第9話

 カッコつけてみたもののどうしたものか。

 俺は室内を見回しながらそう考える。

 室内にはおっさん2人と少し離れた机の上に高身長の微イケメンが腰かけていてアンリは2人なおっさんに服を脱がされかけていた。間違いなく事案である、あ、でもアンリは18だから本人がOKならいいのか?まあ、そんなことはどうでもいい、みんなこっち見てるし。

 早くも立ち直ったのか微イケメンが俺に向かって笑いながら近づいてくる。


「悪いけどさ〜、あんたあっち行ってくれない?俺とこいつはリアルで友達なんだよ。リアルのことに踏み込むのはマナー違反だろ?」

「へえ、それじゃあ、あのおっさん達は?」

「あれも友達だよ。ほら帰れよ」


 絶対嘘だろ、アンリめっちゃ首振ってるし。

 いつまでも動かない俺にイラついたのか微イケメンは俺の胸倉を掴んで低い声で言う。


「いいから失せろよ。今すぐ消えれば命くらいは助けてやる」


 はあ…正直面倒くさいやつだな。

 さっさと帰りたいが流石にアンリをあのまま放置しているとマズイだろう。同人誌みたいになってしまう。

 なので俺はいくつか質問することにする。


「いくつか質問していいか?」

「ああ、いいぜ」


 そう言って目の前の微イケメンは笑う。


「アンリはなんであんなにボロボロなんだ?」

「ああ、あいつはリアルでもドジでな、転んだんだよ」

「ここでなにしてるんだ?」

「転んだあいつの治療だよ」

「おっさん達に装備剥かれそうになってるけど?」

「治療のためだよ」


 なるほど…胡散臭い。

 間違いなくこいつらは黒だろう、その証拠にアンリは涙目になっているし、目の前の男とおっさんはニヤニヤと笑っている。


「それじゃあ最後に、お前の名前は?」

「俺の名前は『ソウ』よろしくな。でもどうしてそんなこと聞くんだ?」


 不思議そうに聞いてくるソウに俺は満面の笑みで答える。


「ほら、墓場を作るときに墓標に刻む名前がないとダメだろ?」

「なに__」


 ソウは最後まで言葉を言い切ることができなかった。なぜならソウが言葉を言い切る前にその首を落としたからだ。

 そんな俺の手には薄緑色のオーラがまるで俺の手を包むかのようについていた。

 これは通常技能ノーマルスキルの【風まとい[じん]】といって自分の手に風の刃を纏わせることのできるスキルである。しかしこのスキルを使用している間は常時MPを使用するため、あまり乱用はできない。

 しばらくの間首の切断面から血液を流していたソウだった体は光の粒子となって消える。

 人を一人殺した。だが、俺の感情に揺らぎは無い。未だにこれがゲームであると思っているのか。それとも、自分でも気付かないくらい怒っているのか。まあ、そんなのはどうでもいい。

 そんな俺の様子を見て初めて己の危機に気がついたのかおっさん達が即座に土下座する。


「「すいませんでした!」」

「だとしても当然罰くらいは受けてもらうぞ」

「いやほんと勘弁してください…!」

「勘弁もクソもあるかい!俺の身内に手ェ出したオトシマエはキチンとつけてもらうで」

「シュウ君キャラがブレてますよ!」


 む、いかんいかん。まさかアンリにツッコミを入れられる日が来るとは…

 いつの間にか隣に来ていたアンリにツッコミを入れられ俺は正気に戻る。

 そして目の前のおっさん達を見て言う。


「わかったから取り敢えず衛兵の詰所まで同行してもらうぞ、話はそれからだ」


 俺がそう言うと、ハゲたおっさんがついに耐えられなくなったのか、突然立ち上がると腰に帯びていた剣を抜いて俺に切り掛かってくる。

 その攻撃を体を反らしてかわすとアンリの首根っこを掴んで風魔法を足元に放ち後ろに飛び距離をとる。

 アンリが目を白黒させているが関係ない。

 目を白黒させているアンリを建物の扉から放り出すと、おっさん達に向き直る。見るとデブのおっさんも戦闘体制に入ったのかアイテムボックスから取り出したのであろう斧を構えていた。


「おい小僧降参するなら今のうちだぞ!」

「女の方を置いて逃げれば命だけは助けてやるよ」


 2対1ということにおっさん達は余裕を取り戻したのかニヤニヤと笑いながら俺にそう言った。

 そんなおっさん達に俺は不敵に笑いながら言う。


「急に強気だな。大人しく着いてくれば良かったのにな」

「粋がっていられるのも今だけだぜぇ!」


 そう叫びながら斧持ちのデブが突進してくるのでその足元に小さな出っ張りを作り転ばせる。

 するとその出っ張りに足を取られデブが転んだのでそのままその首めがけて風の刃を飛ばしその首を切り飛ばす。

 頭部を失った体が勢いそのまま俺の横にあった木箱に突っ込む。

 その体に一瞥もくれることなく俺はハゲに向かって駆ける。

 俺は先程の戦いでボロボロになったショートソードをハゲの胸めがけて突き出す。そしてハゲの胸に刃が突き刺さった。

 クリティカルヒット、この一撃でハゲは死ぬはずだった。しかし__


「ゴフッ、な、なんでだ…!」

「くくく、あっははははは!」


 なぜか俺の胸に走る痛み、胸を見るとそこにはハゲの持っていたククリナイフと呼ばれる武器が刺さっていた。ライフは一気に7割を削られ俺の耳には不快なアラート音が鳴り響いている。

 ずるりと俺が地に倒れ伏すと笑っていたハゲが笑うのをやめ言う。


「これが俺の固有技能【攻撃吸収】だ!最強だろ?」

「攻撃…吸収だ、と…!」


 そう言ってハゲは自慢げに笑う。

 くそっ…油断した!こんな攻撃があるなんて…!

