細巻ラプソディ

@HOZUMI_Wazae

第1話

 私は呆然と、つい先程まで「かっぱ巻き」だった、海苔とシャリでできたちくわ状の一品を見ていた。

 隣では、3歳児がニコニコと私を見上げ、

「はい、ママ~」

と屈託なく笑いながら、海苔とシャリの乗る小皿をこちらに押しやる。

 その手には、複数の短いきゅうりスティック。

 箸で「ちくわ的な何か」を持ち上げてみると、穴の向こうに、全品100円の寿司たちが回る様子が見える。

 

 どうしろと?

 海苔とシャリだけで喰らえ、と?


 いや。海苔があるだけ、まだ救われたのかもしれない。

 私の目線の向こうには、幼児が好き勝手にレーンに手を伸ばしてネタだけを存分に味わった後で押しつけてきたシャリの大群に独り戦いを挑む、夫がいた。

 

 心にも海苔巻にも、ぽっかりと穴があいている。

 この空洞を、埋めたい。


 何を以て、埋める?


 わさび?

 それだけは勘弁してくれ!


 しかし、全皿100円の回転寿司で刺身を頼める訳もない。


 現実逃避に茶でもすすろうと、粉茶の容器に手を伸ばしたとき、私はその隣に神が密やかに鎮座していたことに気づいた。


 そうだ。どうしてもっと早く気づかなかったのだろう?

 こんなにも食が進む、シャリのパートナーが、ここにいるではないか!

 しかも、無料で!


 私は、件の「ちくわ」の空洞に、ガリを詰め込んだ。

 そして、わずかな醤油をつけてから、口に含み、噛みしめてみた。

 

 うん。

 強すぎず弱すぎない刺激。

 かすかな甘み。

 きりっと引き締まる感覚。


 ノリ

 シャリ

 ガリ


 三者の調和。しかも韻まで踏んでいる。


 小皿の上に並ぶ主をなくした細巻すべてに、ガリを詰めた。

 今日私は、人生三十数年目にして、ガリ巻なる新たな食品と出会った。


 全ての元凶たるお子様は、かっぱを殲滅したようだ。

 シャリ対夫の戦いは、まだ終わらない。

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