第4話 森のG級ハンター

 俺は今、街の北側にある森にきている。森に来ている理由は、冒険者ギルドで俺と組んでくれる人がゼロと判明したので、どうにか一人でもやっていける仕事を探さねばならない事態になってしまったんだ。


 で、色々考えた結果ギルドの人に聞いてみるのが一番だという結論になり、受付のお姉さんに恥を覚悟で聞いてみた。あれだよ、「聞くは一時の恥。聞かないは一生の恥」ってね。まあ、日本では恥しかなかったけどな!


「そうですね、レベル1の魔法剣士様が出来る仕事ですか・・・うーん」


 受付のお姉さんすげえ悩んでたな。そんなにダメですか魔法剣士。あと、せめて本人の前でそんなに悩むのやめて欲しいです。泣きますよ?


「公式なクエストではないので、レベルには影響を与えませんが・・」


「それでもよろしければ」と、前置きした上で紹介してくれたのが森での動物狩りだった。


 なんでも、2~3匹の野うさぎや小動物を捕まえて街の取引所で換金すれば、その日の宿代と食事代くらいにはなるだろうとの事だった。


 なので、仕事を選り好み出来る立場に無い俺としては、直ぐ様その案に乗ったわけ。どうやら俺の第二の人生は狩人から始まるようだ。


 魔法剣士なのに。


 魔法剣士なのに!


 大事なことだから2回言ったんだよ!


 なんでこんなに急いで仕事を探してるかって言うと、実は俺、宿無しなんです。


 神様の野郎、俺を転生させたは良いけど、誰かの子供として転生させたわけじゃないので、いわゆる「実家」みたいなのが無いわけですよ。


 実はあれから、神様になんとかコンタクトを取ろうと試みたんだけど、そもそもどうやって連絡すればいいのかわからない。近場の人に「神様の連絡先教えてください」とか聞いたら、正気を疑われそうで怖いしな。

 

 まあそれでも、ギルドに入ってクエストこなせば大丈夫!って言うから安心してたら、魔法剣士の需要はめちゃくちゃ少ないらしく、もう自分でなんとかしなきゃ今日寝る場所も無い状態なわけ。


 あの野郎、なっちゃいけない職業とかあるなら先に言えっつーの!


 まあ、こんな文句言えるのも命あってのことなので、不満てほどでは無いんですけどね。どっちかと言うと、これまでに無い体験を目の前にして、ちょっとワクワク&感謝してるかも。


 そういうわけでかれこれ2時間ほど森の中を彷徨ってるわけですが、まだ動物の1匹も狩れてません。と言うか、剣と盾で動物って狩れるの?


 **********************


 あれから3日、俺は充実のハンターライフを過ごしていた。たぶんこの森限定でいいなら「G級」並だろう。


 最初は剣で動物を追ってたんだけど、飛び道具じゃないと話にならない事に気がついて、剣と盾を購入した時に残ってた残金で狩り専門投石のスリングを購入したんだ。高価な物は買えなかったんで一番安いやつね。


 あ、剣と盾の購入費用は冒険者ギルドが支給してくれた。なんでも初登録した冒険者への慣例となってるらしい。ありがたい話だ。


 スリングでの狩りは最初は上手く行かなかったが、何回もやってるうちにコツが掴めてきて、ついに最初の1匹を仕留めることが出来た。それからは、やはり失敗は多いが、たまに成功するって感じでずーっと続けて今に至っている。


 3日も潜ってると、森の中も大体把握出来るようになってきた。それほど大きな森じゃないので迷うこともほぼなく、どっかの方向に歩いていれば街道や川に出ることが出来るしね。


 あと、いつも同じ森で狩ってると動物が少なくなってしまう危険があるので、2~3日したら違う森へ行くことも考えなきゃな。


 このまま付近の森をハシゴして、森のG級ハンターとして名を挙げるのも悪か無いかな。


 ・・・・・・・・・・・・


 いや、無いな。うん無い。


 さて、とりあえずの生活費もなんとかではあるけど確保出来るようになった。


 さすがに高級なお宿への宿泊は無理だけど、狭い部屋にベッドだけみたいなとこなら泊まる事が出来た。まあ、最悪野宿でも構わんしね。なので、今後のとりあえずの計画を立てときたい所なんだけど。


 まずは俺自身の戦闘スキルの上昇だ。スリングでの狩りは上達したけど剣と魔法の腕は相変わらずだ。なのでこれをどうにかしたい。スリングでも戦えない事は無いだろうが、これからの事を考えるとやはり剣の腕は重要だと思う。魔法に精通しとくのも悪く無いだろう。


 後はやっぱ、仲間をどうにかしなきゃなあ。これからずっと動物専門のG級ハンターとして名を上げるわけにはいかんしな。レベルが上がれば宿代なんかも安くなるわけだし。


 何よりせっかく異世界へ転生して、第二の人生を送ってるんだ。なんかこう、でっかい事をやりたいじゃん。それが何かはわからんけどさ。


 しかしなんだな。こうやって、今後の人生についてあれこれ考えるってのはこんなにワクワクするもんだったんだなあ、と今更ながら実感してる。


 日本で生活してた時は、家・会社・家・会社の繰り返しだったからね。なんか久しぶりだよこの感覚は。初めて社会にでて働き始めた頃くらいか?あの頃は希望に(ちょっとは)満ちてたなあ。


 まあ、それはともかく、後はこの世界で生活しながら考えるしか無いな。何しろ知らない事が多すぎる。だから、この世界の色んな仕組みを知ってから計画するしかないだろう。俺のこの世界での知識の無さだけは、時間と経験がないと解決できない問題だからなあ。


 だってさ?後でギルドの受付のお姉さんに聞いた所によると、「魔法剣士を選ぶくらいだから、よほど思い入れのある職業なんでしょう」って思ってたって。そう思われるくらい、魔法剣士はダメってのはこの世界の冒険者の間では常識らしい。


 そんな世の中の常識さえ知らない俺が、どうやってこの先世渡りをしていくかってのは、やっぱ信頼できる仲間が鍵なんだろうなとか考えてる所。


「た、助けてくれえ!」


 俺がそんな事に思考を巡らせている時だった。川の方から助けを求める声が聞こえてきたのは。

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