第8話 街の宿にて
気付くと、以前オレがこの世界にやってきた時に、初めて見た部屋とそっくりな場所に寝転がっていた。
「あれ?俺確か、森の中でモンスターと戦ってたはずじゃ・・・」
そうだよ!もう少しでやられそうな所で助けが入ったんだよ!
森の中で出会っためっちゃでかいモンスターと、エルフの子と一緒に戦ってて、そして情けないことに、俺が体力の限界でやられそうになった時、助けが入ったんだよな。
しかし・・・。俺は自分がいる部屋をぐるっと見回してみる。どう考えても、最初に神様って奴と遭遇した部屋にしか見えない。あいつの姿は見えないけどな。
もしかして俺、死んだんだろうか?ここでじっとしてたらお迎えが来るのかもしれないな。戦闘で痛めたのか、さっきから顔がめちゃくちゃ痛む。
神様、あんたせっかく俺を転生去せてくれたけど、結局ダメだったよ。悪いね、手間だけ掛けさせてしまって。
(シン・・・・シン様・・・・)
ん?何か声が聴こえる。もしかしてお迎えが来たのかな?
(シン様・・・・シン様・・)
「シン様!起きて下さい!傷は浅いですよ!」
気が付くと俺は、ギルドの受付のお姉さんにマウントポジションを取れていた。そして服を掴まれて、体を上下に揺さぶられている。
「ちょ、なんなんですか・・・ボヘフッ!」
状況がわからないまま、今度は往復ビンタを食らった。痛ってえええええええええ!さっきから顔が痛かったのはこの女がビンタしてたからか!?
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は必死に声をだしてビンタを止めさせた。てか、マジですげえ痛いんですけど・・・。
「シン様!良かった・・・気付かれたんですね・・」
ちょっと涙目になりながらも、お姉さんはほっとした表情になっている。そして、そこでようやくマウントポジションを解除してくれた。ベッドから降りる瞬間、ちょっとだけパンツが見えたのは黙っておこうと思う。
「実は、シン様が先程から、神様がどうとか、死んだらどうとかとうなされていまして・・・」
それで、心配したお姉さんは揺さぶってみたりビンタしてみたりして、無理やり起こそうとしたんだとか。
「この痛みの原因はお前かあああ!」
と、一瞬思ってはみたものの、口には出せなかったよ。だって、俺を心配しての行動みたいだったから。でも弱ってる時にビンタはやめて欲しい。マジで死ねます。
「えっと、一体僕はどうなっちゃったんですかね・・・」
何しろ気付いたらベッドに寝てたわけだ。なので、今の状況が理解できていない。
お姉さんによれば、俺は森のなかで気を失ったらしい。一瞬、自分達の助けが合わなかったのかとヒヤヒヤしたらしいよ。ただ、体力の消耗が激しかったらしく、魔法と薬草とで、ずっと治療してたんだとか。
そうそう、なんで助けにこれたのか不思議だったので聞いてみたんだよ。そしたら、森のほうからモンスターの咆哮が聞こえたんだと。かなり街の近くまで俺達は来てたらしい。消耗していたんで、全く気付かなかったけどな。一応、俺たちの行動は成功していたのかも。
で、これもびっくりしたんだけど、モンスターに放たれた、俺達を助けた強力な魔法の一撃、あれ、受付のお姉さんの魔法だったんだよ。
「お姉さん、もしかしてかなりの魔法の使い手なんじゃ?」
思わず聞いてしまったんだ。そしたら
「私は、魔法剣士ですから・・・」
と、若干顔を赤くしながら答えてくれた。
はあああああああああ?だって、魔法剣士って、中途半端な職業だって言ってたじゃん!あれって自分の体験談だったの?いや、それにしては魔法の威力凄かったけど・・・。
「魔法剣士の使う魔法もすごいじゃないですか」
俺は思ったことを素直に言ってみた。あれで中途半端だったら、本職はどんだけなんだよ。お姉さんはちょっとだけ考えてから俺に答えてくれた。
「冒険序盤から、中盤くらいまでは凄く役に経つとは思います」
そして「だけど」と前置きしてから
「冒険者レベルが上がるに連れ、付いていけないなと・・。」
そう思うようになってしまうのだとか。実際、魔法剣士なのに、剣一本に絞る冒険者も増えてくるらしい。
「それでも、魔法剣士に愛着があるんで私はそのままですけどね」
そう言って受付のお姉さんは笑っている。あれだけの魔法を使えるのにレベルがあがるときついってのか。俺もレベルが上がったら転職とか考えといたほうがいいかもな。
あれ?でも、序盤は役に立つなら、なんで俺は仲間が見つからないの?序盤はすげえ役立つって言ってたぞこの人!