 俺が自分の迂闊うかつさを恨んでいると不意に俺の右腋みぎわきに衝撃と共に鈍い痛みが走る。


「がっ…!」

「おいおい、俺に落とし前を付けさせるんじゃなかったのかよ、ああん!?」


 くそっ、これはマジでやばい!

 俺のライフは目に見えて減っておりついに残り2割を切ってしまう。

 そんな俺を見てハゲは笑って言う。


「じゃあな、小僧。あのお嬢ちゃんは俺が美味しくいただいてやるよ。だから安心して死になっ!」


 俺は来る衝撃に備えてグッと目を閉じる。そして、次の瞬間ガツッ!という音がする。

 しかし、俺の体にはなんの衝撃もダメージも通らない。

 なぜなら俺を守るように半透明の膜が展開されていたのだった。


「そこまでですよ!私の大事な人に手出しはさせません!」

「アン…リ?」


 そう、この膜を作っているのはアンリなのだろう。


「ふざけんなクソメスがぁあああ!」


 ハゲはそんなアンリにイラついたのか叫びながらアンリに飛び掛る。

 アンリはそんなハゲに杖を向けて一言。


「【プロージョン】」


 閃光、爆炎。あまりの勢いに俺が飛ばされていると膜が消滅する。そして、俺は慌ててアイテムボックスから回復ポーションを取り出してがぶ飲みする。

 そして周囲を見渡して驚く。


「なんだこれ…」


 壁は崩れ去り、天井は吹き飛び、地面は大きく抉れ、内装は完全に崩壊していた。

 そして、その破壊痕が最も激しいところに1人の男が倒れていた。ハゲである。

 俺がハゲに近づくとハゲは誰に言っているのかわからない呟きを口にする。


「なん、で…だ…!吸収できない、はずない、のに…」

「その答えを教えてあげましょう」


 声の方向に目を向けるとそこには杖を支えにしたボロボロのアンリが歩いてきていた。

 しかしアンリがふらっと倒れそうになったのでとっさに走って支える。


「アンリ!大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫ですよ。シュウ君は優しいんですね」

「バカか、それで続きは?」

「簡単な話ですよ、攻撃吸収を倒すセオリーってやつです」


 アンリはドヤ顔でそう言う。

 セオリーって…なんだ?

 俺が口を開く前にハゲがアンリに問う。


「セオリーってなん、だ?」

「高火力です」

「「は?」」


 俺とハゲがハモる。

 何を言ってるんだこいつは。

 頭にハテナマークを浮かべていると、アンリはさらに続ける。


「要するに許容範囲外の高火力をぶち込んで強引にダメージを通したんです!」

「ああ、なるほど」


 思いつかなかったな、そんな作戦。まあ、思い付いたとしても俺の火力じゃ足りなかった気がする。


「す、すまなかった!許してくれ!もうスキルが使えないんだ!頼む、頼むから!」


 その話を聞いてハゲは怯えたように俺に謝りだした。

 そんなハゲに対して俺はニコリと笑って言う。


「死にたくないのか?」

「ああ!死にたくない!助けてくれ!」

「仕方ないなあ」

「じゃ、じゃあ!」

「そんな世の中甘いわけないだろ?」


 そう言ってハゲの心臓にショートソードを突き刺す。するとハゲのライフは完全に尽き、血液を撒き散らした後光の粒子になって消える。

 まったく、人を殺して犯そうとしといて自分が死にそうになったら助けを請うなんて都合が良すぎる。

 ハゲの言葉にイライラしていると不意にアンリから抱きつかれる。


「助けに来てくれてありがとう…!」


 どうしようかと内心焦っているとそんな風にアンリからお礼を言われる。

 こんな時どうしたらいいんだ!俺童貞だからわかんねえよ!

 とりあえず抱きしめ返すと、一瞬ビクッとされたが次第にアンリから力が抜けるのがわかった。やった!俺間違えてなかったよ!

 …しかしこれはいつまでやってればいいんだ?


「怖かったです」

「お、おお、そうか」


 俺がやめ時を見計らっているとアンリが胸の中でそう言う。

 それにしても『お、おお、そうか』って!もっとまともな返しはなかったのかよ!俺!

 そんな風に自分で自分にツッコミを入れているとアンリが顔を上げて俺の顔を見る。その目は潤んでいて、さらに泣いた後だからなのかなぜか色っぽい吐息にドキッとしてしまった。

 そしてアンリはニコリと笑ってこう言う。


「私、シュウ君のこと好きみたい」


 …ごめんなさい完全に戦闘準備オーケーです。俺の性…いや、聖剣が!

 そんな俺の様子に気づかずにアンリは立ち上がって言う。


「さあ、帰りましょう!いつまで座ってるんですか?ほら、立ってください!」

「あ!いや、ちょっと待って!立てないから!いや、立ってるといえば立ってるけども!」


 俺の聖剣が静まるのにたっぷり3分ほどかけて俺はようやく立ち上がることができたのだった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る