第42話

「ひゃっほう!完全復活ですよ!」


 ある晴れた日の平原で、青のローブに身を包んだ少女が杖を振り回しながら楽しそうに走り回っていた。


「おい、あんまりはしゃぐと転ぶぞ。アンリ」


 俺がそう言うと青ローブの少女_アンリがこちらを振り向いてニヤッと笑う。


「心配性ですねえ、そんな簡単に転け…うわっ!」

「転けてんじゃねえか!大丈夫かよ…」


 はしゃぎ過ぎて足元の石につまずいたアンリを起こすために駆け寄る。


「痛い痛い、ねえ見てシュウ君擦りむいちゃいましたよ、ほら」

「見せんな見せんな、グロい」

「グロい!よく言いますね!股にあんなグロいもんぶら下げといて!」


 こ、こいつ…

 どうやって泣かせてやろうかと考えていると、俺の肩にポンと軽く手を乗せられる。

 そちらを振り向けば、無表情な美少女が立っていた。


「私もアンリの意見に同意。シュウの結構グロい」

「お前達…遺言はそれでいいんだな?」


 そう言って鉄剣を生成すると、アンリと無表情の美少女_ナクはアワアワと慌て出す。いや、ナクは焦ってる様子が見受けられないのだが。

 そんな2人の様子を見て毒気を抜かれた俺は、手に持っていた鉄剣を放り投げる。

 すると、鉄剣は空中で砕け、光の粒子へと変化する。

 2人は安堵の表情を浮かべると、すぐにアンリがナクの肩に手を置く。


「で、昨日は聞けなかったのですが、シュウ君に何をしたんですか?」

「とてもアンリには出来ないこと」


 そう言ってナクは自分の胸で何かを挟むような動作をした後、挑発するように小さく舌を出す。

 おい、笑顔なのにキレてるのがわかるぞ。

 ニコリと笑顔を浮かべたままガッシリと俺は腕をホールドされる。


「ア、アンリさんや?何をしてるのかね?」

「さ、シュウ君。宿屋に行きましょうか。貧乳の底力見せてやんよ!」

「キャラ変わってる!キャラ変わってるから!待て!引っ張るな!」


 ズリズリとアンリに引きられて行く俺。

 ステータスでは明らかに俺の方がSTR値は高いのに何故引き摺られるのだろうか、裏ステータス的なものでもあるんだろうか。

 結局、昼前に宿に戻った俺はアンリにコッテリ搾られた。何をとは言わないが。

 ただ、1つだけ言えるのは一生懸命頑張っているアンリに興奮していつも以上に頑張ったって所だけだろうか。


  ☆


 翌日、目を覚ますと一件のメッセージが届いていた。

 送り主はキョウラク。

 内容は俺たちの処分が決まったのでその事に関する話があるとか。

 正直めんどいからサボりたい。このまま二度寝したい。


「あー、行きたくない。もう少し寝てたい」

「だったら寝ればいいじゃないですか」


 隣を見ればアンリが服も着ずに寝転がっており、俺が起き上がった事によって捲れた掛け布団の隙間からチラチラと色々見えていた。


「そう、もっと寝よ。眠れないなら昨日の続き…」

「お前はほんとそればかりだな」


 テヘッと無表情で舌を出すナクの姿はかなりシュールだった。

 こちらも服は着ておらず、その胸は今朝も大きかった。ええ山じゃ。

 にしても、俺も出世したものだ。

 朝から裸の美少女を侍らせることができるなんてな。


「シュウ君が悪い顔してます」

「これはえっちなこと考えてる顔」

「いや、これっぽっちも考えてないです」


 俺がそう言うと2人は顔を見合わせて布団を剥ぐ!

 そこには朝陽に照らされてそそり立っている俺のバベルがあった。おはよう、マイサン。


「ん?あれ?おっかしーなー、えっちなこと考えてないんですよね?」

「じゃあどうしてこんななの?」

「あ、いや、その。ほんと!俺が悪かったんで!やめっ!アッーーーーーーーー!」


 はい、朝から搾られました。

 俺の負けです。く、悔しくなんかないんだから!

 そのお陰か眠気は完全に吹き飛んだのでよかった…のか?


  ☆


「ちょっと!まだ来ないの!」

「まあまあ、シラクモ落ち着こうよ」


 俺の左側からそんな話声が聞こえる。

 シラクモとサイカの話声だ。


「だいたい、呼び出しといてどういうつもりなのかしら?」


 イライラした様子でシラクモがそう言う。実際、呼び出されて30分も待っているので当然といえば当然なのだが。

 すると、部屋の扉を開いて天議会のメンバーがゾロゾロと入ってくる。


「へー、重役出勤じゃないの」

「ああ、我々は重役だからな。というのは冗談で、悪かったな。色々とゴタゴタがあったせいで遅れた」


 そう言ってレノンが謝ると他のメンバーも席に着く。

 その様子を見てシラクモは「ふん」と鼻を鳴らすと何も喋らなくなる。


「さて、今回呼んだのはこのためだ。エリー」

「は、はいです!」


 そう言ってエリーは俺たちの前に革袋を置いていく。

 多分報酬なのだろう。

 袋を開くと中には50万Lも入っていた。


「ちょっと!私達は何もしてないわよ!なんで報酬なんか…」

「そうですよ!このお金は全てシュウとキョウジが受け取るべきだ!」


 キョウラクとシラクモがそう言う。

 くれると言っているのに俺たちに渡そうとするなんて、こいつら損な性格してるな。


「ああ、それは討伐報酬ではない。本来ならプレイヤー達をある程度強化してこの界層は解放したかったのだが…そこのシュウとキョウジがやらかしてくれたおかげで早まってな」


 そう言ってこっちを指差すレノン。


「じゃあこのお金は?」

「それはプレイヤー達を鍛えてもらうための餌だ。頼めるかね」


 なるほど、おそらくレイド機能が開放された事が原因だな。

 ある程度プレイヤー達を強化して、レイドを組み、討伐する。

 ボス戦で1パーティー攻略っての多分その内厳しくなるんだろう。


「わかった、俺は引き受けよう」

「シュウが受けるなら俺も受けるぜ」


 おっ、キョウジも引き受けるのか。

 他のメンバーはしばらく迷っていたようだが、結局全員引き受けることになったのであった。


「ふむ、引き受けてくれるか。それなら今日限りで攻略者パーティーは解散とする。解散とはいえ君達は引き続き我々天議会が雇用させてもらう」


 それで話が終了したようで、各自解散となった。

 宿に戻ると、アンリとナクが俺の手に入れた報酬に驚いていたな。

 50万の内、20万はナクの報酬だと聞いていたので20万をナクに渡す。


「ふふっ、これで何か買う」

「いいな〜、ナクさんばっかり!」

「仕方ないな。お前にも分けてやるよ」


 慈悲の心で俺はアンリに300L分けてやる。


「子供の小遣いですか!遠足じゃないんですよ!」

「ばーか、生活必需品も、娯楽品も俺に強請ねだってんだろ」


 それなのに金が欲しいだって?笑止!

 俺がそう言うとアンリは「バカー!」と捨て台詞を残して部屋を出て行ってしまった。

 まったく困ったやつだ。

 ちなみにその10分後にアンリが帰ってきたのだが、扉に鍵をかけてやると泣いて謝っていたが、それから3分は放置してやった。

 部屋に入ってきたアンリの顔は涙と鼻水でぐっちゃぐちゃになっており、正直やりすぎたと反省した。

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