第46話 異世界での転換点2
燃える木の炎で明るかった庭は、王国軍のマジックライトの明るさへと変わっていた。俺のお気に入りの木は、完全に焼け
「リバーウォールがハイランドから攻められているってどういう事ですか!」
ベアトリクスの口から出た、ハイランドのリバーウォール侵攻の言葉に、俺は激しく動揺していた。だってあそこには、ティルデやアリーナ達がいるんだ。
「援軍は!?援軍は送ったんでしょうね!」
「もちろんとっくに送っているわ。あそこは貿易の要でもあるし、落とされるわけにはいかないもの」
だったら!なんでもっと、ちゃんとした人物に管理させておかなかったんだよ!
そんな大事な都市だったのなら、レオンハルトみたいな、アルフレートからよいしょされただけで気を良くするような奴に、最初から領主なんか任せるべきじゃなかったんだよ。
「とにかく、あなたが口を出す事ではありませんね。バリー、私は、この結果をテレジア様に報告に行きます。後は任せても?」
「おう」
そういうと、ベアトリクスは馬車へと歩いていく。
「ちょっと待ってくださいよ!」
「後の事はバリーに聞いて。私はテレジア様に報告しなければいけないから」
それだけ言うと、ベアトリクスを乗せた馬車は出発してしまった。
なんだよ!俺の質問にちょっとは答えろよ!そして俺は、その場に残ったバリーの方を向いた。バリーは腕組みをして俺の方を見ている。
「へっ、何か言いたそうな顔だな」
バリーは俺と目が合うなりそう言って来た。そんなの当たり前だろ?
一体これはどうなってるんだ?
ハイランドが何で攻めて来た?
ティルデは無事なのか?
俺は今後どうなるんだ?
聞きたいことなんか山ほどあるに決まってる!
「言いたい事はたくさんありますけどね!でも今は、リバーウォールの状況が知りたいです」
あそこにはティルデやアリーナ、そして仲良くなった兵士達がたくさんいるんだ。彼らがどうしているのか気になって仕方がない。
「リバーウォールは、現在王国軍が領主館一帯を占拠している。なので、ハイランドはエルミーラ運河まで後退している」
と言う事は、現在は領主館はリバーランドが
「なら、領主館の人達は無事なのですか!?ティルデは!?アリーナは!?」
「ちょっとは落ち着け。今の軍の最優先事項はハイランドを撤退させることだ。要人ならともかく個人の安否が後回しになる事くらいわかるだろうが」
わかってるよそんな事は!でも俺にとっての最優先事項はそうじゃないんだよ!
あーダメだダメだ!頭が混乱してて冷静な判断が出来ない。なんでこんな事になったんだよ・・・。
ふと横を見ると、アンネローゼは王国軍相手にいまだに剣を構えたままだった。これではまるで、王国軍に反旗を翻しているように見える。
そもそも、アンネローゼの今後を心配して市民権を取らせたのに、こんな事をさせていては本末転倒じゃないか。
とりあえず、アンネローゼには剣を納めさせて、そしてバリーから話を聞かないと。今の段階じゃ何が何だかまったくわからない。あーくそ!こんな時こそ冷静でないとダメなのに・・・。
「アンネローゼ、相手は賊では無く王国軍です。剣は納めて下さい。それとバリー、突然囲まれてアンネローゼも僕も気が動転していたようです。申し訳ありません」
こんな言葉で王国軍に剣を向けたことを許してもらえるかどうかはわからないが、俺の知っているバリーなら、恐らく不問にしてくれるはず。
「ふんっ、久々にアンネローゼの剣の腕前を見てやろうとおもったんだがなぁ」
その言葉にアンネローゼは「むっ」とした顔をしているが、とりあえず見逃してはくれるようだ。助かった・・・。
「で、聞きたい事ってのはハイランドの事だけか?」
アンネローゼが剣を鞘に納めるのを
アンネローゼを間に置いたやり取りの間に、少しだけど冷静さも取り戻せたようだ。日本に居た頃なら、今頃腰を抜かして
異世界に来てから、命の
「とりあえず、まずはひとつだけお聞きしたい事があります」
