第7話

 試合はその後なんの問題もなく進みついにアンリの出番となった。

 俺が声をかけようとするとその前にアンリは立ち上がってくるりとこちらを向くとにこりと笑ってこう言った。


「それじゃあ行ってきますね!」

「おう、頑張ってこい」


 そんなアンリに対して俺が笑って返事をすると周りから殺気が飛んでくる。俺がなにをしたというのだ。ムカついたので『パラライズボム』をアイテムボックスから取り出すと、殺気が霧散する。やれやれだぜ。

 そうこうしている内に相手選手もステージに上がってくる。

 アンリの相手はなんというか一言で表すならば『ちょい悪なお兄さん』という言葉がしっくりくる見た目の男だった。ちなみにイケメンだ。プレイヤーネームは『キョウジ』

 キョウジは笑いながらアンリに向かって言う。


「悪いな嬢ちゃん。勝たせてもらうぜ?」

「悪いと思ってるならやめてくださいよ!」


 場の空気が凍った。はい、会場の皆さんごめんなさい。あの子バカなんです。

 「言ってやったぜ」と言わんばかりのドヤ顔をこちらに向けてサムズアップをしてくる。恥ずかしいからこっち向かないで、いや本当に。

 俺がアンリと目を合わせないようにしているとキョウジは大爆笑しながら言う。


「おいおい、彼氏さんよ。そんな風に顔背けたりしちゃダメだぜ?」


 おっと、簡単に恋愛に結びつけちゃう恋愛脳か?

 俺が呆れているとステージ上に上がり審判が開始の合図をする。


「【プロージョン】」


 ドォン!と爆炎がステージ上を満たす。1回戦と同様に開始直後に【プロージョン】を撃ち込んだのだった。

 試合が決まったと会場中にいるプレイヤーが思った、次の瞬間爆炎を貫いて闇の槍が飛び出してくる。


「いや〜、危ねえ危ねえ。中々やるな嬢ちゃん」

「なっ…!」


 アンリは飛び出した闇の槍を横に転がって避ける。

 おいおい、嘘だろ。【プロージョン】を受けて平気で立ってるなんて…化物かよ。

 慌てたようにアンリが距離を取るが、キョウジはその場から動かない。


「おいおい、どうした?攻撃してきていいんだぜ?」

「くっ…!」


 キョウジは笑いながら挑発するがアンリは動けない、なぜなら一定時間魔法が使えないからである。おそらく杖で殴りかかってもダメージは期待できないであろう。

 いつまでも来ないアンリに痺れを切らしたのかキョウジは手に三叉さんさの闇の槍を作り出す。


「行くぜ【トライデント・シャドウ】」

「あうっ!」


 キョウジの手から放たれた槍をアンリは杖で防ごうとしたが、杖に当たった途端に槍の穂先が伸びてアンリのライフを削る。

 さらにキョウジは手に黒いつぶてを幾つも作り出す。


「【シャドウバレット】」


 そう唱えると手の上の礫が途轍とてつもない速度でアンリに向かって飛んでいく。

 もうダメだと思ったその時、


「【抗闇結界レジスト・ダーク】…!」

「へえ…やるじゃねえか」


 闇色の結界が礫を吸収してアンリを守る。

 キョウジはそんなアンリを見て楽しそうに笑う。


「さて、終わりにしようか。喰らい付くせ【枝葉闇針しようあんしん】」


 そう呟いてキョウジは右足の爪先で地面を2回叩く。

 次の瞬間、アンリの足元が盛り上がり気付くのに遅れたアンリはそこから盛り上がってきた闇色の木に絡めとられる。


「ああああっ!」


 闇色の木はアンリを絡め取ると徐々にその枝から闇の針を伸ばしアンリの体を刺していく。まるで巨大な生物が食事をしていくように、そうしてアンリのライフが半分になり試合が終了した。

 試合終了の合図がなった途端に闇の木はぐずりと崩れて消える、それと同時にアンリの拘束が解け地面に落ちる。


「アンリ!!」


 名前を呼びながら駆け寄ると軽く意識を失っているようだった。


「おい!アンリ!しっかりしろ!おい!」

「…ん…?んぁ?」


 しばらく声をかけているとアンリが目を覚ます。


「…シュウくん?」

「そうだシュウ君だ。大丈夫か?」

「〜〜〜〜ッ!!」

「あ、おい!待てよ!」


 アンリは帽子を目深にかぶって走って行ってしまったので、俺はその後を追いかけた。後ろで審判が何か言っていたようだが無視してアンリを追いかける。

 しばらく走るがアンリの姿を見失ってしまった。

 30分ほど走り回って探したが一向に見つからない。


「くそっ…どこに行ったんだあいつは…!」


 あんな状態で放っておくのは危険だろう。そう考えて走り出そうとした時フレンドコールが鳴り響いた。相手はアンリである。


「おい!今どこだ!大丈夫か!」

「助け、て!『おいてめえなにしてやがる!』」


 アンリが助けを求める声と知らない男の声が聞こえてフレンドコールは切れてしまう。再度かけても出る気配がない。

 俺は焦る気持ちを抑えてフレンド検索機能を使用する。

 すると近くの建物の中から反応があったためそこに向けて全力でダッシュする。

 待ってろよアンリ、すぐ行くからな!

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