第32話

 俺たちが試し打ちを終えて街に戻る頃には周囲は夜の帳に包まれており、街のあちこちでガヤガヤと楽しそうな声が聞こえてきていた。

 するとアンリの方からぐー、と間抜けな音が聞こえてくる。

 そちらを見ればアンリが恥ずかしそうに腹を抑えていた。

 するとアンリの反対、ナクの方向からもぐるるる、と聞こえてくる。


「お腹すきました…」

「うん、ごはん食べたい」

「そうだな…それじゃ、せっかくの海だ。アレやるか」


 俺の言葉にアンリとナクは首をかしげていたが大人しく後ろをついてきていた。


  ☆


 ザーッと流れる波の音が耳に心地良い。


「あの、シュウ君」


 時折吹く潮風も涼しい。


「聞いてますか?」

「ん?ああ、聞いてるぞ」


 アンリが俺の顔を覗き込んでいた。その姿は普段のローブ姿ではなく、スカイブルーのワンピースを着ていた。


「なにするの?」


 声の方向を向くとナクが上目遣いでこちらを見ていた。ナクも普段の銀のローブではなく、黒のスカートに白のブラウス。スカートから覗く白く細い太腿にブラウスによって強調された2つの果実がぷるんと大きく揺れた。

 なぜ俺たちが海辺に来ていたのかというと__


「お前たち、海と言えば…なんだ?」

「魚です!」

「んと…岩場で青姦?」


 アンリとナクがそう答える。アンリの答えはまあ、わかる。だが、ナク。お前の答えは絶対違う。どうしてこいつはこんなに脳内ピンクなんだ…

 俺は気を取り直すように2、3度咳払いをする。


「海と言えばバーベキューだろう!そしてここには未だにゴールドポークが大量に残っている!…後はわかるな?」


 俺がアイテムボックスから取り出した黄金に輝く肉塊を見てアンリとナクはゴクリと唾を飲む。

 そこで俺は拳を天に掲げ叫ぶ。


「肉が食いたいかぁあああ!」

「「おー!」」

「バーベキューがしたいかぁあああ!」

「「おー!」」

「そんじゃやるぞぉおお!」

「「よっしゃー!」」


 と、思ったが正直3人でこの量は足りるのか不安になった為じゃんけんで追加の肉や魚を買ってくる役割を決めることにした。


「ふふっ、負けませんよ!」

「それはこっちのセリフ。私が勝つ」

「はっはっは!俺がお前らどっちかが必死こいて買ってきた肉を貪り食ってやるよ!」


 こうしてパシリをかけた勝負が幕をあけるのであった!


  ☆


「うーあー!ちくしょー!負けました!」


 街の中をスカイブルーのワンピースを着た少女__アンリが悔しそうに歩いていた。

 結局、シュウとナクにストレートで負けたアンリが買い物に行くことになったのであった。


「まったく!こんな時間に女の子を1人で買い物に行かせるなんてシュウ君はなにを考えてるんでしょう!」


 ぷりぷりと怒りながらアンリが道路を進んで行くとその背後に巨大な影が。


「え?」


 違和感を感じアンリが背後を振り返った時にはもう遅く、振り下ろされた棍棒によって意識を刈り取られてしまった。

 ドサリと倒れたアンリの向こう、そこには片耳を失った男が立っていた。


「ひ、ヒヒヒ。ツいてるぜぇ…この女、ナクと一緒にいたやつだな。この女を上手く使えば…」


 男はそう呟きながらアンリを担ぐと街の闇に消えて行くのであった。

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