午後1時37分 T-11 地下鉄構内

「ああ、そんな……僕のパッドが……。折角の苦労が……」

「す、すいません! 私が不注意だったばっかりに……!」

 激しい衝突を受けた車のフロントガラスのような罅の入ったパッドを抱きかかえながら悲しみに暮れるスーンの傍では、どう言葉を掛ければ良いか迷いながらも彼を宥めようと奮闘するトシヤの姿があった。

 その二人から少し離れた場所では、ヴェラとオリヴァーが呆れ半分・深刻さ半分と言った感情を、ヘルメットを脱いだ顔に半々ずつ刻み込んでいた。

「マップのダウンロードは水の泡。唯一東京の地図情報を持つパッドそのものが御釈迦となっちまったと来たもんだ。どうする、一旦仮説基地を作る予定だった場所まで引き返して、残っている物資をひっくり返してみるか? もしかしたらスーンが使っているのと同じタイプがあるかもしれないけど……」

「あの化物共がウジャウジャ居る中を再び戻るってかい? アタシは御免だね。命が幾つあっても足りやしないよ」

「だよなぁ。それこそ無謀を通り越した自殺行為だ」

 ヴェラの否定にオリヴァーが同意して頷く。だが、何もしないでこの場に居続ける方がもっと危ない。あの化物達に襲われ続けて持久戦へ持ち込まれれば、食料の面で不安を持つ彼等が窮地に追い込まれるのは目に見えている。

 何としてでも食料が残っている可能性のある場所の発見、そして化物が容易く入り込めない安全地帯の確保が彼等にとって急務であった。その為にもスーンの中に収めたデータは回収する必要がある。

「ヘイ、ミスター機械オタク」落ち込んだ空気を盛り上げようと、オリヴァーが気さくにスーンを綽名で呼んだ。「そのパッドは直せないのか?」

 オリヴァーの問い掛けにスーンは首を左右に力無く振った。

「無理だよ。無事な部品もあるけど、それでも大半の部品は交換が必要だ。特にパッドの液晶は致命的だ。これを取り換えない限り、パッドは死んだも同然だ。だけど、その材料や修理に使う機材は手元には無い……」

「マジかよ。くそ、どうすりゃ良い?」

 人間の作った乗り物関連を除く機械に詳しくないオリヴァーは肩を竦めた。また自分に出来る事は何一つないという思いに駆られ、如何にも歯痒そうに奥歯を噛み締めた。ヴェラも眉間に深い溝を浮かべ、腕組をしながら今後どうするべきか黙考している。

「あの……一つ良いでしょうか?」

 沈黙した空気を破ったトシヤに三人の視線が一斉に向けられる。

「どうしたんだい、トシ?」

「スーン君、キミのパッドのメモリーデータは無事ですか?」

「メモリーデータ? ああ、それなら奇跡的に無傷だったけど……」

「なら、データの中身をこれに移し変える事は出来るでしょうか?」

 そう言ってトシヤが腰の前部ポーチから取り出したのは、スーンが使っていた電子パッドを掌大にまで小型化したような機械だった。メモリー容量と情報処理能力ではスーンのものに劣るものの、それ以外では見劣りしない優秀な電子器具だ。

「大きさは違いますけど、メモリー自体は共有化されていた筈だから恐らくこっちでも使える筈―――」

「ちょっと貸して!」

 トシヤの説明を遮り、スーンが横合いから彼のパッドを奪い取る。そして壊れたパッドから無傷だったメモリカードを引き抜き、小型パッドに差し込んで操作を開始すると、落ち込んで沈んでいた雰囲気が徐々に上向いていく。

「いけます! いけますよ! これなら……よし!」

 操作が終わりパッドを皆の前に差し出すと、小さい画面の中には地下鉄の地図と、更にその下にある地下都市の大まかな見取り図が映し出されていた。それを見てスーン以外の三人も少し嬉しそうに口の端を釣り上げた。

