初心者の指導について

・指導するのは

名目上の師範やコーチはいたけど、道場に来ることはめったになかった。

多くの弓道部がそうなのかもしれないけど、上級生が下級生を指導する。

だから、初心者だったとしても、一年経って新入部員が入ってくる頃になると、自分も指導をしなきゃいけない。

だから一年生の冬頃になると、。なかなか大変。

でもこれ、意外と自分の勉強にもなるんよ。

人に教えるためには、自分がちゃんと理解して自分の言葉にする必要があるからね。


・初めての弓

弓道着や弓矢に憧れて入部したはいいけれど、すぐには着れないし触れない。

まずは、何も持たずに射法八節を身体に覚えさせる。(これを「徒手としゅ」と言う。)

徒手が終わったら、次はゴム弓。

ゴム弓で、ある程度使うべき筋肉を使えるようになったら、ようやく弓を触れる。でも、矢はつがえずに、弦を離しもしない。(これを「素引すびき」と言う。)

弓に慣れたら、ようやく巻藁まきわらの前に立って矢をつがえる。でも離しはしない。慣れないうちは勝手かっての指先に力が入って、矢がこぼれ落ちたりするからね。

全体的にもう大丈夫だろうと先輩が判断したら、ようやく矢を離せる。

でもね、最初は怖いよ。想像以上に衝撃があるし、顔のすぐ横を弦が通っていくし。慣れてきたと思ったら、耳をハジくしね。(※[弦について]を参照)


・初めての的前まとまえ

巻藁まきわらで安定して引けるようになると、先輩達が見守るなか、的に向かって引くことになる。路上教習みたいなものかな。そこで体配たいはいも本格的に習う。

もちろんここでいきなり中てられる人はまずいない。

ちゃんとあづちに向かって矢が飛べばよし。体配もそれなりに摺り足すりあしや基本の動きができていれば問題ない。

先輩達が多数決を取って、まあ大丈夫だろうと判断したら、ようやく的に向けて一人で引くことができる。

ここまで、だいたい2〜3ヶ月。なかなか焦らすねぇ。

この徒手としゅ→ゴム弓→素引すびき→巻藁まきわらって流れは、練習のウォーミングアップとして行うし、スランプのときなんかはゴム弓をひたすら使って正しい射型を身体に覚えさせたりもする。

調子の悪いときは初心に還れってことね。


・初めての的中

的前で引けるようになっても、なかなか中らなくてモヤモヤする。

さすがにこの時点で舌打ちとかするヤツはいないけど(いたら怒られる)、何日も引き続けて一本も中らないってことだって十分にある。

だからこそ、マグレでもなんでも、初めて的にあたったときの音は、たぶん一生忘れない。

かすかな音だけど、「ぱすっ」って自分が出した音。


意外とみんな見てるもんで、初めて中てたときはエヴァの最終回並みに「おめでとう」って祝福される。

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