第43話

 パリッとのりで固められたワイシャツ、折り目正しくアイロンをかけられたズボン。

 最後に黒を基調とした上着を羽織っている。

 多分これで大丈夫だろ。


「シュウ君…」


 自分の服装を軽くチェックしているとそう声をかけられる。

 そちらを振り向くとガチガチに緊張したアンリが濃紺のドレスを着ていた。


「ふっ、アンリは自信なさすぎ。どう、シュウ似合う?」


 そう言って真っ赤なドレスを着たナクがこちらに歩いてくるとクルリと一回転する。

 その豊満な胸を強調するかのように、ナクの着ているドレスは肩出しで、がっつりと背中が開いており中々に扇情的だった。


「2人とも似合ってると思うぞ」

「本当ですか!いやー、シュウ君を発情させちゃうなんて私も罪な女ですね!」

「シュウを発情させたのは私、私こそ罪な女。うっふん」


 いや、発情はしてないけどな。

 なぜ俺たちが正装をしているのかというと、第2界層攻略祝いと兼ねて、レイドパーティーを組むために何人ものプレイヤー達が集められていたのだ。

 まあ、プレイヤーなら誰でも参加可能なんだがな。


「ははっ、騒がしいな」

「ああ、キョウジか。そっちの子は?」


 ヘラヘラと笑っているキョウジの横に黒髪のちょっと目つきの鋭い女の子が立っている。


「初めまして、ユノっていいます。いつも兄がお世話になってます」


 そう言ってペコリと頭を下げるユノ。

 そんなことよりキョウジの妹だと!俺はそこにびっくりだわ!


「キョウジ、お前妹いたんだな。しかし、お前に似てないな」

「まあ、血は繋がってねえからな。似てないのは当然じゃね」


 いや、笑いながらカミングアウトするなよ。

 ユノも「えっ、言っちゃうの」って呟いてるし。

 そんな風に話をしていると会場がガヤガヤと騒がしくなった。

 見てみれば会場のステージの上に主催者である天議会のメンバー達が立っていた。

 すると、ハーが一歩前に出てマイクのような物を懐から取り出した。


「プレイヤーの皆様、お忙しい中ご足労ありがとうございます。さて!本日はささやかながら2界層解放のお祝いとパーティー作成を兼ねまして、このような会を開かせていただきました。どうぞ心ゆくまでお楽しみください」


 ハーはそれだけ伝えると一歩下がる。

 それと同時によくわからんがクラシックっぽい音楽が流れ出す。


「さてと、なに食べましょうか」

「ん、それじゃ行こ。ほら、ユノもこっち」

「えっと…私もいいんですか?」


 そう言ってアンリ達は話しながら何処かへ行ってしまう。

 俺は当然置いて行かれたわけだが。

 仕方ないのでキョウジと回ることにする。


「仕方ないな。おい、キョウジ一緒に_」

「くっ…ユノについに友達が…!でも兄としては寂しい…!複雑な心境だっ!」


 そこにはそう言いながら泣いている魔王キョウジがいた。

 よし、置いていこう。

 瞬時にそう判断した俺はさっさと歩いていく。

 周りのプレイヤーがキョウジを見ているが知ったことではない。知らないと言ったら知らないのだ。


  ☆


「あの!シュウさん!僕達とパーティーを_」

「悪い、パス」


 俺がそう返すと、声をかけてきた少年はしょんぼりとした顔になって人混みに戻っていく。

 これで何度目だ?

 俺がイライラしていると、前の方からワイワイと騒がしい集団がやってきた。

 見てみれば女とそれを囲むように媚びへつらっている男が4人、という典型的な姫と従者、といった様子のやつらが歩いてくる。

 面倒くさそうだな。スルーするか。


「ねえ!そこのあなた!」


 わきを通り過ぎようとすると、女に声をかけられる。

 …正直面倒だな。

 俺が聴こえなかったふりをして歩き去る_

 しかしまわりこまれてしまった!

 おい!ふざけんなよ!


「はぁ…はぁ…あなたよ。あ・な・た。ねえ、あなたシュウでしょ?」

「あ、ああ。そうだが何の用だよ」

「あの〜、みーの、パーティーに入れてあげるねっ!」


『プレイヤー【みー(*^o^*)】さんからパーティー【☆みーのお城☆】に招待されました』


 拒否っと。


「えっ!なんで拒否するの?」

「いや、あのな…_」

「お前!姫の誘いを断るとはなんということだ!」


 そう言って俺の前にガリガリのメガネが立ち塞がる。

 なんということだって言ってもな…


「いや、そもそもいきなりパーティー招待とかバカじゃねえの。オンラインゲームのマナーとしてどうなんだよ」

「ふん!関係ないね!姫の誘いだぞ!嬉しくないわけないだろ!」

「もう!トキタ君たら!」

「ひ、姫…!」


 トキタと呼ばれたメガネは女に抱きつかれて顔を赤くし、鼻の下を伸ばしていた。他のメンバーも顔を赤くしていた。

 なにこの茶番。帰っていい?


