Blue Moon

@kirisamemizu

#1 蒼い月


蒼い月。それは人々の前に滅多に現れない月。

幻想的に蒼く光るその月に、こんな言い伝えがある。

『蒼い月の力は、全ての希望の光となり、全ての世界を視る。』

そうかつて月の女神が唱え、世界を救った。

だが―その裏には当然、争いの絶えない世界もあった。

世界を救った女神は、その争いに耐え切れず消えた。

女神は消える直前、こう呟いた。


『私が消えても、この世界には私の生まれ変わりがいます。

その子達に力を託しましょう。』


その後、蒼い月は現れなくなった。

もしも女神の言う通り、

その人物が、蒼の月の力を託されていたとすれば、そのときは―。


そして時は、現在に戻っていく。





ここは誰かの夢の中。

ぼんやりとした視界の中で、彼はただ一つ。

『彼女』の存在を視ていた。


『待って……!!待ってよ、アオイ!!!』


アオイと呼ばれた蒼髪の少女は、表情を隠しながら、

くるりと振り返った。


『ごめんね。ありがとう。』


アオイが白い光とともに消えていく。

その光の中で、ただ一筋の涙を流していたのを、

彼は手を伸ばしながらも見ていた。




「待って!アオっ……。」

そこまで叫んだところで、自分はようやくそこで

夢から覚めていた事に気づいた。

当然、あの彼女はいない。

もう何度目の同じ夢だろう。

握り締めた拳を広げて見つめた。

「また……夢、か……。」

ぼんやりと時計を見ると、針は8時を指していた。


そういえば今日は何かあったような気がする。

思い出せないけど、早く起きないと。

重い身体を起こして、彼は部屋にかけてあった

茶色の帽子とマントと水色の服とズボンに着替えた。


彼の名前は「リュウ」。

茶色の帽子とマントがトレードマークの15歳。

10歳のときにある事件に巻き込まれ、

それ以来親代わりと師弟関係となったナギ師匠と旅をしている。

…なんのための旅なのかよくわかってない。


「おーい。起きたか、リュウ。」


コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

聴き慣れた師匠の声だ。


「あ、はい。起きてますよ。」


それを聞いたナギは部屋に入ってきた。

師匠ということだけあって、漆黒の帽子とマントと

格好もリュウと似ている。


「……寝れたか?最近寝れてないみたいだったからな。」


そう言われてリュウは小さく笑う。

「…そう、ですね。今日は割と寝れた方ですね。」

「それならいいがな。

人間睡眠っつーのは、一番の資本だからな。」

そう言われて安心するナギ。

「よーし、朝飯行くか。」

「はい。」


二人は階段を降りると、

1階のテラスで朝食をとることにした。


テーブルには、美味しそうなパンと目玉焼きと新鮮なサラダが並んだ。


「「いただきまーす」」


お互いそう言うと、もぐもぐと食べ始めた。


「今日は珍しく食欲あるんだな、お前。」

ナギがリュウにそう言う。

リュウはパンを口に運びながら

「ふえ?しょうでふか?(え?そうですか?)」

その口ぶりにナギが思わずぷっと笑いがこぼれる。

「お前な、飲み込んでからでいいんだぞ。

……まあ、これなら大丈夫そうだ。」

「ごくん。な、何が大丈夫なんですか?」

するとナギの目が急に真剣なものに変わった。


「お前に大事な話がある。」


朝食が終わり、ナギは一体一でリュウと話すことにした。

「―で、なんですか?大事な話があるって。」

「リュウ。『蒼い月』の話は聞いたことがあるか?」

そう言われ、リュウはどんな話だったか思い出す。

「確か……月の女神様が世界を救ったって話ですよね。

あれ?でもあれって結局消えちゃったような……。」

「そうだ。女神は消えた。『女神』は、な。」

その言葉に、リュウは首をかしげる。

「どういうことですか?」

「あの話の最後に、「この世界に生まれ変わりがいる」って書いてある。

本当かどうか今まで分からなかったが、どうやら生まれ変わりは実在するらしい。」

「はあ……。」

リュウの頭の「?」マークは消えない。

それがどう自分に関わってくるのか、分からなかった。―次の言葉を聞くまでは。


「リュウ、お前は覚えてるはずだ。『アオイ』という少女を」

「!?」


リュウの目が思わず見開かれる。


「どうして……どうして彼女の名前が出てくるんですか?

あの子が生まれ変わりだとでも言うんですか…?だいたい彼女は…!」

「そうだな。彼女はもう『いない』。

だが……知っているか?もう一人、彼女に妹がいることを。」

「妹?」

「妹はまだ13歳だ。そして、アオイの妹ならその血筋だ。

蒼い月は人々の欲望に傷つけられる。

もしもそれが本当なら、次は彼女が狙われるだろう。」

「もしかして……その子を守るために僕を?」

ナギは静かに頷いた。

「僕に……僕にはできないですよ。

だって……だって僕には誰かを守るなんて……!!」


あの子だって守れなかったのに?

「……確かに、お前はあのとき守れなかった。

でも、それをひたすら泣いて後悔したなら、

今のお前ならきっとできる。その証拠に……。」

するとナギは、リュウの腰のベルトのホルダーに指さした。

「今ならそいつは、おもちゃにならねえだろ?」

そう呟いて、ナギはリュウのホルダーからリボルバー式の拳銃を取り出した。

「……!!」

「護身用のつもりが、すっかりお前の武器になっちまったな。」

ナギはリュウに銃を渡す。

「頼むぞ。」

「……はい。」

リュウは頷いて銃を受け取った。


ここからが彼の始まりだった。

アオイの妹を捜すため、リュウの旅が始まった。

―しかしこれが喜劇と悲劇の始まりであることはまだ。

誰も知らない。






#2に続く。

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