第23話 異世界でのプレゼン2

 リバーウォール領主「バウムガルデン」が俺に提示してきた、このプレゼンでの問題点、それはやはり「金」だった。


「コレナガシンの提案は非常に魅力的で、検討に値する内容だと思える。しかし、この提案を実行するには、コストがかかりすぎるように思えるのだ」


 彼が挙げた問題点は以下の通り。


・様々な新規のアイデアを実現する為の研究費。

・魔法情報を登録・管理運営する為の人件費

・プレート費用


「これだけの費用をどこから捻出すると言うのだ?これ以上、民衆から税を徴収することは出来ぬぞ」


 正直、この質問は想定していたので、交渉を優位に進めるためにも「想定済み」って看板を前面に掲げながら回答する。


「はい、それに付きましても考えがございます」


「ほう、金銭面も対処済みか」


 ほらね!相手が考えて質問してきそうなことは前もって準備しとかないと、やっぱダメなんだよ。これは相手との勝負だからね。


「手数料を徴収したいと思います」


「手数料?税と何が違うのか?」


「はい、税とは違い、商品の登録を申請した者からだけ徴収致します」


 実際、日本でも特許を申請する場合には、特許出願、審査、登録費用と、手数料が請求される。それを真似するわけじゃないんだけど、登録手数料を取ることで、領主館における人的コストなどを賄おうというものだ。


「許可された者からではなく、申請した者全員から取るのか?」


「はい、そうしなければ、有象無象の使えない魔法までも申請しようとする者が現れるかもしれません」


 たぶん、いや、確実に出てくると思う。へたな鉄砲も数撃ちゃなんとかだよ。そういうのを防ぐためにも、真面目に申請する奴だけに絞る為にも、申請時の費用は重要だ。じゃないと、なんでもかんでも受け付けてしまうと、審査費用や手間だけで莫大な時間と費用が掛かってしまう。


「不正防止、というわけか?」


「その通りでございます」


 これはほとんど決まったと言っていいと思う。だって領主のバウムガルデンが「なるほど」と納得の顔になっている。これで俺の今後の人生も決まったようなもんだろう。やったね!


「お待ちください!」


 俺が脳内勝利宣言で勝手に喜んでいると、領主の横でえらそうに立っている若造が、いちゃもんを付けたそうな表情で手を上げていた。イケメンですよイケメン。


「なんだ、申してみよ『アルフレート』」


「はっ!では、僭越ながら申し上げます。先ほどのコレナガシン殿の提案ですが、これでは、貧困層の市民の申請に影響がでるのではないでしょうか?」


「どういう事か?」


「領主館の商品登録のシステムを作るにあたり、そのコストを手数料で埋め合わせるには、膨大な金額が必要になると思われます。しかし、その事を考慮にいれて手数料を決定しますと、貧困層の市民が申請手数料を払うのは困難になる金額になるものと思われます」


 そして「ドヤ!」っと俺の方を見るアルフレートというイケメンの若造。ようするに、お前のやり方じゃ手数料がバカ高くなって、一般ピーポーが手数料を払えねーけどどうすんの?って事だ。


 クソ生意気な奴だぜ!と言うか、なんでそんな俺を目の敵にするような感じで睨んでるわけ?あいつとは初対面なんだけど俺。


「ふむ。と言う事らしいが、どうかね」


 バウムガルデンは、彼の意見を一通り聞いてから、俺に質問の回答を要求してきた。一応この問題には解決策を用意してある。つーか、これから説明しようと思ったら、あいつが先走ってきたんだけどね。


「それはご心配に及びません。申請登録手数料は、保護年数により手数料に差を付けることで、様々な階級の方々にご利用いただけると思います。さらに、魔法レベルによっても金額を増減することで、細かな調整が可能でしょう」


 ようは、1年の保護なら5千円、3年なら1万円と言った風に、プランにより金額を変えれば良いんだよ。レベルも1なら1000円、10なら5000円とかね。何も一律同じにする必要はない。


「申請してきた魔法のランクや年数で、手数料を変えると言う事か」


「その通りでございます」


 バウムガルデンは、俺のプレゼンに感心しきりである。さてと、今度はあのアルフレーととか言うイケメンが、どういうイチャモンを付けてくるかだ。


 たぶん、俺の今の回答は想定済みだろう。正直ここからは、俺も半分くらいは出たとこ勝負になると思う。こうなったらリーマン時代の知識をフル動員して乗り切ってやるぜ!


「質問は以上です」


 アルフレートがそう言った。


「は?」


「ん?何かあるのかコレナガシン」


「いえ、、なんでもございません」


 いかんいかん!思わず声に出しちゃった。


 あいつの俺に対する敵対心みたいなものからして、てっきり重箱の隅を楊枝でほじくるようなイチャモンを付けてくると思ったんだが、あれで終わりかよ!だったら最初から質問してくんなっつーの!


 見ろよ、アリーナの奴もしょっぱい目であのイケメンを見てるぞ。アルフレートと目が合った。うわあ、アルフレートの奴、顔を真っ赤にして目をそらしやがった。


 もしかしてあれかな。アリーナの前でかっこいい所を見せようとしたか、アリーナから俺の話を聞いてて、じぇらしーを感じての行動だったとか、そんな所か?まあ、どっちでもいいんだけどね。


「これ以上意見が無いようだったら、コレナガシンの提案を採用する事にする」


 バウムガルデンのその言葉が、この会議の終了の合図となった。細かな打ち合わせについては、あちらから連絡をくれる様だ。


 はあああ、良かったあ。それなりに自信はあったけど、やはりコスト関係が一番のネックだったな。細かい手数料なんかについては、魔法プレートの取引量なんかを見ないとなんとも言えないので、その点について突っ込まれないで済んだのはラッキーだったかも。


 そんなこんなで、なんとか大きなヤマを一つ乗り越えた形の俺は意気揚々と帰路に付いていた。帰路つったって、同じ領主館の敷地内だけどな。


「待ちたまえ!」


 俺が、日本でお気に入りのアニメ「魔法少女りりかるまどか」の主題歌を歌いながら帰ってる時だった。さっき、俺の提案にイチャモンを付けて来たアルフレートが、俺の前に立ちふさがっていた。お供の兵士を数人引き連れて。


「なんでしょうか?」


「いい気になるなよコレナガシン!僕がその気になれば君のこの提案など、無かった事にするくらい容易いのだからな!」


 ビシッ!と俺に指を突き付けながらイケメンはそう宣言してきた。あーもうなんなのこいつ。すげえうざいんですけど~。大体、すでに勝敗は決まった・・・っつーか、勝負にもなってなかったけどね。けど、そんな事を言って大問題になっても困るので、


「はっ!お言葉、心に深く刻んでおきます」


と、言っといた。


 俺の言葉を聞いたイケメンは、ますます気に入らないといった表情で、その場を去っていく。なんだよ、謝罪とか求めてたのか?誰がするもんか!イケメンリア充爆発しろ!


 はあ、なんか思いっきり水を差された感じだけど、帰ったらティルデに報告だ。きっと喜んでくれるに違いない!今日はニーナさんにご馳走にしてもらおうかな。


 そんな浮かれポンチな状態が1週間続いた後、俺は、リバーランド本国からリバーウォールに到着した、リバーウォールの亡命担当官であり領主でもある、リバーランド第二王位継承者「レオンハルト・ロンネフェルト」から、亡命に対する正式な「許可」と、商品特許に関する全ての提案に対する「不許可」を与えられる事となった。

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