俺は慎重に言葉を選んでバリーに話しかける。
「なんだ」
「なぜ、これまで私を泳がすような真似をしてきたのでしょうか?リバーウォールでさくっと捕まえて、尋問でも拷問でもなんでもすれば良かったのでは?」
真っ先に浮かんだのは、この疑問だった。そもそもリバーウォールで俺を捕まえとけば済む話だったんだ。なんでこんなややこしい事をするのか、本当に意味が分からん。
「そもそもお前が亡命した時、テレジア閣下を始め本国の人間には何も知らされなかったからな」
「は?いやそれはおかしいですよ。僕が亡命を申請した時、リバーランド本国の担当者、つまり、リバーウォール領主のレオンハルト・ロンネフェルト様が、本国からリバーウォールへ実際来たわけですから」
そう、第二王位継承者であるレオンハルトのおかげで俺は鉱山へと送られて今に至るわけだ。なので、レオンハルトが知っていると言う事は、本国の人間も知っていなきゃおかしいという事になる。
「知るかよ。なぜかお前の事はテレジア閣下の耳に入らず、レオンハルト様が独断でお前を炭鉱送りにした事を本国の諜報部がキャッチして、慌てて俺が炭鉱に入る事になったんだからな」
はあ?待て待て待て!今のはちょっとおかしい。矛盾しまくりだ。
「いやちょっと待ってください!俺が炭鉱送りにされることが決定してから、1週間も経たずに俺は炭鉱へ着いたはずです。リバーランド本国は炭鉱よりもリバーウォールから離れているのに、早馬を使って本国へ連絡をしたとしても、僕よりも先にあなたがロックストーンの鉱山に辿り着けるとは思えない」
絶対矛盾してるんだよ。超能力か何かで、リバーウォールの諜報員からリバーランドへ情報を送りでもしなければ、俺よりも早くバリーが鉱山に来れるわけがない。あれか?どこ〇もドアとか持ってんのか?
「それに僕が炭鉱に着いた時、あなたに殴られて怪我をしたアルネとササはこう言っていました。「今までは俺らが怪我しても、薬草やらでどうにかするしか無かったんだ。お前が居て一番助かってるのは、俺とアルネの二人なのは間違いねえ!」と」
「ふむ」
「と言う事は、あなたはずっと以前から鉱山に居たことになります。僕が鉱山に行くから慌ててロックストーンへ来たというのはおかしいんです」
そう、バリーの癇癪でいつも怪我をしていた二人は「今までは」と言ったんだ。バリーが慌てて鉱山に入ったのなら「今まで」なんてあるわけがない。
「そりゃおめえ、ササとアルネは俺の長年の部下だからな。レオンハルト様所有の鉱山に、諜報員として紛れ込ませていたんだよ。まさか適格者が送られてくるとはまでは読んでなかったけどな」
「え?」
「つまり、俺がずっとまえから鉱山にいるように見せかける為、3人で一芝居打ってたんだよ」
はあ!?つまり俺を騙すためだけに、あんなわけのわからない小芝居をしたってのか?
「一体それに何の意味があるんですか・・・」
「そりゃ適格者が来ると同時に、この鉱山の責任者が変わったなんて事が適格者本人であるお前に知られて、変に警戒されても困るだろ?」
そこまで用意周到に準備してまで適格者を警戒していたのか。一体適格者とはどんな奴らなんだ・・・。
それにしても、ササとアルネも俺を監視していたみたいだ。あいつらとは、結構仲良くなったつもりでいたんだけど、それも嘘っぱちだったって事か・・・。
なんつーか、全部こいつらの手の平の上で踊らされていただけなんだな~と、しみじみ実感するわ。俺の事を管理下に置けていなかったのは、リバーウォールにいた時だけかよ。
いや、リバーウォールでは、リバーウォール政府に監視されていたわけか。と言う事は、ハイランドでも監視下にあったわけだから、異世界に来てからは、ずっと誰かの監視下で過ごして来たって事かよ!
「はぁ・・・」
俺は人目を気にすることなく、盛大なため息をついていた。
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