第四章 炭鉱都市ロックストーン

第26話 1級奴隷に格上げされました

 ロックストーン鉱山は、屈強な男子2名が、さらにマッチョなおっさんに張り倒される&蹴られて流血するという、凄惨せいさんな現場と化していた。


 この鉱山の責任者っぽい「バリー」と呼ばれていたおっさんは、自分が気絶させたことも忘れ、ふたりの男をむりやり起こそうとしている。


「こら!アルネ!ササ!いつまで寝とるんだ!さっさと仕事に戻らんか!」


 いやいや、これ、あんたが引き起こした事態だからね?と、そんな事を言ったら、こっちにとばっちりが来るのは目に見えていたので絶対言えない。それにしてもこのままでは、起き上がらない二人にあのおっさんがまたブチ切れるような気がしてきた。


「あの、すみません」


 この状況を打破する為、俺は思い切ってバリーのおっさんに声を掛ける。他の奴隷たちからは「お前正気か!?」みたいな目で見られてるよ・・・。


「なんじゃお前は?」


 俺が予想していたよりも温厚な返事が返ってきたので、ちょっと安心したぜ。へたしたら、「なんじゃ貴様ああああああああ!」とか言われながら、ロケットパンチを食らう可能性もあったからね!


「あの、お二人は気を失っておられるのではないでしょうか?」


 すっげえ顔色をうかがいながら、そう言ってみる。するとバリーのおっさん、二人の顔をじーっと見出した。


「おおっ!二人とも鼻血が出ておるではないか!どうしたんじゃ!」


 だからお前がやったんだろうが!思わず突っ込みそうになちまった!


「はっ!まさか、またワシがやってしまったのか?」


 そう言いながら俺ら奴隷達の所へズカズカと歩いてくる。


「お前!これはどういう事か説明をしろ!」


 そう言って、俺の顔を人差し指で「びしっ!」と指さして来た。ま、まじかよ。俺が説明すんのこれ?へたしたらさっきの人達みたいに、今度は俺が殴られるんじゃねーの?なので、俺は若干顔を引きつらせながら、おっさんに説明をした。あと涙目も追加だ。


「えっと、バリー様のパンチと蹴りで一発で沈んでいました。はい」


 俺は余計な事は言わずに事実だけを言う事にした。すると、、急にしょんぼりとした顔になるバリーさん。


「ワシはな、興奮すると、どうにも見境がなくなってしまうくせがあるのじゃ」


 バリーさんは全く同情できない事情を話し出した。いや、それよりもあの二人をはよ治療した方がいいんじゃねーの?正直そっちが気になって仕方ない。


「こんな辺境に送られたのも、第三王子を殴ったからで・・・」


 ぶっ!第三王子って事は、この都市の領主のゾルタン・ロンネフェルトかよ!


「そ、そんな方を殴って、よく辺境送りだけで済みましたね・・・」


「そりゃお前、ゾルタンには人望もくそも無いからの」


 バリーさんによれば、第三位王位継承者であるゾルタン・ロンネフェルトは、ロンネフェルト王をも悩ますほどの、そりゃあ出来の悪い奴らしい。街中で問題を起こしては、国からのお見舞金と言う形の賄賂により問題をもみ消すなんてことはしょっちゅうだったんだと。


 そんなゾルタンに愛想を尽かした国王が、この辺境の鉱山都市「ロックストーン」にゾルタンを更迭したのはつい最近の事だった。そして、バリーがゾルタンを殴ったのも、ゾルタンの行き過ぎた誹謗中傷が原因だったこともあり、領主館勤務を外され、辺境の鉱山責任者へと更迭となったらしい。バリーが言うには「栄転」らしいけどね。


 しかし殴られても処罰が更迭だけで済むゾルタンって、いったいどんな奴なんだよ。逆に興味が湧いてきたよ。


「って、それよりもですね!あの二人を治療した方が良いんじゃないですか!?」


 バリーの話が面白いもんだからすっかり忘れてたけど、あの二人、血を流しながら気を失ってるんだったよ!


