第5話 レベル1の魔法使い
誠に不本意ながら、充実したハンターライフを森の中で送っていたら、助けを求める声が川の方から聞こえてきたので、慌ててそちらへ向かってみた。
しばらく走ると、川向こうから数人の冒険者らしき
そしてその後ろ側から、なんと人間の2倍はあろうかと思えるようなモンスターがそいつらを追いかけていた。
「な、なんじゃこりゃあああああ!」
俺はしばらくぽかーんとその馬鹿でかいモンスターを見ていたんだけど、どんどんその姿が大きくなってくる。つまり、こっちに近づいてきてるんだ!
これはやばい!と思った。とてもじゃないが、俺がどうこう出来る相手じゃないと一瞬で判断出来る。転生してまだ数日なのに、何も達成してないうちに死ぬわけにはいかないんだ!そう思って逃げようとした。
そしたら、最初に逃げてた奴等の3人のうちの一人がついに捕まってしまった。左手で
投げられた奴は背中を打ったらしく、まだ立ち上がることが出来ないでいた。そしてモンスターは、右の手に持っていたこん棒をそのままそいつに振り下ろした。
ぐちゃ
そんな音が聞こえた気がした。こん棒で思い切り殴られたそいつは、もう原型がわからないくらいになってぴくりともしない。
一瞬、何が起こったのか全く理解できなかった。しかし、元は人の形をしていた肉の塊となった「それ」をしばらく見ているうちに、理解が追いついてきた。
「おえええええええええええええええええっ」
俺は恐怖でそのばに座り込み、思い切り吐いていた。
だって、だってさ、いきなり人が潰れるように死んじゃったんだぜ。TVゲームじゃこんな風になったこと無いよ!
この時はっきりと自覚した。ここは本当に日本じゃなくて異世界なんだって事に。いつ自分がああなってもおかしくない世界なんだと。
さっきまで、将来の計画をルンルンで立ててた時の浮かれた気持ちなんか粉々にされて吹っ飛んじまった・・。
体の震えは止まらなかったが、とにかくここを逃げ出さなきゃという思いだけで、俺は恐怖でしゃがみこんでた体を立ち上がらせた。
ふと見ると、逃げてた残りの二人のうち一人は俺と同じように立ち上がってるが、もうひとりは完全に恐怖で身動きが取れなくなっているようだ。
よく見ると股間のとこがぐっしょりと濡れている。完全に腰を抜かしてるようだ。そりゃそうだ。あんなの見せられたら誰だってビビるに決まってる。
そしてモンスターは、その身動きが取れない奴の方へ向かっていき、さっきと同じように襟を掴んでそいつを放り投げた。放り投げられた奴は、今度は近くにあった木に思い切り肩からぶつかって、地面に落下した。そして苦しそうにうずくまっている。
「おい!早く立て!そのままじゃやられるぞ!」
俺はそいつに腹の底から怒鳴った。早くしないと、さっきの奴みたいになってしまう!そうこうしているうちに、さっきと同じように、再びモンスターがこん棒を振り上げた。くそっ!どうにもならねえ!
ボンッ!
突然、モンスターの背後で軽い爆発音が起こった。こん棒を振り下ろそうとしていたモンスターは、背後から爆発の原因を作ったもう一人の方を向いた。
あいつらの仲間の一人が、あの巨大なモンスターに魔法を放ったようだ。それほど強力な魔法では無かったけど、モンスターの注意を
「今です!その場所を離れて!」
フード姿の魔法使いが、フードを下げながら仲間に向かって叫んでいる。その下からは、芸術作品とも形容できるような美しいエルフの女の子が現れた。
ああ!この魔法使い、この前の超美人のエルフの女の子だよ!
ほら、俺が仲間が見つからないって冒険者ギルドで腐ってたら、俺より後からやって来て、俺と同じレベル1なのにすぐにパーティーに参加できた子!
でも待てよ?確かこいつらが受注したクエストは、そんなに高難易度のものじゃなかったはずだぞ?俺が盗み見したからそれは間違いない!それがなんであんな化物に追いかけられてるんだ・・・。
俺がそんな事を考えてる間にも、モンスターは今度はエルフの魔法使いに向かっていた。
エルフの子は何度も魔法をそいつにぶつけてはいるが、一発一発の魔法の威力は大した事がないらしく、足止めにすらなっていなかった。
そりゃそうだ。だって、俺がギルドで見かけた時、彼女はまだレベル1だったんだ。いくらクエストをこなしたとはいえ、せいぜい一つレベルが上がったくらいの物だろう。
そうこうしている内にモンスターは魔法使いの所にたどり着いてしまった。くそっ、さっきの青年と連携すればなんとかなるか?そう思った俺は、エルフの魔法使いに助けられた男の方を向いた。
そしたらあの男、脇目もふらず俺達から遠く逃げようと走っていた。いや、もしかしたら、街の兵士を呼びに行ったのかもしれない。そうだと信じたい!
しかしこの状況、どうすりゃいいんだよ!俺は魔法も使えないし、剣だってまともに振れない。動物用のスリングなんか絶対あいつに効くわけがない。さっき試しに撃って見たけど、かすり傷一つ付いてないように見えたよ・・・。
(逃げるか・・・?)
俺の中に、一瞬そんな考えが浮かんだ。
だってさ?俺が居た所で何の役にも立たないよこれ。それよりも早いとこ街に戻って助けを呼んだほうがいいに決まってる。ここで二人共死んじゃったら、あのモンスター、街に向かってくるかもしれないじゃん!
俺はそう結論を出して、一気に走りだした。そうだよ!俺が今更あの子に加勢した所で共倒れになるのがオチだ!
「だから俺は間違ってなーーーーーい!」
そう叫びながら、俺はモンスターの背後から思い切り剣を叩きつけていた。
俺は一体何をやってるんだよ・・・。
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