「あの、じゃあなんで僕は仲間が見つからなかったんですかね?」
だって矛盾してるじゃん。役に立つのに需要がないってどういうこっちゃ。
「あー、それはですね・・」
お姉さんが言うには、つまりこう言うことらしい。冒険者を探す際、もちろん単騎のヘルプを探すこともある。だけど大抵は、ずっと自分達と一緒に戦ってくれる仲間が欲しい。なので、将来を見据えた仲間探しを最初から行うみたいだね。
聞かなきゃ良かった。聞かなきゃ良かったよ!魔法剣士の需要が無いことが益々浮き彫りになっただけだった・・。
「それにシン様は、魔法を一つも覚えておられませんでしたから」
そういえば、魔法覚えてなかったな俺。つまり、魔法も使えない上にレベルは1ときてる。究極の役立たずじゃないですか・・。
あ!魔法剣士の話で思い出した!あの一緒に戦ってた魔法使いのエルフはどうなったんだ?
「ビッケンバーグ様なら無事ですよ」
「ホントに?」
「はい。コレナガシン様よりもお元気でいらっしゃいます」
そうそう、そんな名前だった。と言うか、俺より全然傷も浅く先に回復したようだ。一日ゆっくり休んだだけで回復したらしい。凄えな。俺よりも全然華奢なんだけどなあ。
でも生きてたのか。本当に良かったよ。あそこに居たのが俺じゃなかったらもっと良かったかもしれないけどな。あと、お姉さんにもちゃんと言っとかなきゃ。
「あの、本当にありがとうございました。お姉さんたちが来てくれなかったら、僕達は死んでいたと思います」
俺は心の底から感謝の気持ちを伝えた。もし、あのまま誰も来なかったらと思うと本当に恐ろしい。たぶん俺も、最初に殺された奴みたいになってた事だろう。そう思うと、今でも生きた心地はしない。
「大丈夫ですよ。あのモンスターなら私達がきちんと倒しましたから」
大層、具合の悪そうな顔色をしていたんだろうと思う。そう言って、俺を安心させるようにお姉さんはニコッと笑った。
ちょっとホッとした所で、俺は気になっていた質問をしてみた。
「あの、僕は一体どのくらい寝込んでたんですかね・・?」
いやだって、少なくとも先に回復したエルフの子よりも遅く回復したわけで。となると一日以上、あるいはもっと意識を失ってたって事じゃん。
「そうですね、丸3日というところでしょうか?」
あ、思ったより短かった。1周間、へたしたら1ヶ月とか寝込んでたんじゃないかって不安になってたからね。
でも、おかげで課題も色々見えてきた気がする。もちろん、この世界で生き残るための課題がね。
そんな事を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「開いてますよー」
お姉さんの返事に反応して、ドアがガチャリと音を立てて開いた。
「あの、シン様はまだ寝ておられますか?」
入ってきたのは、さっきまで話題にのぼってたエルフの子だ。ビッケンバーグって名前だったっけ?そっちは苗字だったか?
彼女は部屋の中に入ってくると、途中で俺が目をさましていることに気付いた。
「良かった!意識が回復したんですね」
めっちゃ自分の事のように喜んでる。まあでも、俺も同じ死線をくぐり抜けた仲間のような親近感はあるな。改めて、お姉さんたちに感謝しなきゃな。
「あの、改めてお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございます。」
彼女は、全滅せずに済んだのは俺のおかげだと考えてるようだ。
「いや、あれはあなたの魔法の力があったこそですよ。」
俺は謙遜ではなく、心底そう思っていた。だって、俺みたいな何の能力も無い奴が助けに行って、そんでもってなんとか助かったのって、奇跡以外何ものでもないよな。
「確かに、ちょっと無謀とは思いますね」
お姉さんも俺に同調する。デスヨネー。
「でも、咄嗟に対抗策を思い付いて実行したのも事実です」
あのアイデアに関しては自信を持っても良いと思いますよ?と付け加えてくれた。
そうなのかなあ。日本に居た時も、自分が役にたったのは、エロゲとRPGくらいのもんだったからなあ。自信を持てと言われても難しい。
結局、自信を持つにはそれだけの裏付けが必要なんだ。俺にはそれが全く無い。それが今後の課題の一つだ。なんでも良いから実績が欲しい。
「さて、シン様が目を覚ましたことですし、ちょっと報告してきますね」
そう言ってお姉さんは立ち上がる。
「報告ですか?」
「ええ、街の兵士に協力してもらいましたので」
それから、とお姉さんは付け加える。
「色々と不審な点もありますから」
そうなんだよ、俺もずっと不思議に思ってたんだ。だってさ?レベル5のパーティーのクエストだぜ?なんであんな凶暴なモンスターが出てくるんだよって話だよ。巻き込まれた身としては、俺もその理由を知っとく権利はあると思う。
「なので申し訳ないのですが、後ほどシン様からも事情を聞かせて頂くことになると思います」
なんか、警察の事情聴取みたいな雰囲気になってきたな。
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