第7話 テレビゲームじゃないんだ
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
俺が思い切り突き刺した剣は、モンスターの背中に深々と刺さっていた。今までに聞いたことのない悲鳴を上げてやがる。ハハッ、俺のイチかバチかの突撃が、結果論だけど成功しちゃったよ。
これまでどんなに斬りつけてもほとんど傷を与えられなかった俺の剣だけど、なんで今回は傷を負わせる事が出来たんだろうか?
違いといえば、「斬る」ではなく「突き」を行ったんだ。さっき、あいつの体を斬ろうとしても傷ひとつ付けられなかったんで、
いや、今はそれどころじゃないな!俺が剣を突き刺した時にその痛みからか、モンスターはその手から女の子を手放している。
俺は、モンスターの手から解放された彼女を抱きかかえ、奴から距離を取った。
エロゲなら、彼女を抱きかかえた瞬間「うひょー、女子の体柔らけー」とかいう、俺のモノローグが入りそうだが、あいにくそんな余裕は今の俺には無い。
「大丈夫か!?」
俺が問いかけると、少しだけ咳き込みながらも「大丈夫!」と返事を返してきた。よし、本当に大丈夫みたいだ。
「悪いけどすぐに立てるか?今ならあいつから逃げることが出来るかも・・・」
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
俺が彼女に話しかけてる途中で、いきなりモンスターの咆哮みたいな物が森に響き渡った。気がつけば、さっきまで痛みにのたうち回っていたモンスターが立ち上がって、こん棒をブンブンと振り回している。
「嘘だろ・・・。回復が早すぎる」
たぶん、さっき俺が付けた傷が原因だろう。あれで死ぬとは思ってなかったけど、中途半端にダメージを与えたせいで、完全に怒らせてしまったようだ。
これはまずい状況だ。さっきまでの
こうなったら、もう一度あいつに剣を突き刺してやるしかない。けど、どうやってあいつに突き刺せばいい?一応、考えている案はあるんだけど、それにはエルフの魔法が必要になってくる。
「なあ、聞こえてるか?」
「は、はい。なんで・・・しょうか・・・?」
息切れしてはいるが、まだ返事が出来るくらいの余裕はありそうだった。
「あんたにやってもらいたい事があるんだ!頼めるか?」
「私に・・ですか?」
俺が考えた案はこうだ。俺がさっき、あいつの背中に剣を突き刺してからというもの、俺に対して背を見せることがほとんどなくなった。
なのでそれを利用して、これまで以上にオーバーアクションを行い、あいつの注意をより一層俺に向けさせる。俺が今やってるように、剣を突き刺すような動作をしてみせたりしてね。
すると当然、あのモンスターは自動的にエルフの子に対して背中を見せてしまうことになる。
「今だ!頼む!」
俺はエルフに対して叫んだ。俺からの合図を聞いたエルフは、モンスターの背中目掛けて魔法を放つ。正確には「背中の傷」目掛けて魔法を放った。
ギャワアアアアアアアアァァァァァァ!
モンスターの物凄い悲鳴が森のなかに響き渡った。傷口に直接魔法攻撃を食らっては、いくら低レベル魔法とは言え、さすがにたまらなかったようだ。痛みのためか、その辺りを散々転げまわり、今ではうつ伏せで地面に転がっている。
そして、俺が考えた作戦の仕上げは、もう一度あいつの背中、同じ傷口に剣を突き刺すことだ。倒れてる今なら狙いも付けやすい。
俺はモンスターへ向かって全力で剣を上方へ掲げた。
そして一気に背中に突き刺す!
ガキィィィィィィィィィィン!
剣がモンスターに突き刺さると思われた瞬間、予想に反して、モンスターの皮膚に大きく弾き返されていた。
「嘘・・・だろ?」
俺はモンスターに剣を弾かれて大きく体制を崩してしまった。その瞬間、モンスターは寝そべったままの状態で、片手をむちゃくちゃに振り回す。
「ぐはっ!」
俺はその攻撃をまともに左腕へ食らってしまう。そして右手に持っていた剣も地面へとすべり落ちる。
何てことはない。エルフの女の子より先に、俺の体力のほうが音を上げていたんだ。それでモンスターの体に剣を突き刺すことが出来なかった。
くそっ、情けないぜ。15歳の体になったとはいえ、あんな重い剣を抱えて結構な時間慣れない戦闘をやって。
やっぱゲームとは違うんだよ。俺のやってたゲームだったらさ、そもそもスタミナなんて項目は無かったし、あったとしても数値化されているから、確認しながら動くことが出来たんだ。
モンスターが俺にこん棒を振り下ろそうとしているのが見える。エルフの女の子が顔を抑えながら何かを叫んでるが、何を言ってるかは聞こえなかった。
終わったな俺。悪い、神様。あんたにせっかく転生させてもらったのに、結局40歳で死ぬことになりそうだわ。
ぼとっ
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
俺が自分の死を覚悟した瞬間だった。突然真っ白な光が走ったかと思うと、こん棒を持っていたモンスターの腕が地面に落ちていた。
「その場を離れて下さい!」
女の声が聞こえてくる。俺はわけもわからずその場を離れた。
現金なもので、死を覚悟した瞬間全く動かなかった体は、助かるかも!?と思った瞬間「機敏に」とまでは行かないものの、十分に動いてくれた。
ドゴオオオォォォォォォォォォン!
今度は真っ白な光と共に、大きな爆発音が響き渡った。さっきまでこん棒を俺に振るおうとしていたモンスターは、声も出さずに地面に倒れる。
そして、いつの間にそこに居たのか、数名の兵士風の男たちが一気にモンスターに襲い掛かる。俺達が散々時間を掛けても倒せなかったそいつは、あっさりと彼らの手によって倒されてしまったようだ。
「大丈夫!?」
どこかで聞いたことのある声が、俺に話しかけて来た。その顔を確認しようとしたが、俺はすでに意識が半分飛んでいたようだ。
「助かったのか・・・?」
そう思った瞬間体中の力が抜け、俺の意識はそこで完全に途絶えてしまった。
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