第29話

 魔法使いに連れられて町の中心であるモノリスからかなり離れた所にある路地裏に俺たちは居た。


「多分大丈夫。巻けたはず」

「そうか、助かった」


 俺がそう言うと魔法使いは首を横に振る。


「お礼を言うのは私、ありがとう。えっと…」

「ああ、俺はシュウだ」

「私はアンリですよー」

「ん、ありがとう。シュウ、アンリ」

「気にすんな。で、あんたの名前は?」

「私は、ナク。よろしく」


 そう言うとナクと名乗った少女はぺこりと頭を下げると俺の目をじーっと見てくる。…なんだろう、捨て犬に見られているような気分だ。

 しかし仲間が増えるとアンリとのお楽しみタイムが取れなくなってしまうため話を切り出される前に逃げることにしよう。

 アンリの方を見れば察したようでコクンと頷いていた。


「さてと、そろそろ行くとするか」

「そうですね。それじゃ、ナクさんありがとうございました」


 俺たちがそう言って立ち去ろうとすると__


 ガッ


「ん?ナクさんや、なぜ俺の服を掴んでいるのかね?」

「私はさっきパーティーを解散した。戻るつもりもない」

「おお、そうか。それじゃあ頑張れよ」


 そう言って歩き出そうとするがナクは服から手を離そうとしない。

 それどころか引っ張る力がどんどん強くなっているような気がする。


「いやいや!離せって!ほら!いい人が見つかるって!」

「私の事嫌い…?」


 そう言って見るからにシュンと落ち込んでしまうナク。

 確かにナクは可愛い。身長は俺より少し低いくらいで艶やかな黒髪はショートボブに切り揃えられている。なによりアンリにはない素敵な丘がある。

 ぶっちゃけ好きか嫌いかで言えば好きだと言える。でもなあ…


「なあ、ナク。友達くらいいるだろ?そいつらを頼るってのも1つの手だと思うぞ」

「友達?いないよ?」


 ナクは不思議そうな顔をする。なるほど、ぼっちか…

 同じぼっちであるアンリの顔を見ると泣いていた。

 アンリは泣きながら俺の服を掴む。


「シュウ君!友達になってあげましょう!可哀想です!」

「うーん、でもな…」


 ちらりとナクを見れば不安そうに胸の前で手を組んでこちらを見ていた。


「シュウぐぅうううん!」

「わかった!わかったから!鼻水出てんぞ!」


 抱きつこうとしてくるアンリの頭を全力で押し返しながら俺がそう答えるとナクの目がパッと輝く。


「いいの?」

「ああ、こいつが友達になりたいらしいからな」

「そう、じゃあシュウとも友達」


 いや、それは違うだろう。しかし、嬉しそうに「えへへ」と笑うナクを見ると否定する気も失せてしまう。

 別に損をするわけじゃないんだしいいか。


「シュウ君!」

「うおっ!」


 アンリは腰を落とすと俺の腰に抱きつく。うわ…湿った感触が…

 慌ててアンリを引き剥がすが時すでに遅く俺の上着にはべっとりとネバネバの液体が付着していた。

 そんな俺たちの様子を見てなにを考えたのかナクも俺の腕に抱きついてくる。

 …天国はここにあったらしい。


「なあ、ナクさんや。なにをやっておるのかね」

「友達は、こうする?」


 そう言ってさらに俺の腕にナクが抱きつくとその豊かな双丘がふにゅんふにゅんと形を変える。

 その様子を見たアンリがムッとした表情で俺の腕に胸を押し当てる。

 …なんなんだこれは。


「ナクさん。離れてください、シュウ君は私のものです」

「嫌、アンリが離れるべき」

「お前ら…いい加減にしろ!」


 俺はそう言うと風魔法【風纏い[ほう]】を発動すると2人が吹き飛ばされて尻餅をつく。まったく…


「う〜、痛いです…」

「痛い…シュウ、酷い」

「やかましいわ!…はあ、頼むから喧嘩しないでくれ」


 俺がため息を吐くとアンリとナクは向かい合って握手をする。

 するとアンリが握手をしながらドヤ顔でこう言った。


「私がシュウ君のナンバーワンなのでナクさんはナンバーツーですからね!」

「でも直ぐに私のボディでシュウはメロメロ。さっきも獣のような目で見てた」

「むっ!シュウ君!どういうことですか!やっぱりおっぱいですか!おっぱいなんですか!?」


 ギャーギャーと騒ぐアンリを見て俺は今日何度目かわからないため息を吐くと空を仰いで思う。

 どうしてこうなった、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る