エリー
ライムワームの街は華やかだ。
魔法で電力を供給し科学で人を誘う。まさしく人工的に作った夢の国で、優しい少女達はいつだって飲み込まれていく。私はそれを何人も目の前で、横目で、後ろで、見て見ぬふりをしていた。
私の名前はラビ。
ライムワームに住み自分の仕事をこなすためひっそりと姿を潜ませている。私と同い年の可愛らしい少女達はライムワームに強いあこがれや流行りのファッションに身を包むのだろうかなど考えたことはあるが私はもう少女ではない。この街で生きていける程の力のある女なのだ。
まあ、色気や考えはまだ足りないのかもしれないけど。そこは私以外の仲間がやってくれる。
街の隙間、ネオンの色が薄れる路地裏に入り込み仲間の居るビルへ足を伸ばす。
1度目は落ち着いたバー。2度目は男女が淫らに絡む店。3度目は真っ黒な秘密の場所。
エレベーターの間から聞こえる声や光が眩しくて思わず目を伏せるがいつものことだ、そろそろ慣れなくてはと前を向いた。
暫くして止まるべきでないのにエレベーターが止まる。
「はぁー、ねみねみ……あ?」
「……」
オレンジのライオンみたいな男。酷いくせっ毛を帽子で無理やり隠してていつも見苦しい見た目だ……。
レオン・ハント、私と同じマフィアに在席しているが私はこの男がどうも好きじゃない。好きじゃないというよりも……たぶん合わないんだと思う。
私達はお互いに顔を合わせ無いようにエレベーターの端と端に立つ。
変な感じだ。狭い空間でさえ近寄らないとは。
「……あの、レオン」
でもそれって少し寂しい。そう思って私はレオンに声をかける。……ぎこちない顔がこちらを向いた。
「なんだ、?なんか用か?」
「あっ、いえそういう訳では無いのですが。ただ、挨拶がしたくて」
「挨拶ゥ?」
眉をあげて上ずった声で聞かれる。
「そう。だから……うん……、おはようございます、レオン・ハント」
私は特に変な感じでもなく自然に眉の上がったレオンに挨拶をする。
お互いが合わなくても挨拶は基本だ。これは当たり前のことなんだから。
すると程なくしてそっぽを向いたレオンの小さな声が聞こえる。
「お、おう。オハヨ」
よし、これでもやは無くなったしすっきりだ。
ちょうど軽快なベルの音がなりエレベーターのドアが開く。
「ラビ様、お姉様がお待ちですよ」
「分かっています。仕事の進行状態は?」
「このようで……」
私の部下がエレベーターの前に立っておりすぐにと言わんばかりに仕事の話をする。でも、嫌じゃない。
好きな仕事は沢山しなきゃ。それがどんな仕事でもね?
「暗殺誘拐殺人潜入密約麻薬……どれも揃いで集まってますね?」
資料ファイルはいつも物騒だ。
そう。それがこの世界だ。私の大好きな世界。
自分の思考に耽っていればアジトのドアがゆっくりと開き中からたくさんの声が聞こえる。
ああ、そう。ここが私たちのマフィアだ。
「ボス〇〇〇からお電話です」
「リゼルーッ後処理して!」
「またちなまぐさーい」
それは中に近づいていくほど大きくなって様々な人が動き回っている。
「……今日も忙しいみたいですね?」
部下に声をかければそれはもう……と苦笑いで言われる。まあ、なぜ忙しいのかは想像がつくし私はこれからその元凶に合わなくてはいけないし。
よしっと気合をいれて仕事に取り掛かった。
私の仕事はこの世界の中ではものすごく簡単なものだ。それは上司の付き人及びパートナーであること。
こんな世界だ、殺しもすることはあるけど私の主な仕事はそれだけだった。
「姉さん……姉さん……??」
部屋に入り、私のパートナー……姉にあたる人物の姿を探す。彼女はとても自由奔放で私でさえも見つけられない時がある。
それが、仕事の前だろうがOFFだろうがあるので困ったものだ。しかもこの部屋に立ち込める血の匂い。それがなんとも言えない気持ちを掻き立てた。
「姉さん!!!かくれんぼは終わりですよ!」
background @ionisikazuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。backgroundの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます