第4小節ー楽器屋のバイト初日

楽器屋blessに着いて、制服という名のエプロンをもらった。

動きやすいジーンズとTシャツでいい、らしい。

今まで仕事といえばスーツだった俺にとっては、動きやすい反面、きっちりしていない感じがしてしまう。

「おはようございまーす。」

「おはよう、琴ちゃん。」

胸元まである長い茶色い髪をふわっと巻いたおしゃれな女の子が現れた。

「おはようございます。」

「……新顔?」

「そう。弦ちゃんっていうの。仲良くしてね。」

奏人さんが軽く紹介してくれた。

「私は万里野琴音まりの ことね。よろしくね。」

「鶴巻弦です。こちらこそ、よろしくお願いします。」

少し甘えたような声のよう。

鈴迦ちゃんとは真逆な声色だ。

見た目は鈴迦ちゃんと同じくらいだろうか。

「今日も元気にいってみよー!」

奏人さんが号令をかけるも、誰も返事をしなかった。

俺は返事をしたかったが、琴音ちゃんに布巾2枚とモップを渡されたからできなかった。

「早速だけど、これも仕事だから。まずはそこのショーケースを拭いてきて。外側はこっち、内側はこっち。それが終わったら、床のモップがけしてね。」

「はい。」

外に出てショーケースの外側を拭く。

大通りに面していて、華やかなショーケースが並ぶ中のトランペットのこのショーケースもオシャレに見える。

ただ、古いのかガラスが黄色味がかっていて拭けど拭けど一向に透明にならない。

「困ったな。」

「必死に拭いてたけど、そんなに汚れてた?」

店内から奏人さんが出てきた。

「なかなかガラスの黄色味が取れなくて……どうしましょう?」

奏人さんは笑った。

理由がわからないので、眉をひそめていると彼は片目を閉じて言った。

「このガラスはもともとアンティーク調に仕上げてもらってるから、古くて汚れてるように見えるだろうけどそれが普通の状態だよん。」

なるほど、確かに上の太陽光が当たらないひさし部分まで薄く黄色味がかっている。

拭いていた時には気づかなかった。

「ピカピカになったよ。ありがとう。次は中かな。」

中に入る前に、今日最初のお客様がいらっしゃった。

ストレートの長い黒髪を首元で一束にした、黒いライダースジャケットがとても似合う男性。

……どこかで見たことのある顔だ。

「ああ、健ちゃんいらっしゃい。頼まれてた修理、できてるよん。」

小さなホワイトボードに文字を書いている、奏人さんに健ちゃんと呼ばれた人。

【ありがとう。】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る