第25話 ロックストーンへ
正午になった。
俺はリバーウォール領主館の衛兵に連れられて、牢屋があった
道路には荷馬車が用意されており、そこには両手を縄で縛られた、そう、まるで奴隷のような人達が4人ほど座らされていた。
「こ、これはどういう事なんですか?」
俺はたまらず衛兵に質問していた。
だって、まるでこの馬車にお前も乗るんだと言わんばかりの状況だぜ?
「いや、俺たちもこの状況は聞いてない」
領主館付の衛兵達は困惑の表情でそう答えて来た。
どうやら本当にこの状況をわかっていないらしい。
「ご苦労だ!」
俺たちが通ってきた道の方から、人を小馬鹿にしたような偉そうな声が聞こえてきた。
この声は、あの金髪の
第二王位継承者『レオンハルト』の兵士を従えている。
何しに来たんだこいつ・・・。
「ご苦労だ衛兵。下がってよいぞ」
「待ってくれアルフレート。これは奴隷用の馬車だ。なんでそんな物が用意されているんだ?」
俺を連れて来た衛兵は、現在のこの状況の説明をアルフレートに求めた。
「お前には関係ない」
「いやしかし・・・」
「下がれと言っている!それともお前も牢にぶち込まれたいか!」
そう言われ、衛兵は顔を引きつらせながら後退する。
アルフレートは「ふん!」と鼻を鳴らしながら、俺の方へ向き直った。
「コレナガシン、貴様は、これよりロックストーンへの移動となる。身分は、第3級奴隷だ」
へ?奴隷?第三級?なんだそれ!
「ちょっと待ってください!奴隷ってどういう事ですか!?」
「聞いた通りだ。お前は、奴隷の身分となる事と引き換えに亡命許可を得たのだ。なんら不思議な事ではない」
な、なんだそりゃ!そんな話聞いてないぞ!
「そんな話聞いてませんよ!横暴でしょう!」
「聞いてないのは当たり前だ。何故奴隷に話す必要がある」
む、むちゃくちゃだろこいつ!大体なんで俺をこんなに目の敵にするんだ!
俺がこいつにやった事と言えば、領主達の前で、こいつの主張を論破した事だけだ。
もしかして、それだけで俺をこんな目に合わせてるって言うのか?
「レオンハルト騎士団よ、そいつを荷馬車に放り込め!」
「ちょっと待ってくれよ!おかしいだろこんなの!」
「黙れ!薄汚い奴隷が!」
バキイイイッ!
衝撃と共に目の前が一瞬真っ暗になり、右ほほからあごの辺りが焼けるような感覚に覆われた。
この感じは覚えがある。俺が学生のころ、いじめられていた時によく味わった感覚、つまり殴られた時の感覚だ。
「良いか?お前は奴隷なんだ。奴隷の分際で、この僕に盾突こうなんて100年早い!」
アルフレートがそう言うのと同時に、俺は兵士達に両脇を抱えられて、奴隷馬車へと投げ込まれる。
「馬車を出せ」
アルフレートの声が聞こえた。待ってくれ・・・。せめてティルデに挨拶だけでも・・・。
そう声を出したか出さないかわからないうちに、俺は気を失ってしまった。
目が覚めたのは、すでの辺りが暗くなってしまってからだ。
すでに兵士たちは休憩に入っているようで、馬車の外から酒を飲んで騒いでいる声が聞こえてくる。
俺はと言えば、足と手を縄で縛られていて、逃げようにも逃げれない状態だ。
真っ暗で辺りは見えないが、寝息が聞える事から周りの奴隷たちも今は寝てるみたいだ。
はあ。なんでこんな事になったんだ・・・。俺はこの2週間の事を思い返してみた。
ハイランドから亡命してきて、そして領主から仮の亡命許可をもらった。
そして、ハイランドで制作し、ここに来てから改良した旋風魔法をアリーナ・ローゼンベルグが凄い気に入ってくれたんだよな。
で、アリーナからこの魔法を販売してみないかって持ちかけられて、どうせなら販売システムごと変えましょうって話になった。
領主代理へのプレゼンは大成功だったよな。
アルフレートにいちゃもんを付けられた事を除けばね。
