第30話

「友達になったからパーティー組も?」


 騒ぐアンリを引きずって3人で宿屋の近くにある飯屋で少し遅めの昼食を取っているとナクが唐突にそう言いだした。

 パーティーか…まあ、いいか。


「ああ、良いぞ。ただその前にナクはどんなことができるのか教えて欲しい」

「わかった。じゃあこれ」


 そう言うとナクは自身のステータスが映った半透明のエアディスプレイを見せてくる。


◇◇◇◇◇◇

名前:ナク

性別:女

レベル:16

職業:メインジョブ【ウィザードLv.12】

  サブジョブ 【薬師Lv.18】


HP:1190

MP:3500(+100)

STR:28(+8)

DEF:43(+20)

INT:540(+120)

MEN:380

VIT:55

SPD:120


〈技能〉

固有技能:【固定魔術Lv.8】


付属技能:【地形ダメージ軽減】


通常技能:【水魔法Lv.10】【風魔法Lv.5】【光魔法Lv.8】【魔術の心得Lv.12】【暗視】【鑑定Lv.20】【調薬Lv.22】【付与術Lv.23】【魔力回復速度上昇[小]】【空きスロット1】


〈装備〉

武器 :銀の杖

頭  :シルバーハット

防具 :ウィザードローブ(銀)

   :ウィザードスカート(銀)

靴  :小鬼の靴

装飾品:魔法使いの指輪

   :銀のイヤリング


〈装備効果〉

 光魔法威力上昇[微小]


【所持金:300L】


◇◇◇◇◇◇


 うーむ、なるほど装備が貧相だな。それにしても金がなさすぎじゃないか?300Lって小学生のおやつじゃあるまいし。

 所持金について聞くと言い争っていた男たちからもっともらえるはずだった、とのことだった。


「なあ、ナクの固有スキルってどんな効果があるんだ?」

「んと、物を止められる。例えば…このカップを…」


 そう言うとナクは食後のコーヒーが入ったカップを持ち上げるとパッと手を離す。

 もちろんコーヒーカップは重量に従って地面に落ちて粉々になる…なんてことはなくナクの手元でその動きを停止していた。


「これが私のスキル。効果時間は15秒くらい」


 ナクがそう言うとコーヒーカップが動き出す。

 ナクは難なくそのコーヒーカップを受け止めると中身を一口飲んでコースターの上に置く。

 なるほど、戦闘中に相手の動きを15秒止められるってのは中々に有効じゃないか。

 俺が予想以上に役立ちそうな仲間が増えたことに内心喜んでいると店の扉が乱暴に開かれる。

 何事かとそちらを見てみれば自滅した戦士とその仲間だった。

 男達は店内を見渡すと俺たちの席に近づいてくる。面倒だな…

 男達は俺たちの席の横に立つとバンッとテーブルを叩く。


「おい、ナク。何逃げてんだああん?」

「今謝って戻るなら許してやるぜ」


 男達が好き放題言っているがナクは一切聞く耳を持たずコーヒーを飲んでいた。

 そんなナクの態度が頭に来たのかリーダーっぽい男が「テメェ!」と叫びながらナクを殴ろうとしたので横から男の腕を掴んで止める。


「俺の友達がなにか?」

「テメ…っ!おい!お前ら帰るぞ!」


 男はそう叫ぶとドスドスと床を踏み鳴らしながら店から出て行く。

 店を出る際に「覚えてろよ」と言っていたが所詮あの程度のフェイントで沈むようでは高が知れている。


「シュウ、ありがとう」

「ん?ああ、なんてことないぞ」


 ナクが礼を言ってきたので俺がそう返すと、何故か顔を赤くしたナクがモジモジしながらこう言う。

 

「私、お礼にあげられるもの無いから。私の身体で…」

「ストォォップ!ちょっとナクさん何言ってるんですか!」

「何って、お礼の話?」

「だからって身体でなんて!ふ、不純ですよ!」

「人を縛って襲っておいてよく言えるな。」


 俺がそうツッコミを入れると「ピューピュー」と口笛を鳴らして誤魔化すアンリ。妙に上手いんだが。

 妙に上手なアンリの口笛を聴きながら俺は食後の紅茶を一口飲んで窓の外を眺めると、心地良い潮風が店内を通り過ぎ、なんとなく心が穏やかになった。

 店内ではショックで固まっているナクともはや誤魔化すことを忘れて口笛による演奏に夢中になっているアンリ、その2人に挟まれるような形で席に座って窓の外を眺めながら穏やかな表情で紅茶を飲む俺、と中々にカオスと化していたのだった。

 何だこれ…。

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