第24話 三日天下
正直数秒の間、俺は固まっていたかもしれない。
リバーウォールの正式な領主であり、リバーランド王国第二王位継承者でもある「レオンハルト・ロンネフェルト」により、魔法プレートに関する俺の提案が全て却下されたからだ。
場所は、先日、商品の著作権保護の為のプレゼンを、領主代理に行った場所だ。
アリーナやバウムガルデン、それにアルフレートの奴も来ている。
「なぜです!?新しいシステムの有用性はバウムガルデン様も認めておられますし、実際、これからのリバーウォールの発展には欠かせない物となるはずです!」
不許可を宣言されてしばらくの間
まあ、原案は俺じゃないとはいえ、実際かなり良いシステムだと思うし、いきなり不許可にされる意味がわからん。
「コレナガシン、そなたなんでも『旋風魔法』なるものを開発したそうだな」
「は、はい。確かにそれは私が開発したものです」
俺が一通りの説明を終えると、レオンハルトは急にそんな事を言い出した。この件と何の関係があるんだよ!って、イラッとするところをぐっと抑えて返答をする。
「ハイランドでは、それを売ろうとして失敗した。その経験を元にこのシステムを考案した。間違いないか?」
「はい。その通りです」
実際問題新しい商品を売ろうと思っても、現行のシステムでは大々的にうるのは難しい。それが、このリバーウォールやハイランドの発展を阻害している面は絶対にあると思う。早いとこ改善したほうが良いのは確かなんだ。
「つまり貴様は、自分が旋風魔法なるものをリバーウォールで大々的に売りたいが為に、このシステムを考案したと申すのだな」
は?はあ!?ちょっと待て、なんでそうなる?
確かに俺の為って事は間違っていない。事実、システムが実装されれば、俺はこれを利用するつもり満々だったからな。けど、実際問題、特許や商標、著作権が存在しないも同然の世界だから、コピー商品が蔓延しているのも事実なんだ。システムが実装されればコピー問題も減って、絶対市場が活性化する自信がある!
「それは否定しません!しかし、私が提案したシステムを使う事で、市場が活性化するのは事実であり・・・」
「黙れ!」
レオンハルト声が執務室内に響き渡る。情けない話だが、その声で俺は完全に委縮して、硬直してしまった。この世界に来てからは忘れていたが、俺は昔からいじめられてばかりいた。その為か、このような大声で怒鳴る声には委縮してしまう傾向がある。
「あろうことか、私利私欲のために領主を利用してその金で利益を得ようとは!貴様の行動は厳罰に値する!」
「そ、そんな・・・」
「と、言いたいところだが、お前たちが持ってきたハイランドに関する情報は貴重な物である。その点を考慮し、刑に反映するものとする」
俺は
「これは決定事項だ。亡命に関しては認めよう!貴様の処遇については追って知らせる。衛兵!」
レオンハルトは衛兵を呼ぶと、俺を牢へと入れるよう命令していた。ふと見ればアルフレートが、昨日俺に難癖を付けて来た奴が、こちらを見ながらニヤニヤしている。もしかしたらこいつはレオンハルトと交友があり、俺が何かを企んでいる等と吹聴したのかもしれない。
リバーウォールに来てからというもの、色んな事が順調に運んでいたものだから、色々と緩み切っていたとは思う。まさかこんな展開になるとは思いもしなかったよ。これじゃあ、何のためにハイランドを抜け出して来たのか・・・。
その日は、ティルデやアリーナが面会に来てくれたらしいが、全部断った。だって、どんな顔して会えばいいかわかんねーよ。
牢屋の番をしていた衛兵は、つい先日、俺の魔法を凄いと言ってくれた奴だった。今後俺はどうなるのか聞いてみた所、これくらいでは命をどうこうって話にはならないとの事だ。ただ、どうなるかについてはレオンハルト次第なので、それはわからないらしい。
これは、リバーウォールでの俺の人生は終了したも同然だと言う事だ。だってどう考えてもこじつけだもん。レオンハルトの奴、俺の言い分なんかほとんど聞いてねーよ。って事は、アルフレートからのご注進があった時点で、この結果は決まってたんだろう。