「これなら問題は無さそうだね。トシ、少しの間だけスーンにパッドを貸してやっても良いかい?」

「ええ、構いませんよ。そもそも私のせいで大事な道具を壊してしまったのです。差し上げたいぐらいですよ」

「なら、決まりだね。……スーン、ゴングの頭部ヘルメットのシステムに地図を送信する事は出来るかい?」

「ええ、それなら出来ます。今皆さんにデータを送信しますね」

 それを聞いてからヴェラがヘルメットを被ると、直後に視界の右側にスーンがダウンロードした地図が出現した。自分達の現在の場所、地下都市へと通じる出入り口、そして地下都市のおおまかな地図、それらをスクロールさせながら目に焼き付ける。やがて地図を全部見終えると、彼女は顔を上げてこの場に居る三人に視線を巡らした。

「ここから出入り口までは、そう遠くはない。運が良ければ日が落ちる前に辿り着けそうね」

「今度こそ心休まる場所に辿り着けると良いな」

「僕は一刻も早く此処から逃げ出したいよ」

「泣き言を言うんじゃないわよ。ほら、行くよ」

 オリヴァーの気休めな期待とスーンの軟弱な本音を一蹴し、ヴェラは顎先で進路を示すと、率先して先頭に立って歩き出した。その後ろを男三人が付いていく形で続き、鼓膜が寂しくなるほどの静寂を取り戻した地下鉄構内に硬質的な四人の足音が響き渡った。


 地下鉄へ通じる出入り口がある場所は、地下鉄の電車を収納したり整備する車両基地と呼ばれる場所の最奥にある事が判明した。普通の通路を辿っていくよりも線路を通った方が遥かに早く、四人は電気も通っていない真っ暗な地下鉄のトンネルの中を一塊になって進んでいった。

 道中の途中では壊れた電車が立ち往生していたり、崩落して出来た瓦礫の山が道を塞ぎ、ちゃんとした通れる道を見付け出すだけでも一苦労だった。また地下鉄の路線でも化物と何匹か遭遇し、逐一に仕留めては前進するという行為を四回ほど繰り返した。

 そうする内に何時しか心身共に慣れを覚え、化物と出会わない間はトークを交わせるほどの余裕が生まれていた。そして今、四人の間で交わされる話の種は新たに仲間に加わったトシヤの事に付いてであった。

「そういえばトシもよく俺達を見付けられたもんだな。この東京の都心、それもユグドラシルの樹木が森の様に生茂ってる中でよ」

「偶々、運が良かっただけですよ。逸れた仲間を探して街に入ったら、地下鉄の入り口に皆さんが乗っていた車を発見しましたので、これはもしやと思いまして……」

「アンタのチームはどうしたんだい? 一緒じゃなかったのかい?」

「分かりません。途中までは一緒だったのですが、化物達の追撃から逃れる最中に離れ離れになってしまいました。通信しようにも、ユグドラシルの木々に囲まれた中では遠距離通信は不可能です。せめて電波塔が一ヵ所だけでも生きていたら良かったのですが……」

 暗雲のような先の見えない不安がトシヤの言葉を曇らせ、台詞の最後の方は完全に尻すぼみになっており、ヘルメットのマイクがなければ聞き逃していたところだ。

 しかし、それらはトシヤの内心を明確に反映している事を意味する。が、誰もその点に気付かぬ振りをして前へ進むことのみに専念した。もし此処で指摘してしまえば、自分達の気持ちが脆弱な方へ舵を切ってしまう恐れがあったからだ。

 やがて一同は地下鉄構内の中でも一際拓けた広い場所に出た。そこには大量の瓦礫に押し潰されたり、無傷のまま埃を被った電車車両が何台か並んでいた。ディスプレーに映し出された地図と自分達の現在地とを照らし合わせると、彼らが立っている場所は車両基地の入り口であった。

 地下鉄内でも地下深い場所にあったおかげか、ユグドラシルの根は広い天井の一部を這う程度にしか存在しておらず、一部は落下してポッカリと穴が開いていたが、車両基地全体が崩落する心配を微塵も感じさせなかった。