「おお!そうじゃった忘れとった!医療室へ運ぶ!お前ら手伝え!」


「ちょっと待ってください。僕がヒールで回復した方が早いと思います」


 こんな大男二人を医療室に運ぶとか、長旅の直後にそんな事やりたくねーっつーのと、はやく回復しないとやばいんじゃねーの?という危機感の両方から、魔法による治療を申し出た。


「貴様、魔法が使えるのか?」


 その質問には、言葉ではなく、実際に回復の魔法を使う事により答えて見せた。


「っつ、あいててて」


 俺の魔法を受けた二人が意識を取り戻していく。良かったあ。新たな職場に着任早々、殺人現場に立ち会わずに済んだぜ・・・。とか思ってたら、バリーのおっさんが俺のところまで大股で歩いて来て、おもむろに胸ぐらを掴みあげる。ぎゃああああ殺さるううううううううううう・・・?


 と思ったら、俺の胸に下がっていた奴隷カードを見てただけだった。おっさん怖いんだから、もっと優しくしてほしいよ・・・。


「お前、三級奴隷のくせに魔法が使えるのか?」


 ああ、そういえばなんか、アルフレートの奴が第三級だとかなんとかって言ってたな。なんなの?その、三級とかって。


「あの、その、奴隷にも等級があるんですか?」


「なんじゃ、お前、そんな事もしらんのか」

 

「すみません、新人奴隷なんで、何にも知らないです」


「奴隷には、1~3までの等級がある」


 おっさんが言うには、3は本当に肉体労働くらいしか役に立たない等級で、1級になると、家の事情、例えば、本人に能力はあるのに、家族を事故で亡くしやむなく奴隷商人に売られたなど、そういう違いがあるらしい。


 って事は、アルフレートの野郎、俺を何の役にも立たねえ3級として奴隷承認したって事か!いやでも、実際何もできないが・・・。


「よし!お前さんは、特例として1級に格上げだ」


 俺が若干自虐じみた思考に陥っていると、バリーのおっさんがそんな事を言い出した。


「え?いいんですか?」


「ただし、この坑内だけでだ!3級ってのは変えられんが、扱いは1級に準ずるものとする」


 やったぜえ!最低から最高に格上げだあ!って、等級上がったら何か変わるの?


「えっと、等級があがったら何か変わるんですか?」


「ああ。まず寝床が違う。おいササ!お前ちょっと、こいつの寝室用意しとけ」


「はい!」


 さっきまで気を失ってたササのおっさんを平気で使うバリー。怖いわあ。


「とりあえずお前の部屋はここだ」


 案内されたのは、ベッドと簡単な棚などが用意された質素な部屋だった。ただ、ベッドは一つだけなので、一人部屋なんだろう。


「あの、もし3級だったら、どんな部屋だったんですかね」


「おう、見てみるか?」


 そういうので、遠慮なく見せてもらう事に。


「こ、これは・・・」


 それはひどい部屋だった。6畳程の広さの部屋の土の床に、ボロボロの二段ベッドが二つ並べられている。つまり4人の奴隷がここで過ごすらしい。所々に鉄でできた入れ物がおいてあるんだが、おそらく雨漏りがするんだろう。日本でこんな所で働かせたりしたら、それこそ人権問題がおきそうなくらいのひどい部屋だった。


「良かったなお前、魔法が使えてよ」


 心の底からそう思ったよ。しかし、ここを生活の基盤にする奴も居ることを考えると、あんまり素直には喜べなかった。まあでも、人の事を憐れむ余裕なんか院の俺には無い。俺だって使えないと判断されれば、すぐにあっち行きだろう。


「って言うより、お前が魔法を使えて助かったのは俺達だな」


「どういうことです?」


「お前見たろ?さっきのバリーのおっさんの癇癪」


「ああ・・・」


「今までは俺らが怪我しても、薬草やらでどうにかするしか無かったんだ。お前が居て一番助かってるのは、俺とアルネの二人なのは間違いねえ!」


 そうやってササのおっさんは豪快に笑っている。いや、すんません。それ全然笑えないんですけど・・・。

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