はあ、どうしようかな・・・。
―――――――――
あれから1週間が経過した。相変わらずティルデには合わせる顔が無いやら情けないやらで、面会拒否をしている。アリーナには一度だけ会う事にした。ティルデが凄く心配してて、ご飯もろくに食べてないという話を衛兵から聞いたからだ。
アリーナからは、一度だけでもお会いしては?との提案ももらったが、やはり踏ん切りがつかない。情けねーな俺。けど、ティルデに対しての処罰などは一切行われて無いようだ。良かった。
でも、それで明らかになる事もある。普通、俺が疑われたのならティルデも疑われて然るべきなんだ。だって、敵対しているハイランドから一緒に来たんだよ?当たり前だよ。なのに、俺だけが処罰を受けているって事は、これは完全に『私怨』って奴だ。
そして、アリーナからの情報で、それを確信した。早い話が、昨日俺に恥をかかせられたアルフレート(あいつが勝手に恥かいただけなんだけどね)が、一枚噛んでるらしい。
第二王位継承者レオンハルトと魔術師アルフレートは、リバーランド国立大学の同級生だったらしい。
そこでのアルフレートのポジションは、完全なるレオンハルトのイエスマン。レオンハルトの陰口をたたいている奴を告げ口し、レオンハルトが10の功績を上げたなら、まるで100を達成したかのように褒めたたえ、その腰ぎんちゃくっぷりは、大学内でも有名だったのだという。
なので今回も、亡命を希望している者が、レオンハルトの領土で勝手な事を始めようとしているとかなんとか、悪いように注進したのだろうとのことだ。
「すみません。まさか彼が、あそこまでやるとは予想できなくて・・・」
と、申し訳なさそうに謝ってくるが、これは決してアリーナが悪いわけじゃないからね。あの金髪の優男風の腰ぎんちゃく野郎『アルフレート』が全部悪いんだからね!
なので、それはアリーナのせいではありませんと言う事を伝えた。そしてティルデに、今は恥ずかしくて合わせる顔が無いです、という伝言を頼んでおいた。今会ったら100%泣き言を言ってしまいそうだからな。
はあ、しかしあんな事くらいでこういう状況に追い込まれるなんて、思ってもみなかった。日本とは違うってわかってたつもりだったけど、全然わかって無かったんだろうな俺。
そして今日、あのアルフレートの坊ちゃん直々に、俺への刑が言い渡された。
「コレナガシン、貴様に鉱山都市『ロックストーン』への移動を命じる!」
「え?」
「なお、出立は本日正午である。荷物はこちらで用意する故、時間まで牢にて待機せよ!以上だ」
アルフレートは言うだけ言って、俺の言い分など聞くつもりが無いとばかりにとっとと牢屋のある区画から出ていく。俺の方を馬鹿にしたような顔で見ながらね。
「すみません、ロックストーンってどういう場所ですか?」
仕方ないので、今日の牢番の兵士に聞くことにする。
「お前、そうとう嫌われたんだなあ」
俺の質問に、憐みの眼差しで答える兵士。ちょっとお!そんな感じで言われたら、すげえ不安なんだけど!
「あの、一体何があるんですか・・・?」
「ロックストーンはな、第三王位継承者「ゾルタン・ロンネフェルト」様が統治されている鉱山都市だよ」
ゾルタン・ロンネフェルト・・・。第三位王位継承者・・・。
「一体どういう人なんです?」
すると兵士は俺の傍まで寄ってきて、耳元で小さい声で話し始めた。
「大きい声じゃ言えないんだがよ、はっきり言って、レオンハルトやアルフレートのほうがまだ「マシ」ってレベルで、ダメな奴だよ」
レオンハルトはよくわからんが、アルフレートの腰ぎんちゃく野郎よりダメって・・・。そして、そんな奴が領主として納めてる町・・・。
一体俺、どうなっちゃうんだろう・・・。
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