第8話

「きゃあっ!」

「たく、手間取らせやがって」

「ケホッ…ケホッ…」


 薄暗い建物の中。私、アンリは壁に叩きつけられてむせていた。

 目の前には3人の男性プレイヤーが私を囲むように立っていた。

 どうしてこうなってしまったんだろう…私はつい数分前に起こったことを思い出していた__


 私は試合に負けたあと悔しさのあまり逃げてしまったのだった。後ろでシュウ君が何か言ってたけど聞こえなかった。いや、もしかしたら聞こうともしてなかったのかもしれない。

 そうやってしばらく走っていると唐突に近くの建物の扉が開いて中から出てきた男性プレイヤーに捕まってしまいました。私も必死に抵抗しましたが流石に純粋な後衛職である私のSTRでは到底叶わずこうして建物の中へと連れ込まれたのでした。

 それにしてもこの男性達はなんなのでしょう、なぜこんなことをするのでしょうか?

 私が疑問に思っていると少し…いや、かなり頭頂部が砂漠化しているおじさんが私にニヤニヤと笑いながら話しかけてきます。


「悪いねえ、お嬢ちゃん。ちょっとおじさん達と遊んで欲しいんだよ」

「遊び…ですか?」


 いけない、この流れはいけない流れです。この間ネットで見たえろどうじん?とかいう漫画と同じ流れです。このままだと私はこのおじさん達に…そんなのは嫌!

 私は慌てて逃げようとしますが今度は目の前に太った男の人が立ち塞がって言います。


「どこに行くのかなあ?鬼ごっこもいいけどそんな暇はないんだよねえ…!」


 反対側を向くとそこには私を壁に叩きつけた若い男性プレイヤーがいました。


「悪いな、彼女に頼まれてさ。やりたくないけどヤるしかないんだわ」

「どうして、こんなことするんですか…天野あまの君…!」

「おいおい、リアルネームを呼ぶのはマナー違反だぜ?笹倉ァ」


 そう言って彼、天野…いや、プレイヤーネーム【ソウ】はげらげらと笑う。

 彼の彼女ということはあいつもこのゲームをしているのか…!

 私の頭には私をいじめ、見下し、嘲笑った、憎い、憎い、殺したいほど憎い相手が浮かんでいました。

 そんな私を見てソウは楽しそうに言います。


「ははは、いい表情カオじゃないか!お前が学校に来なくなって寂しかったぜ笹く…いや、アンリィ!」

「ぐっ!ゲホッ、ゴホッ!」

「この程度でへばってんじゃねえよ!」


 そう言って笑いながらソウは私を殴り、そして蹴る。あまりの痛みや苦しさで私はリアルを思い出してしまいました。あの苦しくて、辛いだけの世界。そこで私は耐えることしかできなかった、だから今日も耐えてれば終わる。そう考え私は耐えることにしたのです。

 しばらくの間耐えていると突然暴力が止む。助かった、私はそう思いました。


「そろそろいいだろ、おい!おっさん達!わかってんな?俺らのリアル情報を流したら…」

「わかってるよ、それより早くヤらせろよ!」

「数ヶ月溜まってんだよ!」

「焦んなよ、ほら好きにしな」


 ソウが言うや否やおじさん達の手が私の装備にかかる。

 嫌だ、気持ち悪い!

 そう思うも私の体は痛みに悲鳴をあげて全く動きません。

 初めてなのに…ああ、こんなことならシュウ君と…

 私はふとこの世界で出会ったリアルも含めて初めての友達、そして気になっていた人のことを思い出しました。

 おかしな話です、こんな時になって初めて自分の気持ちに気付けたのですから、私はおそらく彼のことが好きなのでしょう。…でも、もう彼とは会えません。今日ここで汚されてしまうのですから。

 私が覚悟を決めたその時でした。


 ガシャーン!


 そんな何かが壊れる音と共に部屋の中に月光が入ってきます。

 そしてその月光を背に1人の男性の姿が浮かび上がります。

 その人物は急いで走ってきてくれたおかげなのか、肩で息をしていました。

 彼は、息を整えると剣先をこちらに向けて不快そうな表情でこう言いました。


「よくもまあ俺の友達にふざけた真似をしてくれたな。覚悟は当然出来てるよな?」


 そう彼こそ私のはじめての友達で、私がきっと好きになった人、シュウ君です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る