第4話 カラスの格言?

 さて、すっかり『彼』で通して来てしまったが、彼こと間幸介も、いいかげんこのコントのような夢にも飽きてきた。

早くこの馬鹿げた夢から覚めて、さっさと帰って、次回の撮影のプランを練りたいと思いだしていたのである。

次の日曜には、別の山に行こう。

天気が晴れればいいが、悪天候だったら別の日か、別の撮影ポイント、もしくは雨の中でも絵になるような、水鳥の撮影も考えねばならない。

雨の中で水面に濡れる白鷺………、いいかもしれないな? 他にはどうだ?

あれこれ思案していると、彼の様子が気になったのか、カラスが話しかけてきた。

「おう、ボケ人間。何をない脳ミソでそんなに思案していやがる? 何ならオレ様が相談にのってやってもいいぞ。何、さっきのチキン野郎弁当の礼だ。遠慮なぞいらん」

と、何故か偉そうに言った。

いつの間にか立場が逆転してしまっているかのようである。

実際、そのカラスは彼を見下しているようにも見えた。

カラスにまで、バカにされるようになってしまったかと、彼は肩を落として嘆息し、ダメ元でカラスに、これまでの経緯を話した。

「ふむ、不思議な鳥とな?」

カラスは小首を傾げて彼の話しを聞いた。

「ああ、羽がキラキラ光って、とっても綺麗な鳥だったよ。あんな美しい鳥は見たことがなかったものでね」

「羽が光る……………だと?」

彼の話にカラスは、『何をバカな』と言わんばかりの訝しげな顔で、

「おまえ、どこか打った?」

「いや、頭は正常だけど……………」

カラスに気遣われて、彼はたじろいだ。

そして、それをごまかすように、

「きっと見間違えさ。もう諦めたよ」

するとカラスは、フン、とクチバシに開いた小さな鼻を鳴らして、

「ふむ、諦めがいいのは、一見利口なようだが、場合によっては愚か者の行為だぞ。オレの従兄弟の親友の遠縁のおじさんの、そのまた親友のご先祖様が言った格言だ」

何だかワケの分からない格言だが、言われてみて何となく心に突き刺さるモノがある。

彼にはその格言が、とても重みのあるもののように聞こえた。

「そ、そうかな……………、確かにこのまま帰っても、心残りになるだけか」

そう思うと、何故かいても立ってもいられない心境になった。

そして彼は、カメラを手にして立ち上がった。

今、夢の中であるということも忘れ、あの鳥を探しに、再び森の中へ向かおうとすると、

「おいおい、行くのはいいが、鳥の写真だったら、何も森に入らなくっても、このオレ様がモデルになってやってもいいぞ。もちろんモデル料代わりに、チキン野郎弁当もう一個もらうが」

「あ~、君はダメ」

「どーして?」

「今回は愛鳥家主催のコンテストだから」

「だから?」

「カラスは人気ないんだ、愛鳥家からは」

「うあっ、スッゲーむかつくっ!!」

カラスは『カーカー』と、抗議の声を上げた。


 そのまましばらく彼は、あの鳥を求めて夢の中の森を走り回った。

すると、そんな彼にまだ何か用があるのか、さっきのカラスが後をつけて来て言った。

「おい、そろそろ諦める気になったか?」

「諦めない」

「とっとと諦めろ。諦めの悪いヤツは愚か者だと、遠い親戚の誰かが言ってたぞ」

「さっき言ってた事と違うじゃないか?」

「うるさい! そもそも、このオレ様の魅力が分からんような連中のコンテストなんぞ何で許せようか? おまえも、そんなくだらんモノに参加するなよ」

「自分に人気がないからって僻むなよ」

言うとカラスは、プイッとそっぽを向いた。

「とにかく、せめて何か満足のいくような一枚でも撮らなけりゃ、とても帰る気にはなれそうにないんだ」

彼はカメラの設定を再確認して言った。

絞りもシャッタースピードも問題はない。

フィルムも十分に残っている。

今日はまだ、一枚も撮ってはいないのだ。

彼は納得できる構図が決まるまで、シャッターは押さない主義なのである。

「仕方ねえなぁ。オレが仲間の居場所を教えてやるよ。今回はそれで我慢しろや、な」

彼があまりに懸命だったからか、カラスは呆れて言った。

だが、その申し出は、彼には願ってもないことであった。

「え、ホント、マジで?」

「おう、ホントのホント。最高の撮影ポイントだ。そこなら野鳥なんて、掃いて捨てるくらいウジャウジャいるぜ。タンチョウからコウノトリ、この間なんてトキ見たぜトキ。知ってるか、学名ニッポニア・ニッポン」

「さすがにそれはウソだろ?」

「ホントだって! 他には鳥じゃないけど、ダチから聞いた話しでは、もう少し奥に行くと、日本狼とかもいるらしいぞ」

「いや、日本狼は絶滅種だろ?」

「むぅっ、ばれたか。確かに今の話しはウソだが、仲間の場所を教えるのは本当だ」

「マジで? だったら後でお礼に唐揚げ弁当でも、海苔弁当でも持って来てやるよ」

「あ、どーせなら特上のステーキ弁当の方が…………………………」

彼は財布の中を確認し、

「さすがにそれはダメッ」

「ちぇ、ケチめっ!」

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