「ひ、姫!拙者も許せぬでござる!」


 そう言ってデブが前に出てくる。メガネに触発されたんだろうけど、俺からしてみれば面倒くさいことが増えたってだけなんだけど。


「お、俺だって!」

「僕もだし!」

「みんなっ…!大好き!」


 なんだよ、結局全員出てくんのかよ。


「あのさ、帰っていい?」

「ふん!そんな強気な態度も今のうちだ!【ウォータースラッシュ】」


 おいおい、パーティー会場でスキルを使うなよ!


「はあ、面倒くさいな【エアカウンター】」


 俺はデブが放った水の刃を風で跳ね返す。

 すると、跳ね返った水の刃はデブの腕に見事に命中し、デブの右腕が宙を舞う。


「うぐぅ…!」

「な?もうやめにしようぜ」


 俺がそう言うも、デブや他のメンバーの目から闘志は消えていなかった。

 そう言えばさっきから静かだな。

 周囲を見渡してみればプレイヤー達は円を描くように俺たちを取り囲んでいた。あの女も後ろに下がってやがる。


「行くぞぉおお!」

「うおっ!【法則介入】」


 周囲を見ていた俺にいきなり斬りかかってきたメガネの攻撃を防ぐために鉄剣を作り出す。

 攻撃は受け止められたはずだった。

 しかし、俺の予想と反し、メガネの長剣は俺の胸を切り裂いたのだった。

 なにが起こったんだ…?


「ふふはっ、見たか!これが俺の固有武器【透過剣】の能力だ!」

「今のうちだ!やっちまえ!」


 倒れた今がチャンスだと思ったのか従者共が俺に殺到する。

 くっ…!これはヤバイな…


「【キューブボマー】」


 その時、会場にスキル名が響き渡った。

 次の瞬間、俺の周囲で爆発が起こり、従者共が吹き飛ばされる。

 声の聞こえた方向を見れば、そこには怒りの表情を浮かべたアンリが杖を持って立っていた。


「さあ、クズ共!ゴミ掃除の時間ですよ!」


 そう言ってアンリが杖を一振りすると、アンリのドレスの裾から無数の5cm四方の半透明なだいだい色の箱が飛び出す。

 箱が未だ転がってうめいている従者共の腕や足を囲むように円を作ると、爆発する。


「っ!?あぁあああああああ!」


 絶叫が響き渡る。

 爆煙が晴れると、そこには手足を失った従者達が転がっていた。


「その汚い声を消してあげます」


 アンリが更に杖を振れば、上空で待機していた箱が動き出す。


「アンリ待て!」

「っ!そうでした!ナクさん!」


 俺の制止で止まったアンリは慌てたようにナクの名を呼ぶ。

 そう言えばナクとユノの姿が見当たらないな。


「ん、シュウここ」

「うおっ!びっくりした…」


 なんで横にいるんだよ…

 いつの間にか俺の横に立っていたナクはドヤ顔をしながらアイテムボックスからポーションを取り出し、俺にかける。

 体力が回復した俺は立ち上がると指を鳴らす。


「さて、好き勝手やってくれたな?覚悟は出来てるよな?」


 俺はそう言うと同時にスキル【暴風撃】を放つ。

 すると、俺の足元から風が発生し従者達はゴロゴロと無様に転がっていく。

 姫と呼ばれていた女は怯えたように、座り込み足元を濡らしていた。


「ねえ、ごめん。許して?」

「ちょっと無理かな」

「わかった、じゃあチューしてあげる!」

「汚い汚い」


 おっと、自然と口から出てしまった。

 俺がそう言うとアンリが突然キスをしてくる。


「私がいるのであなたのようなブスはノーサンキューです」


 そして、女を見て一言そう言った。

 おい、言ってやるなよ。俺も思ったけどさ。

 さらにナクも俺にキスをする。


「私もいる。身の程を知るのは大事」


 ナク、お前もか…


「双方そこまで」


 小さいのによく響く、そんな声が会場に響き渡った。

 声の主は【皇帝】レノンだった。

 結局、レノンの介入で解散になったが、もっと早い段階で来ていればやつらは怪我することなかったんじゃないか?

 その後、俺にしつこく勧誘をしてくるものもおらず、俺たちは楽しく食事をしたのであった。

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