドの首都を出て、北リップシュタートへ向かう馬車の中に居る。
つい先日、俺とアンネローゼがリバーランド軍に囲まれた時に、ユリアーナが俺達に提案してきた事、つまり「北リップシュタートへ来ないか?」という誘いを受ける事にした。
「わかりました。あなた方の本拠地への招待を受けます」
今の状況を少しでも打開するには、これしか方法は無いと思ったんだ。
「ホント!?やったー!」
ユリアーナは
ああいう仕草をみると、とても俺に害をなそうとしているようには見えない。もちろん、本当に俺を陥れようとしているわけでは無いのかもしれないが、根拠もなく信用する事はしたくない。
まあ、それも十分わかっていたつもりだったのに、今回、バリーやベアトリクスから騙されていた事を知って、めっちゃへこんでるもんなあ俺。この世界では何事にも用心し過ぎは無いってわかってたはずなのに。
「おい冗談じゃねーぞ!」
いきなりバリーが大声で怒りだしたんで、本気でびっくりした。このおっさんの大声と突然の
「何いきなり大きな声だしてるのよ・・・」
耳を抑えるジェスチャーをしながら、ユリアーナがバリーに抗議をする。これには俺も大いに同意するぜ。このおっさんは声が大きすぎるんだよ。
「北リップシュタートへ連れて行くだぁ?何勝手に決めてんだ!」
バリーはかなりご立腹の様子だ。
「適格者の扱いに関しては、こちらに任せるって事で同意してるでしょ?」
「そりゃそうだが、こちらの同意も得ずに勝手に決められるのは困る!」
「はいはい、じゃあテレジアに話し通しとくから、それでいいでしょ」
「むぅ・・・」
これが先日俺の庭で行われたやり取りだ。バリーの奴は全く納得していない様子だったが、テレジアと直談判すると言われれば引くしかないみたいだった。
なんかこうして思い出してみると、俺の目の前でご機嫌でサンドイッチを頬張っているユリアーナ達とリバーランド軍は、必ずしも一枚岩ってわけじゃなさそうな気もするな。
しかもテレジアの事を呼び捨てにしていたし、リバーランド軍の
いやいや、そこまで考えていたらキリが無い。とりあえず今は余計な事は考えずに、聞けることは出来るだけ聞き出すことに専念する事にしたほうが良さげかな。
「あの、これは僕にとって凄く良い機会なので、色々とお聞きしたい事があるのですが」
「スリーサイズとか?やだー、シンちゃんのエッチ♪」
「それはいいです」
「それはいいって、ひどくない!?」
この女のペースに巻き込まれると話が進まないので、あえて色々と無視して話を強引に進める事にする。
「第三者がいると聞きにくい事などです。あなたはどういう経緯でなのかはわかりませんが、恐らく異世界からこの世界にやってきた方ですよね?」
まずはここから確認しなければ、何も始まらないだろう。これまでのユリアーナの言動から、彼女が間違いなく現代の地球から転生してきた人間だってのはほぼ確定しているが、確証が欲しい。
「あー、はいはいそれね」
ユリアーナは腕組みをしながら、目を閉じて考え事をしている仕草を始めた。この女、何をやるにもオーバーリアクションなんだよな。
「私、この世界の住人だよ?」
はい、やっぱり現代t・・・・・はあああああああああああああああああああああああああああああ!?
「いやいやありえないでしょ!演奏会の時なんかに弾いていた曲は、明らかに日本のモノだったじゃないですか!」
「へー、君は日本からやってきたんだ~」
ユリアーナはそう言いながら、俺をじっと見つめてくる。しまった!はやまったか!?いやでも、じゃあなんで日本のゲーム音楽とか知ってるんだよ!
「うそうそ、あなたの名前を聞いた時から、日本人だってわかってたって」
くそっ!からかわれただけか!なんか、常にこの女の掌の上で踊っている感じがする・・・。しかし日本人だってわかったって事は、やはり現代からやってきた人間じゃないのか?
「すみません、この世界の住人なのに日本人だと判別できるとか、ちょっと意味がわからないです」
「ごめんごめん、私自身はこの世界の住人なんだけど、私の仲間は君と同じ世界の出身って事だよ。異世界から来た友人から色々君たちの世界の事を教えてもらったんだ」
だから君達の事について詳しいんだよ、と彼女は付け加えた。
この前の演奏会で日本のゲーム音楽の演奏をしていたので、間違いなく地球からやってきた人間だと思っていた。つまり彼女はこの世界の住人だが、彼女の仲間には俺と同じ世界の人間がいるって事だ。
まあ、あくまでも彼女の言う事を信じればの話だけど。なのでそれはとりあえず置いといて、俺は次の質問をする。
「一体あなた方は、この世界で何をしようとしているんですか?そして何が起こってるんですか?」
俺と同じ地球から転生してきた人間が、ハイランドやリバーランド等の異世界の国や人達と手を組んで何かをやろうとしている。しかも、戦争や人殺しをしてまでだ。
「ん~、それについてはここでは話せないな。本拠地で皆と相談しながらってことになると思う」
むう、そう来たか。この話題に関してはこれ以上話してくれそうにない気がする。
この女はへらへらしてるものの、肝心な事になると口が堅い。ぺらぺら喋ってしまう俺とは正反対だ・・・。
「あーでも、リバーウォールの状況についてなら教えてあげるよ」
「ホントですか!?」
え?ホントに教えてくれるの!?だってこの前バリーに聞いたら、ティルデやアリーナの事はわからんって言ってじゃん!俺は街の事って言うより、ティルデを始めとするあそこで知り合った人たちの安否が気になってるんだ。
「ホントホント。この前はバリーが居たから言えなかったけどね」
「え?じゃあ僕に教えたらまずいんじゃ?」
やだぜ俺、あのおっさんの
「大丈夫だよ~。だって、リバーランドの都合なんか私達には関係ないもの」
ユリアーナは、後ろの馬車に乗っているバリーが聞いたら激怒しそうな事をさらっと言った。
「ええと、あなた方とリバーランドは仲間ではないのですか?」
俺は思った事を素直に聞いてみる事にした。それを知ったからと言って、俺がどうこう出来るわけではないけど、少なくとも自分の精神安定には役立ちそうだ。俺の命が掛かってるからね!
「厳密には仲間ではないかもね。ん?いや、やっぱ仲間かな?あれ?どっちだろう?」
ユリアーナは本気で考えているように見える。
「利害が一致しているので、情報を共有し協力体制を築いている感じですかね」
「あーそれそれ!そんな感じ!しんちゃん頭イイね!」
ホントかよ・・・。ただ、今のがホントなら、これまでのリバーランドとユリアーナの俺に対する接し方の温度差みたいな物にも説明は付くかもな。
リバーランド側が完全に俺を疑いの目で見ているのに対し、ユリアーナは俺と言う存在を観察し、状況を判断しようとしている。
もしかしたら両者が持っている情報も、全ては共有していないのかも。ユリアーナ達は、全ての情報をリバーランドには提供していない可能性はあるかもな。
そういえばさっきユリアーナに、この世界での魔力を使ったインターネットを使用する為のデバイス、つまりパソコンやスマホはどうしているのか聞いたんだ。
そしたら、マザープレートを出して来たよ。あれだ、魔法を登録したり自分の冒険者としてのレベルやクエスト情報を登録するプレートな。
あれを使って、魔力版インターネットに接続するらしい。しかも、リバーランドに提供したデバイスは、ユリアーナ達が使っているデバイスの型落ちっつーか、機能を削除した「劣化版」だと言っていた。
じゃあ俺のマザープレートもネットに接続できるのかって聞いたんだ。答えはノーだった。厳密に言うと、俺の好き勝手で接続する事は出来ない。
ただし、プレートから自動で俺の情報がリバーランド軍には送られているらしい。なんだよ、だったらやっぱり俺が怪しくないって事はわかってるはずじゃないか。
「そこまで僕の事を監視しているなら、なんであんなに僕を疑うんですか?」
あまりにも理不尽すぎて、ついユリアーナに愚痴る形で聞いてしまった。だって意味不明すぎるだろうが。
「彼らは魔力を使ったインターネット、魔力ネットとでも言おうか?まあその、魔力ネットを完全には信用してないからね。実際私達も情報の全てを提供しているわけじゃないし」
彼女はそう言うと、二つ目のサンドイッチを口に頬張った。
そう言われると、やっぱり彼らは一枚岩ではないのかもしれない。それだったら、俺にもまだ救いはある気がしてきた。リバーランドの俺に対するあの態度を見た時は、俺の二度目の人生も終わったと思ったけど。
まあとにかく、北リップシュタートで彼らの仲間と会って、このごたごたの真相を聞いてみない事には何もわからないし、何も行動する事も出来ない。わかったのは、俺にも少しだけ希望は出て来たかもしれないって事だ。
「それでは、リバーウォールに関する情報を教えて頂けますか?」
俺はようやく、本当に聞きたい事をユリアーナに訪ねる事にした。
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