まさか、あいつが、大勢の前で恥をかかされた事をあれほど根に持っているとは思わなかった。
第二王位継承者の権力を使って、俺を奴隷の身分にまで落としたくらいだからな。
あと、結局ティルデとは牢屋に入れられてから一度も会わなかった。
さすがに今日は、リバーウォール最後の日なので、お別れとお礼をと思ったんだが、一切の面会を禁じられたようだ。衛兵がそう教えてくれた。
もうなんか、色んな事が起こりまくりで頭が混乱しそうだ。
異世界に来てから1年ちょっとで、日本で生きてた40年以上の経験をしてきたように思える。
少なくとも、日本じゃ奴隷になったり殺されかけた経験はないからな。
そりゃあ、混乱もする。
「はあ」
俺は目が覚めてから何度目になるかわからないため息を吐いた。
俺たちが馬車に乗せられてから3晩を越した頃だったと思う。
急に周囲に険しい山々が目立ちだし、坂道も多くなってきた。
道路は整備が不十分なのがよくわかるようなでこぼこ道で、何度も体が荷台の床に打ち付けられた。
そして、夜になるのを待たずに馬車が止まった。
「降りろ!」
兵士の乱暴な声が聞こえる。
手足を縛っていた縄を解かれた俺たちは、無理やり馬車から降ろされる。
飯時やトイレ時は縄を解かれたとはいえ、ほとんどを荷台で縛られたまま過ごしていた俺たちは、体のあちこちがひどい痛みとしびれに襲われていた。
そんな中立ち上がって前を見ると、大きな岩山をくり抜いたような広場に俺たちは降ろされていた。
そして、岩山にはぽっかりと坑道のような穴が開いている。
恐らくここは鉱山なんだろう。実物を見たことは無いけどね!
奴隷と来れば鉱山、鉱山と言えば奴隷、奴隷と言えば強制労働。
言葉遊びが出来るほどの典型的な展開だと思い、ちょっと吹きそうになった。
よし、まだ精神的に大丈夫そうだ。
兵士に連れられてきた場所では、屈強な大男が俺たちを出迎えていた。ザ・マッチョだ。
「これはこれは、レオンハルト様直属の騎士団の方々ではございませんか!本日はどのようなご用件で」
大男が、手もみ足揉み状態で兵士たちを迎えていた。
うわあ滑稽だぜ。すんげえへこへこしてやがる。
靴を舐めろって言ったら本当に舐めそうな勢いだ。
「なんだ聞いていないのか?奴隷の受け入れ依頼だ。4名。好きなようにしろとの事だ」
「そうでしたか!いや、わかりました。受け入れ了解であります!」
「うむ。では、我々はゾルタン・ロンネフェルト様にご挨拶してから本国へと帰還する」
「ははあ!道中お気をつけて」
もう、地面に頭が付いちゃうんじゃないかってくらいのお辞儀をしたそのマッチョは、兵士が帰ったのを確認すると、くるっとこちらへ振り向いた。そして・・・
「だれだああああ!今わしの事を鼻でわらったのはああああああああああ!」
そう言うと同時に、炭鉱入り口を見張っていた男を豪快に殴り飛ばした!
殴られて吹っ飛ばされたた男は、鼻から血を吹き出しながら地面に仰向けに倒れている。
「バリー様!落ち着いて下さい!誰も笑ってはおりませぬ!」
「うるさああああああああい!」
そして、なだめようとしたもう一人の見張りを、右足で蹴り飛ばす。
顔面から地面にダイブしたその男は、ぴくぴくと体を震わせて動かなくなった。
「ふーふー!・・・。あれ?ワシ、どうしたんだっけかの?」
バ、バイオレエエエエエエエエエエエエエエエエエンス!
やべーよこの人!ティルデなんか問題にならんくらい全然やばいよ!
「おい!お前ら何を寝ている!さっさと起きんか!」
自分でやった事も忘れて、二人を叩き起こそうとするバリーおじさん。
そんな光景を見ながら、俺はもうあまり長く生きられないかもしれないと、異世界に来てから一番強く感じたのだった。
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