「どうやら、目的地に辿り着いたようだね。そして入り口は……この奥ね」

 ヴェラを先頭にオリヴァー、スーン、トシヤの順に並び、あみだくじをなぞるように瓦礫に埋もれていない車両同士の間を通り抜けていく。途中、無傷の電車の横を通り過ぎる時にオリヴァーは感嘆を込めた口笛を鳴らした。

「こいつは凄い。純日本製の電車だ。亡国となって生産が止まった今、レア価値が急激に跳ね上がり、マニアの間じゃ涎が滝のように出るレベルのお宝モンだぜ。ここにあるヤツを全部オークションに掛けたら、数千億…いや、数兆ドルは固いだろうな」

「お、オリヴァー……!」

 気まずげに名を呼ぶ声を耳にし、振り返るとスーンがヘルメットの上から唇に人差し指を当てていた。その行為の意味が分からず不思議そうに首を傾げると、痺れを切らしたスーンは肩越しから小さく後ろを指示した。

 そこでオリヴァーは気付いた。電車の車体に触れながら、何か思うところがあるようにジッとそれを見上げているトシヤの姿に。ヘルメットのせいで表情は読み取れないが、彼の生まれ故郷である亡国日本の事を思い出し、感傷に浸っているのは明白であった。

「あー、その……トシ、すまない。無責任な事を言っちまって……」

 気まずさを覚えてマイク越しに謝罪を述べるオリヴァーだったが、意外にもトシヤから返って来た言葉は悲しみの要素は微塵も含まれていなかった。

「いえ、大丈夫です。日本が滅びたのは事実ですし、それも既に過去の出来事です。今更、気に病んでもいません。寧ろ、こんな状況下でも日本の何かが残ってる方が嬉しいぐらいですよ。よく無事だったなって……」

「……そうか」

 トシヤの内に渦巻く感情は、感傷よりも感動の方が勝っていたようだ。もしかしたら単に自分の気を揉ませない為の彼なりの気遣いだったかもしれないが、今はそれに甘える事にした。

 やがてあみだくじのような通路を抜けて、最奥に到達すると左手側のコンクリートの壁に扉を発見した。銀行に置かれた巨大金庫のようなハンドルが付いた分厚い鋼鉄製の扉を目にするや、スーンが声を上げた。

「ありましたよ、ヴェラさん! アレです!」

「ああ、見れば分かるよ。……スーン、これは誰でも入れるのかい? 日本国籍を持つ人間しか入れないとか、特殊なパスワードが必要とか、その手のセキュリティ機構は?」

「ちょっと待ってくださいね」トシヤから譲られた小型パッドを指先で操作し、やがて彼は顔を上げて左右に振った。「大丈夫です。特殊なセキュリティは設けられていません。そのハンドルを時計回りに回して引けば開きます」

「そう、なら良かった」

 扉の前に立ち、ヴェラは周囲を見渡した。入ってくる人間を捉える監視カメラや、特殊なパスワードを打ち込む暗証システムの類は一切見当たらない。

 一時は世界を牽引した国家が自国の威信に懸けて作り上げたにしては、随分と杜撰な作りだと思わずにいられない。仮にあったとしても、電気も通っていない状況下では無用の長物だし、今の自分達には寧ろ都合が良い。

「トシ、オリヴァー。扉を開けなさい」

 ヴェラから指名を受けた二人が扉の前に立ち、互いにハンドルを握り締めるのを確認し合うと同時に回し始めた。重々しい金属が擦れ合う音が響き渡り、ハンドルがゆっくりと回り始める。それが少し鈍重に見えるのは、長年使っていないせいでハンドルが錆び付いているからだろうか。

 やがて扉全体から歯車が噛み合う音が鳴り響き、それに合わせてハンドルの回転が止まった。どうやら開門の準備が整ったようだ。そして二人が同時に扉を引こうとしたが―――ガチャンッと金属質の拒絶が鳴り響き、分厚い扉が止まってしまう。

