第3小節ー朝食を囲む

リビングから玄関に一旦戻って、階段を上る。

「一番奥の部屋が空き部屋だよ。それから、こっちの扉はあの子の……鈴迦すずかの部屋だから。」

鈴迦ちゃんというのか。

ここに来た時に小さく悲鳴をあげて逃げていった、奏人さんの従妹さん。

「じゃあ、おやすみ。」


持って上がってきた布団一式を床に置く。

一日のうちにめまぐるしく全てが変わってしまった。

明日からバイト生活だ。

たくさん覚えなくちゃならないだろうな…。

とことこと足音が聞こえる。

きっと鈴迦ちゃんが階段を下りているのだろう。

「……なんだか、疲れたな……。」

布団の中で目を閉じ…布団の暖かさですぐ眠りに落ちていった。


目が覚めて、リビングに下りると奏人さんと鈴迦ちゃんが朝食を摂っていた。

小さく悲鳴をあげてまた逃げようとする鈴迦ちゃんを、なんとか奏人さんが宥めた。

長く伸びた綺麗なストレートの黒髪で、箸を持つ手は色白だ。

おそるおそる髪で作った壁をかきあげ、耳に挟んだ。

色白であることは手を見てわかっていたが、紅い唇と真っ黒な瞳が印象的な子。

「……私、に、何かついてます、か?」

凝視しすぎた。

「いや、目が綺麗だなって。」

「そうそう。鈴は綺麗な目なんだよね。髪も短い方が良さそうなのに。」

「……。」

少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべてる。

「ふふ。……そうだった、鈴、今日からこの人…名前なんだっけ?」

鶴巻弦つるまき げんです。」

「ああそうそう、弦ちゃんバイトで入るからよろしくね。」

「……! よ、よろし、く、お願いします。」

「鈴は裏で事務作業してる事が多いかな。こっそりドラム叩いてる事もあるけど。かなり上手いと思うよ。」

「……聞かれてた……。」

恥ずかしそうに顔を覆って頭を振る彼女の仕草が可愛かった。

こう見ていると、さっき逃げようとしたのが嘘のよう。

小さくて、少し太めの声。

「……私、より、もう一人の方、に、聞いた方が、いいかも。たぶん、琴さんの、アシスタント、でしょ?」

「ああ、そうだね。……っと、それから、今更だけど履歴書書いといてね。」

俺の目の前に出されたまっさらな履歴書。

「帰ってきてからでもいいしね。」

「はい。」

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