第31話

 その後、飯屋を出た俺たちは近くにある林に来ていた。

 その理由は簡単。ナクのスキルの試し打ちである。


「おっ、早速お出ましだな」


 俺の視線の先には一体の巨大なナメクジのようなモブがウネウネとうごめいていた。ぶっちゃけ気持ち悪い。

 鑑定を使用してみると、ナメクジの名前はユルケルとのことだった。ゆるキャラ感満載の名前だが、見た目は明らかにSFホラー系の怪物だ。子供が見たらギャン泣きだろう。

 そんな巨大ナメクジを見てもナクは一切動じずに杖を構えていた。なんとも頼もしい限りだ。


「ごめん、シュウ。あれキモい、無理」


 前言撤回。役に立たねえ。

 俺は仕方なくウネウネとうごめいていた巨大ナメクジを風の刃で切り刻んで始末すした。


  ☆


 しばらくの間歩き続けていると今度は砂でできた巨大な山のようなモブが現れた。

 鑑定を使用してみればサンドゴーレムという名前のようだ。

 サンドゴーレムはザラザラと自身の身体を崩れさせながら移動をしている。

 俺はナクの肩をトントン、と軽く突く。するとナクは顔を赤らめてこう言う。


「肩じゃなくてもっと下でもいいよ?」

「おおそうか…って違えよ!ほら、あいつにお前のスキル使え。その間に倒すから」

「わかった。【空縫そらぬい】」


 ナクがそう発音するとサンドゴーレムの動きがぴたりと静止する。先程まで流れ落ちていたその砂すらも動きを止めている。

 俺はその隙に全力でサンドゴーレムに近づくと両手に出現させた二刀の鉄剣で斬りつけると「ガガンッ」と硬質な音と共に硬いものにぶつけたような感触が手に伝わる。サンドって名前のわりに意外と固いな。

 俺は斬りつけたサンドゴーレムを見るが、一切ダメージを受けていないように見受けられた。

 あまりの出来事に驚きを隠せずにいると、サンドゴーレムが動き出し俺に気づいたのか砂でできた拳を打ち付けて来た。


「ぶわっ!」


 慌てて鉄剣でガードするがぶつかった衝撃でサンドゴーレムの拳から砂つぶが飛び散り、大量の砂つぶが俺の目に入る。

 目を開けていられなくなった俺は風魔法【ウインドサージ】を発動すると周囲に風の波を生み出し、自身を守る盾とする。

 俺はアイテムボックスから水の入った容器を取り出すと、中身を目にかける。

 するとみるみる俺の視界は元に戻る。現実では起こりえない、まさにゲームだからこそ成り立つ現象である。

 良好になった視界でサンドゴーレムを見つけるとサンドゴーレムに風の刃を幾つも放つ。

 すると先程までの硬さが嘘のように、スパスパとサンドゴーレムの身体が切れていく。

 やがてサンドゴレームは断末魔の悲鳴をあげながら崩れていき、そのまま消えていってしまった。

 戦利品を確認しながら俺はひとつの疑問をナクに投げかけた。


「なあ、ナク。お前の固定魔術って…」

「ん、御察しの通り。完全に固定するから動かないかわりにどんなダメージも受け付けない」


 ドヤ顔でそう言うナク目掛けて足元の砂を拾って投げつける。


「やめて、シュウ。見えないし、口に砂が入った。ぺっぺっ」


 砂を吐き出しているナクを見ながら俺は考えた。どうやったら上手く使いこなせるか。

 ああ、いい方法があるじゃないか。


「ナク、アンリの足だけを固定するイメージでスキルを使え」

「えっ、ちょ、シュウ君!?」

「わかった、【空縫】」

「アンリ、歩いてみ」


 俺がそう言うとアンリは足を動かそうとして首をかしげる。

 そして、また足を動かそうとした瞬間、不意に動くようになったせいで前につんのめり、顔から砂にダイヴする。


「成功だな」

「こんな使い方があったとは…」

「ねえ!酷くないですか!?」


 俺とナクが新たな可能性に心を躍らせているとアンリがフシャー!と怒っていたので、アイテムボックスから一口サイズのチョコレートを取り出してアンリの口にねじ込むと大人しくなった。いや〜、ちょろくて助かるわ。

 その後、俺たちはパターンを変えてモンスターを倒し続けて、最終的に俺たちのレベルは2ずつ上昇し、そこで一度狩りを中断することにしたのであった。


   ☆


 1人の青年が青を基調とした部屋の中で椅子に腰掛けて本を読んでいた。

 歳は20歳くらいだろうか。2界層は真夏のような暑さだというのに、銀色のコートを着ていた。

 しかし、青年はまったく暑そうな様子は見せない。

 すると、不意にその部屋の扉をノックするものがいた。


「入れ」


 青年がそう発すると、明らかに青年よりも年上であろう戦士の姿をした男が3人。何かに怯えながら入室してくる。

 青年は本を閉じると椅子から立ち上がり男たちの前に歩を進める。

 青年と男たちが向かい合うと、男たちは自分たちよりも頭一つ分低い背丈の青年の前でおもむろにひざまづいた。


「で、あいつは?見当たらないみたいだけど?」

「は、はい。見つけることには見つけたのですが…」


 先頭のリーダーらしき男が言葉を探すように、そう言うと青年は「なるほどなるほど」と笑顔で頷く。

 青年は身をかがめ、男に顔を上げるように促す。

 男が恐る恐る顔を上げると、青年は男の耳を引っ張る。


「ねえ、僕はさ。あいつを連れてこいって命じたよね?なんで果たせないわけ?聞こえなかった?」

「いえっ…!そういうわけでは…!」

「聞こえないんだったらこんな耳要らないよね?」


 青年はそう言うと懐から取り出した半透明のナイフで男の左耳を切り取った。

 男のくぐもった呻き声が漏れ、青のカーペットを男の鮮血で汚す。

 青年はニコニコと笑いながら切り取った耳をくわえる。


「次失敗したら君たちの顔が平らになると思ってね」


 青年はそう言うと、咥えていた耳を噛み潰す。

 すると耳は完全に光の粒子に変わってしまう。

 男たちは怯えたように部屋から飛び出していく。

 青年は遠ざかっていく足音を聴きながら椅子に腰掛けると本を手に取り1人呟く。


「僕から逃げようなんて考えるなよ、ナク」

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