「何だ? 途中で止まったぞ?」

「奥で何か引っ掛かっているみたいですね。でも、どうして……?」

「二人とも、そのまま扉を掴んでて」

 スーンが僅かに開いた扉の隙間を覗き込むと、向こう側に黒光りした鎖が見えた。専用のロックチェーンではなく、只の長鎖環が向こう側の扉のドアノブに何重にも無造作に巻かれているだけだ。

「あー、内側のドアノブに鎖が巻かれてますね。それが原因で扉が開かないみたいです」

「内側? 何で内側に鎖なんかが巻かれているんだ?」

 そう言った矢先にオリヴァーはハッと息を飲んだ。鎖をドアノブに巻き付けるなんて人間にしか出来ない仕業だ。となれば、考えられる可能性は一つしかない。

「もしかしたら、向こうに人が居るかもしれないね……」

「この扉の向こうに……生存者が居るんですか?」

 ヴェラの呟きに反応したトシヤの声は微かに震えていた。そこには喜びも含まれていたが、それ以上に疑念が圧倒的に上回っていた。無理もない。滅んだ国で五年間も人間が生活し続ける……いや、生き続けているなんて困難どころか不可能に等しい。嘗て日本が政策として取っていた鎖国とは訳も違えば、状況だって大きく異なっているのだ。

 ヴェラも同じことを考えているらしく、「どうかしらね……」という呟きには懐疑の念が籠っていた。

「あの化物達が侵入してくる事を恐れて、扉を封じたまま放ったらかしにしているだけかもしれないね。もしかしたら扉の向こうでは、もう誰も生きていないかもしれない」

「まっ、どちらにせよ行って確認するしか方法は無いって訳だ。スーン、下がってろ。その鎖を焼き切る」

「分かった」

 立ち位置を譲る形でスーンが身を引くと、オリヴァーは今さっきまで彼が覗いていた扉の隙間に斧を差し込み、何重にも巻かれた黒い鎖の上に発熱した刃を置いた。刃の熱が鎖に伝導し、頑丈な鎖は熱したガラスのようにドロリと溶け落ち、金属音を奏でて地面に落下した。

 そして扉を開けると、橙色のライトに照らされた緩やかなスロープが待ち構えていた。ヘルメットに備わった望遠機能を用いても向こう側が見えず、かなりの長距離である事を物語っている。

 誰もが無言で不気味なまでに長いスロープの先を覗き込む中、真っ先に足を踏み入れたのはヴェラであった。

「行くよ」

 ぶっきらぼうに告げた彼女の命令に三人とも逆らえず、最終的には彼女に従事するようにその後ろを付いて行ったのであった。


 長いスロープを幾度と折れ曲がりながら更に下り続けているが、彼等は未だに目的地に辿り着けなかった。分かっているのは自分達が相当地下深くに進んでいるという認識で一致しているという事ぐらいだ。

 唯一幸運だったのは、扉が閉ざされ続けていたせいで例の化物に遭遇せずに済んだという事ぐらいだ。そして六度目のスロープの曲がり角に差し掛かった時、スーンはある事に気付いて恐る恐る全員のマイクに呼び掛けた。

「あれ? 何かおかしくないですか?」

「おかしいって……何がです?」

「いや、地下へ行くにつれて空気の温度が上昇しているんです。これって妙じゃないですか?」

「何だって?」

 スーンに言われて各々がサーモグラフィーを起動させると、確かに空気の温度が40度近くもある。アーマー内を循環しているジェルが体感温度を適温にまで下げていたせいで、周囲を取り巻く高温に気付けなかった。

 だが、この高熱は確かに妙だ。そう思ってセンサーの範囲を拡大させると、今自分たちが立っている階の真下から一層強い熱波をキャッチし、画面が高音を意味する赤で一杯になった。

「どうやら熱波は真下から来ているみたいですね」

「地下で高温か……嫌な予感がビンビンするぜ」

「ここまで来たんだ。行くしかないよ」

 ヴェラの言葉に全員が首を縦に動かし、スロープを駆け下りるように一同は走り出した。橙色のライトがコングのアーマーを照らし、装甲の丸みに沿って艶やかな照りを反射する。

