第5小節ー声を失いし者

「いらっしゃい。」

奏人さんは店内に戻るとすぐに地下に行ってしまった。

まだ一階しか見てないから、何があるのかはわからない。

「弦さん、健さんに会うの初めてだよね。彼はあのCindrillon《サンドリオン》のボーカルだよ。」

琴音ちゃんが教えてくれて思い出した。

Cindrillon《サンドリオン》は、海外でも活躍しているヘビメタバンドだった。

ボーカルとベースを担当してた目の前の健さんは、三年前病気によって声を失ってしまった。

その後すぐに何が原因かはわからないが、Cindrillon《サンドリオン》は喧嘩別れのような感じで解散してしまった。

「道理で見た記憶があると思ってたよ!」

【元、だけどね。初めまして、げんさん。良ければ、名前の字を教えてもらえますか?】

少し寂しそうな顔をしてホワイトボードを見せている。

「ギターとかベースの弦の字です。」

【ありがとう。これからよろしくお願いしますね。弦さん。】

笑みを浮かべて、俺がホワイトボードを読んだのを確認して次の文章を書いた。

【しかし、面白い組み合わせだな。】

「面白いのです?」

【ここで働いてる人達みんな音楽関係の名前なんだもん。特に奏人君以外楽器とかだし。】

「「…確かに。」」

琴音ちゃんとハモって反応し、彼女と目があって笑ってしまった。

「ベース持ってきたよ。…ん、どうしたの?」

二人で笑っていた理由を知らない奏人さんは不思議そうにしながら台に健さんのベースを置いた。


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