第44話

 パーティーから1週間後、ついにボス攻略の日がやってきた。

 今回のボスはヴァンパイアらしい。

 とはいえ、様々な創作物に出てくるような人型のバケモノってわけじゃなく、巨大なクリーチャーのような見た目らしい。

 エアディスプレイに表示させたヴァンパイアの情報を読んでいると、キョウラクが俺達プレイヤーの前に立つ。


「やあ、みんな。よく集まってくれたね。知っていると思うけど僕はキョウラク。今回のレイドのリーダーを務めさせてもらう」


 そう言ってキョウラクが何度か空中で何かを操作するように指を動かすと、俺達のエアディスプレイにヴァンパイアについての資料が送られてくる。


「見てもらえばわかるように、今回のボス戦は【攻城戦】だ。城を攻め落とし、地下にいるヴァンパイアを討伐する。今回は城門を破壊するために【破城槌】さんに協力してもらえることになった」


 破城槌か…いや、うん。今回みたいな場合はいいのかもしれないけどな…

 頭の中でガッハッハと豪快に笑う筋骨隆々の男を思い出して俺はげんなりとしてしまう。


  ☆


 その後何の問題もなく俺達は【吸血鬼の古城】へと辿り着いた。

 雰囲気がすごいな。俺の好きな建物だ。

 目の前に広がる波1つない湖面には満月が写っており、その湖の中心に西洋の城が建っていた。

 その城の城門まで堅牢そうな石橋がかけられており、俺達はそこを渡ると、そこには俺達の5倍はあるであろう鉄の城門がぴったりと閉じ、俺達の道をふさいでいた。


「ガッハッハ!ここで俺の出番だな!」


 そう言ってのっしのっしと身体を揺らしながら【破城槌】ハーレン・ロックが扉の前に立つ。

 ハーレンは腰を落とすと一言「破城槌」とスキル名を呟くと、その拳を振り抜いた。

 瞬間、爆音。続くように吹き飛ぶ鉄門、その余波に巻き込まれ、門の裏を徘徊はいかいしていた敵モブである【レッサーヴァンパイア】が紙屑のように空を舞って地面に叩きつけられると光の粒子に変わる。

 すごい威力だな。これで騒がしくなきゃパーティーメンバーに欲しいくらいなんだが…


「ガッハッハ!筋肉こそ至高!脳筋最高!ガーッハッハッハ!」


 …うん、やっぱりいいや。

 高笑いしながらポージングをしているハーレンを見て俺はそう思うのだった。


「さあ!みんな!僕に続け!【ライトバースト】!」


 そう言ってキョウラクが魔法を放つと光が放射状に広がり、その射線上のレッサーヴァンパイアを貫き絶命させる。


「よっし!勇者に続けぇえええ!」

「「うぉおおおお!」」


 1人の男性プレイヤーがそう叫ぶと、他のプレイヤーも続くように門内に侵入して行く。


「シュウ君行きますよ!」

「ん、私も行く」


 アンリとナクはそう言うとそれぞれ魔法を詠唱する。

 美少女が背を預け合いながら魔法の詠唱って中々に映える絵だな。


「【ドラゴニク・フレア】!」

「【ドラゴニク・アクア】」


 炎と水の龍が近くにいたレッサーヴァンパイアを飲み込むと、全てを焼く業火と全てを洗い流す碧水によってその身を光の粒子に変える。

 炎と水の龍って俺の中の厨二心がくすぐられるな。いいぞもっとやれ。

 俺は襲いかかってきたレッサーヴァンパイアを風の刃で切り裂きながらその様子を眺めていた。


  ☆


「よし…これで粗方あらかた片付いたんじゃないか?」


 周囲を見渡せば、未だ戦闘が続いているところはあるが殆ど終わりと言っても過言ではなかった。

 すると、突如城の壁が崩壊し、そこから数人のプレイヤーが転がり落ちて、俺の足元で停止する。


「ああっ…!まだ、まだ死にたくな_」


 男性プレイヤーはこちらに手を伸ばして、言葉を最後まで言い切ることなく、恐怖に表情を歪めながら光の粒子に変化する。

 破壊された城の壁、その暗闇から巨大な影が飛び出してくる。

 俺達プレイヤーを軽く上回るような巨大な筋骨隆々の体躯、触れただけで切れそうな程鋭利な牙。


「グォアアア!」


 この古城の主にして、第3界層の主、ヴァンパイアがそこにはいた。

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