 そして七つ目のスロープを曲がり切り、そのまま下っていくと天井と同じ高さの防火扉が待ち構えていた。サーモグラフィーで確認すると、扉が最高温度を意味する白色に染まり切っており、嫌な予感が四人の頭の中で擡げる。

 ヴェラが自分とオリヴァーを相次いで指差し、最後に親指で防火扉を指した。彼女のハンドサインを理解し、了承したオリヴァーは防火扉の片側に立ち、扉に備わった半月状の引き手に指を差し込んだ。

 もう片方側に付いたヴェラが三本の指を立て、一つずつゆっくりと折り曲げていき、最後の一つが折り曲げられて握り拳ゼロになるのと同時に二人は扉を引いた。扉は巨大な見た目に反して軽く、少し前の鉄扉に比べるとスムーズに開いた。

 そして扉が開くと、高温を孕んだ黒煙が爆発にも似た激しい気流に乗って、四人に押し寄せてきた。もしも彼等がアーマーではなく無防備にも等しい装いをしていれば、煙に巻かれた瞬間に全身隈なく焼け爛れていたに違いない。

 墨のような真っ黒な煙に揉まれている間はサーモグラフィーも通常映像も使い物にならず、黒煙が自分達を通り抜けるまで只管待つしかなかった。やがて激しい気流が収まると、彼等は正面を見遣った。


 彼女達が出た場所は、地下に築かれた都市の大部分を一望出来る見晴らしの良い場所だった。しかし、見晴らしが良くても目の前に広がる光景は地獄そのものだった。

 建物という建物が炎の赤で染まり切り、地下都市のほぼ全体を激しい業火の中に沈めていた。舞い上がった黒煙で出来た暗雲が天井を支配し、分厚いコンクリートの天井に代わって街を見下ろしていた。

 地下都市を襲っている大火に誰もが言葉を失う中、何かに気付いたトシヤが慌てて声を上げた。

「ヴェラさん! 聞こえますか!? この声が!?」

「声?」

「人です! 人の声が微かにするんです!! 地下都市の方から!!」

 そう言われて音声センサーを起動すると、トシヤの言う通り地下都市の方角から微かながら人間の声がキャッチ出来た。この世の終わりを体現するかのような阿鼻叫喚の悲鳴と共に、聞きたくない『奴等』の遠吠えも混じっていた。

「ど、どうするんです!? 滅茶苦茶危険な状況じゃないですか!? それに化物も居るだなんて……! この上なくピンチですよ!?」

「何言ってるんだ。そんなの今更だろうが」

 慌てふためくスーンにオリヴァーが飄々とした口調で突っ込むと、ヴェラも彼の台詞に乗っかった。

「そうだよ。今の日本に安全な場所なんて無いんだ。だけど、そんな場所で生存者が居て、彼等と会えるかもしれないと分かっただけでも、幸運と思わなくっちゃね」

 そう言いながらヴェラは刃毀れを起こして草臥れた刃を斧から切り離し、刃の付いていない棒切れとなった斧の柄を左腰の鞘へと突っ込み、新たな刃を装着させた。斧そのものに不具合がないか様々な角度から確認し、最後に己の顔を反映する磨き抜かれた刃の側面を見詰めながら満足げに頷いた。

 その動作だけで彼女が何をする気なのか一目瞭然なのだが、敢えてトシヤは尋ねた。

「助けに行くんですか?」

「当たり前でしょ? アタシは危機に瀕した人間を放っておくほど、腐っちゃいないよ」

 文句あるのかと実際に口に出さなかったものの、フルフェイス越しから鋭い視線を投げ掛けられているような気がして、トシヤは大人しく「分かりました」という返事だけ返した。

 他の二人もヴェラの為人を理解しているからか、何の疑問や文句も言わず黙々と新たな刃を装着し直していた。そして全員の準備が終わるのを見届けると、ヴェラ達は脇にある階段を下り、燃え上がる都市に足を踏み入れた。

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